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6 「ずるい!」

親子の過去編これにて終了。

 看護師の凛子さんはとてもてきぱきとしている、元気な女性だった。


 明るいし、ハキハキしている。


 仕事の手際も良く、患者からも医師や他の看護師からも信頼され慕われているのが傍から見ている分でもよくわかった。


 母はおらず頼れる身近な親族もなく、入院した父親の面倒見ている小学生の息子。


 それもあってか、凛子さんは俺をより気にかけてくれた。


 倫太郎ともよく会話をし、徐々にプライベートな情報も交換するようになった頃……。



「ずるい!」


 凛子さんはそう声をあげた。


 それは、倫太郎と俺が血の繋がらない父子でその経緯を語ったくだりのあたりであったか。


 よく知り合って日も浅い赤の他人にそこまで打ち明けたものであったが、正直それは凛子さんの人柄がなせる所が大きかったと思う。


 まあ倫太郎がその辺まったく隠そうと思っていないのもあるだろうが。


 そして、よくある社交辞令の「本当にいい息子さんね」という凛子さんの言葉に、倫太郎はデレデレと「本当に本当にいい息子なんです」と親馬鹿この上ない発言を返した。


 その後も滔々と語られる親馬鹿発言の連発に俺は思わず遠い目をした。


 ここで否定や訂正、もしくは倫太郎の発言を無理に止めようとすると「隆文は自分の価値をわかっていない」「本当に隆文は僕にはもったいないくらいの自慢で良い子な子供なんだ」と倫太郎の親馬鹿熱に拍車をかけることになるのは経験済だ。


 そしてそれを見ている人の目がますます生暖かいものになるのも……。


 俺は空気、俺は空気、と念じて黙して語らずが一番なのである。


 何がって?


 もちろん倫太郎の親馬鹿発言が収束する時間がだよ。


 そして、その時も当然そうなるかと思った。


 だが、最初はにこにこ話を聞いていた凛子さんであったが、段々と険しい顔つきに変わっていき……、突然切れた。


 しばらくは頑是がんぜない子供のように「ずるいずるい」と繰り返していた凛子さんだったが、呆然とする俺と倫太郎にはっとすると、言葉を濁すと退室していった。


 理由が判明したのは、その数日後のことである。


 勤務時間にする話でもなかったと、非番の日に凛子さんは病室にきて訳を話してくれた。



 凛子さんは子供の頃から看護師になるのが夢だったとのこと。


 望んだとおり夢を叶え、仕事に励んだ。


 気がついたら四十の声も近づき、結婚する見通しもない。


 ……凛子さん外見年齢若え。軽く十は下に見える。


 望む相手がいて結婚するならともかく、結婚の為の結婚はしたくはないしうまくいくとも思えない。


 仕事は充実しているし、生き甲斐でもある。


 自分の選んだ道に後悔はないが、このまま年をとって、一人なのも寂しいと感じる時もある。


 せめて子供がいれば、と頭を過ることもあり、何を詮なきことを、と自重する時もあった。


 そんな微妙なお年頃(?)でモヤモヤしている時に現れた倫太郎と俺。


 普通の親子かと思いきや、血の繋がりがないという。


 親子関係は血がすべて、とは思わない。


 だって、実際に自分が欲したものがそこにある。


 自分だってこんな息子欲しい。


 具合が悪い時に面倒みてくれて、全力で愛情を傾けられる息子が。


 そんな自分が欲してやまないものを手に入れた倫太郎はずるい、と。

  

 そして、その感情が爆発した、と。



 謝罪し項垂れる凛子さんに、俺は思わず言った。


「あの、じゃあ今からでも結婚して赤ちゃん産んだら……?」


 その言葉にまた凛子さんが切れた。


「だから! 相手がいないの! 結婚しても子供が絶対に生まれるとは限らないし! 生まれても隆文君みたいな子供が生まれるとは限らないし! 私は隆文君みたいな子供が欲しいのー!」


 ……と、言われましても……。


 しかし困惑する俺と異なり、倫太郎は事も無げに言った。


「わかりますわかります! 子供なら誰でもいいわけじゃないですもんね! その気持ち、すごくよくわかります。でもじゃあどうぞ、と隆文を譲ることもできませんし。あ、だったら僕と結婚しますか? 文隆の母親の席、今空いてますけど」


 いや倫太郎よ。そんなレストランの「今でしたらお席空いてますよ」みたいな軽いノリで言うセリフじゃ……。


「する!」


 するんかい!



 こうして俺には血の繋がりのない義父倫太郎と義母凛子が出来たのである。






 正直わけわからん。  


次回幼馴染登場、予定。

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