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5 「かわいい息子さんね」

お待たせしました。

 義父倫太郎との二人きりの生活は、実母文乃との二人きりの生活よりも再婚後の三人の生活よりも遙かに穏やかなものだった。


 母よ。


 あんたどんだけトラブルメーカーだったんだ。


 実際よくよく話してみると、倫太郎にとっては母のおまけで俺がついてきたのではなく、その実逆だった。


 保育園に預けられた俺の、その母である文乃を見て、俺が特に気にかかるようになり、心配になり、放っておけなくなったと。


 特別に俺を見て保父として世話をしているうちに、いっそ本当の親になって面倒をみたいと思うまでになったと。


 それほどに、文乃の母としてのレベルにアレなものがあったらしい。


 保育士でしかない倫太郎に、家のことまで口を挟む権利はない。


 しかしどうにも見て見ぬ振りができなくなって、でなんだかんだで結婚まで漕ぎ付けた、と。


 放置したら俺がいつか死ぬ、と思ったらしい。


 いや、虐待されたことはないんだけどな。


 うっかり転んで手にしてた包丁が飛んで来たりフライパンに大量の油を投入して危うく火事になりかけたり積み方が悪くて崩れた布団で圧死しかけたことはあるがな。


 しかし、それでも普通赤の他人の父になりたいとは思わんだろう。


 そこまで思わせた俺がすごいのか、そこまで至らせた母がやばいのか。


 つまりは結婚相手のおまけで子供がついてきたのではなく。


 子供の親になりたいのでおまけで妻がついてきた。


 だからおまけの妻がいなくなってもまあかまわない、と?


 倫太郎よ。


 それは人として何かが違う。


 俺のまわりの大人がたまたま何か欠けてるのが集まったのか。


 それとも大人とはこんなものなのか。


 その問いには今でも答えは出てはいない。



 とにかく経緯はともかく、俺と倫太郎は父子になったわけだ。


 文乃ほどではないが倫太郎も十分不器用だった。


 料理をすれば焦がすし指を切る。掃除をすれば物を物を落とす。洗濯をすれば色落ちや色移りさせるような洗い方をする。


 文乃は料理をすれば食中毒、掃除をすればクラッシャー、洗濯すればボロ雑巾化、だったけどな。


 やろうとしても無理だろ。あれも一つの才能か? いらん才能だな。


 まあそれはそれとして、倫太郎には養ってもらってる身ではあるし役割分担は大事だよな、と俺は家事に精を出した。


 もともと文乃のせいもあって、基礎はできている。


 できなければまともな生活などできない環境だったしな。


 人間、習うより慣れろとはよく言ったものだ。


 なので俺は小学生にして家事のプロフェッショナルになった。


 もともと適正があったものあるんだろうがな。



 そんな何でもない日々が過ぎていき、俺が小学五年になった時のこと。


 倫太郎が寝ぼけて階段から転げ落ち、病院へと運びこまれた。


 診断は左足の骨折。


 知らせを受け病院へ駆けつけた俺が、懇々と項垂れる倫太郎に説教をくれていた時、病室に入ってきたのが看護師の凛子さんだった。


「あら、かわいい息子さんね」






 それが、未来の義母となる凛子との初めての出会いだった。



次回もお願いします。

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