7 「おかえりー」
幼馴染登場。
「あっ、忘れてた!」
ふと昔のことを思い出しながら手を振っていた俺に、母はそう声をあげるとパタパタと駆け足で戻ってきた。
「何? 忘れ物?」
「うん。たー君が作っておいてくれたスープ、とっても美味しかった! いつもありがとー」
にこっと笑みを浮かべる母に、俺は首を傾げる。
「……それだけ?」
「それだけ、じゃないよ。大事なことだもの。あ、やば。本当に遅れちゃう。じゃあね」
腕時計を見て、母が慌てたように踵をかえす。そしてついでのように振り返り言った。
「あ、それとみんなもう来てるよ? お腹すかせてるから、早く行ってあげてね。じゃ、今度こそ本当にいってきまーす!」
そう言って今度こそ本当に母は小走り気味に駆けていった。
今、俺は父の倫太郎と母の凛子の三人暮らしだ。
色々あったが、二人が俺の両親であることに何の不満も疑問もない。
というか顔も名前も知らん父親を父とは思えんし、実母の文乃は万が一顔を見せた日には赤の他人の振りをすることだろう間違いなく。
俺の両親は、倫太郎と凛子の二人だけだ。
ちょっと親としては頼りないとこもあるけどな。
父は変わらず保育士として慌ただしい日々を送っている。
ドジなところがあるので生傷が絶えないのが心配でもある。
母は看護師として熱血に仕事をこなしている。
もう年なので少し落ち着いてほしい所だが、口に出したらはっ倒されそうなので絶対に言わない。
俺はそんな仕事に忙しい二人の助けになればと家事のほとんどを請け負っている。
我ながら家事の腕前は今ではプロフェッショナルの域に達してるんじゃないかと思うレベルだ。
しかし、俺がそうなったのは別段親だけのせいではない。
買い物袋を抱えなおすと、俺は玄関から家に上がった。
そのままリビングに顔を出すと、そこでくつろいでいた奴らがいっせいにこちらを向いた。
「「「「おかえりー」」」」
そして、声をそろえてそう俺に声をかけた。
……仲いいな、おい。
「ただいま……っつかお前ら、たまにはまっすぐ自分の家に帰ろよ」
「えー」
「別にいいじゃん」
「……メンドイ」
「ここが一番ガッコ近いネ」
ブーブーと返ってくるブーイングに俺はため息を吐く。
揃いも揃って制服のまま寝っ転びんだり座り込んだりしやがって。
誰がアイロンかけると思ってんだ。
ただそれ以上言っても無駄なので、さっさと切り替えてリビングと対面式のキッチンで買ってきたものを袋から出してると、奴らは次々と注文を出してくる。
「隆文、茶」
「お腹空いたわ」
「甘いもの食べたーいデース」
「……ガッツリ」
「ちったー手伝え! 出来んのなら、少しは黙って待ってろ!」
俺はそう怒鳴った。
怒鳴った相手は、俺の手のかかる同い年の幼馴染どもだ。
俺の家事の腕が上がったのは確実にこいつらのせいでもある。
「「「「まだー?」」」」
「しつこい!」
俺はお前らの母ちゃんじゃねーんだよ!
個別紹介は次回より、です。