1 「何か御用でしょうか」
サブタイトルはセリフ抜き出しに決めました。
「二維副会長」
呼び止められて振り返ると、そこには絶世の美少女がいた。
「会長」
「ごめんなさいね、呼び止めて。今少しよろしいかしら?」
「はい、もちろんです。何か御用でしょうか」
「いえ、たいしたことではないのですけれど。こちらのUSBを書記の方達に渡して頂けるかしら。内容についてはそのUSBの中に入っておりますので」
「はい、お預かりします」
「よろしくお願いしますわね。ではこれで失礼致しますわ」
「はい。わざわざ足をお運び頂きありがとうございました」
俺は軽く頭を下げると、ゆっくり優雅に歩み去るその美少女の背を見送った。
その美少女の名前は御加賀見千草。
私学である御加賀見学園の創設者の御息女であり、自ら会長職を務める才色兼備の美少女。
流れる黒髪も美しく、その容貌は下手な女優やアイドルとは比べ物にもならない、世が世なら傾国と称されてもおかしくなほどの美しさ。
また知性も兼ね備えたまさに完璧な超人。
その彼女と応対する際は、同い年にも関わらず自然と背筋が伸び、敬語になってしまうのも当然。
本来なら接点さえも持ちえない遙か高みにいる深窓の御令嬢。
それが今や会長・副会長と呼び合う間柄である。
本当にこの世の中はわからない。
契機はこの御加賀見学園に入学したことから始まる。
家のすぐ横のエリアが一斉に買収されいきなり学校の建築が始まったのにも驚いたが、その新設された高校の案内を見た時はもっと驚いた。
新設の学園の入学募集要項には、何故か異様に狭い特別区域限定で、入学金免除・授業料半額という特典があったのだ。
また、恐ろしいほどの好条件な設備の充実もあり、俺は一発でこの高校へ進学を決めた。
運良く合格を手にすることができ、喜び勇んで入学した俺に、思いもかけない任命が下った。
会長直々の指名による副会長への任命である。
新設校ゆえ、すべてが一年生。
なので通常は二年・三年がなるであろう生徒会役員も一年がなることは疑問にも思わなかった。
が、なぜそれが自分なのか。
疑問はそれに尽きる。
正当な理由があれば断りことも可、とは言われても実質断ることは不可能だった。
あの、御加賀見会長の前に出されれば、まるで蛇に睨まれた蛙のような心境に陥る。
美少女は遠くから見ているだけで十分だ。
会長と接しているとつくづくそう感じる。
いや、会長の前に立たされると冷や汗や脂汗や変な汗が噴き出すのは美少女だからというだけではないようにも思えるが。
よく会長のそばにいる、幼馴染という男子生徒が何故あんなに普通でいられるのか常々不思議に思っているくらいだ。
というより、むしろ迷惑がっているというか面倒がっているというかの表現がしっくりくるようなあの、確か辰巳と言ったか……。
どちらにしても、その見た目とは裏腹に心底すごい奴だと感心しているのだ。
あの会長相手に、その態度を貫き通せるその肝の太さがすごい。
ある意味会計の幸広もすごい奴だが、あいつはあいつで会長と同じ特別な人間と括られるタイプだからな。
正直俺は、御加賀見会長を苦手に、……かなり苦手に、……心底苦手に感じている。
役職の関係性がなかったら、そばに寄るのも極力敬遠しそうである。
しかしもう一度言うが、何でか会長と副会長の間柄。
…………何故だ。
次回もお願い致します。