2 「たー君! お帰りなさいっ」
おかしい。幼馴染登場までなかなかいかない。
放課後身の回りを片付けるとさっさと学校から帰宅する。
その際生徒会長から預かったUSBを忘れないよう鞄にしまい込む。
生徒会には属しているが、滅多に生徒会室に行くことはない。
行っても役には立たないからだ。
あの会長の仕事ぶりについていける気はしない。まったくない。
なぜ自分が副会長なのだろうかと思わなくもないが、心当たりがなくはない。
思わず鞄の中のUSBを見るが、益体もないのでさっさと意識を切り替える。
「おー、二維もう帰んのかー?」
「ああ、また明日な」
「おう、じゃあな」
途中クラスメイトと挨拶を交わし、さっさと玄関へと向かう。
向かうべきは自宅……ではなく近所のスーパーだ。
一旦自宅へ戻ってからでもいいのだが、そうすると遅くなってしまう。
遅くなると、手際よく回ることができなくなってしまうのだ。
何をかって?
それは、もちろん本日のタイムセールに決まってる。
必要な物はタイムセールの品だけにあらず。
なのでスーパーで最初に必要な物を選択し、最後にタイムセールのお得品をゲットし帰宅する。
良い物を出来るだけ安価に手に入れる。
節約、それは素晴らしい響きだ。
ケチ臭い?
限りある収入を効率よく無駄なく消費することのどこが悪い。
俺の家はどこぞの金持ちとは違うのだから、当然のことだろう。
学校帰りはその日のお買い得品を求めてチラシは念入りにチェック。
これが俺の日課だった。
今日もお買い得品を手際よく手に入れた俺は、ほくほくと自宅へ戻る。
片手に学生鞄、片手に買い物袋(もちろんエコバックだ)をぶら下げて、自宅の門を開けた所で、勢いよく玄関の扉が開いた。
出てきたのは、一人の女性。
「あ、たー君! お帰りなさいっ」
その人は俺を見るなり、にこっと微笑んだ。
「でもごめんねっ。もう行かなきゃ。夜勤に遅れちゃう!」
「うん。気をつけて行ってきてね。……母さん」
「うん! 行ってきまーすっ」
そう言って全開の笑顔で手を振って出かけて行ったのは、俺の母の凛子である。
正確には、血の繋がらない義理の母、であるが。
次回はたー君の過去、の予定。