3 「真実の愛に出会ったんだ」
サブタイ、これしか抜き出せるものが……。
俺は二維隆文という名前だが、生まれた時からこの名前だったわけではない。
正確に言うと、名字が違う。元の名字は知らないが。
俺が生まれて一年位で実の父親が、「真実の愛に出会ったんだ」と言って俺と母を置いて家を出て行ったらしい。
そんなもんに出会って無責任にあっさり捨てんなら簡単に妻子なんかつくんな、という話だ。
実際母は荒れに荒れ、実の父の写真や思い出になるようなものを一切合切捨て去ったというので、俺は実の父親の顔も知らない。
その話題に出すだけで、母が恐怖の大魔神降臨となったので父の名前や実家も知らない。
物心ついたくらいの頃、母に実の父親のことを尋ねた時の形相の変わりっぷりは、トラウマレベルだマジで。
母の名前が文乃だったので、恐らく隆文の隆の字が名前にあるんじゃないか、とは思ったことはあるがそれも定かではない。
調べればわかるだろうが、戸籍調べたこともないしな。
そんなこんなで生後一年にして俺の家は母子家庭となったわけだ。
もちろん、その頃の記憶は俺にはない。
結果母一人子一人となり、母文乃は働きに出ることにした。
働かなければ食ってはいけない。
しかし幼児がいては働いてもいられない。
そこで俺を預けることにした保育園で保父として働いていたのが今の俺の義父、二維倫太郎だった。
どういった経緯があったか知らんが、その二年後、倫太郎は母と結婚し俺の義父となった。
義父の倫太郎は、穏やかな人柄だった。
血の繋がらない俺に、とても優しくしてくれた。
一歳で実の父が去り、三歳で倫太郎が義父になったのだ。
実の父だと言えば疑いもしなかったろうに、倫太郎は俺にはきちんと血の繋がった実父がいることを教えた。
それは、とても大切なことだから、と。
まあ母が激怒するから内緒にこっそりと、ではあったが。
しかし、倫太郎のその幼児であっても一己の人間であるという教育方針は素晴らしいとは思う。
大切なことは大切として、真実を語る。
それは間違いなく正しいことだ。
きちんとその時機を見極められるのであれば。
だって考えてもみて欲しい。
大切なことだから、本当は秘密にしてあることだが教えるので、そっと心に留め置いてほしい。
そんなこと、三歳児にできるわけがない。
俺はそんな天才児ではない。
その結果、実父の存在をうっかりそれを母に尋ね……うん、悪夢の再現は止めておこう。
しかし、俺は疑問に思う。
そこまで実父の身勝手な行動に腹を立てておきながら、どういうことだ。
あれは俺が小学校にあがって間もなくのこと。
ある日学校から帰ると、母がいなかった。
机の上には離婚届けと一枚の手紙が置いてあった。
――――――――――――――ごめーん。本当にやりたい夢見つけちゃった。だから家を出ていきまーす。隆文のこと、よろしくね。隆文も元気でね!―――――――――――――
その身勝手で罪悪感や謝罪の気持ちが一切こもってない手紙を手にしたまま、俺は思った。
似た者夫婦じゃねえか!
次回は取り残された義父と隆文の回、です。