15 「私、かわいい?」
お待たせしましたー。
瞬間現実逃避しそうになったが、俺は泣いている女の子とかたまっている孝臣の手を引くと、用意されている興家控室へと向かった。
抵抗されたらホテルの人に任せようかなとも思ったが、意外なことに女の子は俺が手を引くままついてきてくれた。
落ち着いたら今回は俺だったからいいけど、知らない大人の人にはついていかないように言い聞かせておかないと。
孝臣にはプラス人を激高させるような態度を改めるように教育的指導を追加、と。
控室に入った俺は、女の子をソファに座らせると、孝臣に言ってホテルの人に必要なものを用意してもらう。
必要なもの?
そりゃもちろん、染み抜きの道具である。
幸いドレスの生地やかかったジュースの内容が幸いして、今なら十分に染み抜き可能な状態にある。
ものによっては完全にアウトだったので本当に良かった。
ホテルの人に任せてもいいけど、孝臣の失点を回復させるにはできるだけ自分で穴埋めしておいた方が良いはずだ。
もちろん孝臣の為ではなく孝臣父母の為に。
この子が孝臣父母の仕事上でどういった関係にあるかわからんが、下方修正は早めに対処するに限る。
そして、俺はこの状況に最適な腕を持っている。
染み抜きのプロと言っても過言ではない。
我が家にはしょっちゅう汚しては元通りにしろと無茶ぶり言ってくる奴もいるし。
おかげでスキルアップに余念はないのだよ。
と、ここで孝臣が手にその道具を持って戻ってくる。
それを受け取りつつ、今度は温かいホットミルクを用意してもらうよう指示を出す。
人間、温かい飲み物を飲むと落ち着くものさ。
甘さはお子様向けということで。
孝臣は己に責がある自覚があるせいか、こくりと頷くとパシリよろしく駆けだしていった。
「じゃ、これきれいにとっちゃおうか」
「……きれいに、なる?」
しばらく邪魔をせずに気が済むまで泣かせておいたせいか、その女の子はだいぶ落ち着いた様子でそう尋ね返してきた。
「うん。まかせて」
トントントンと手際よく染み抜きをしていく。していきながら、女の子に話しかけてみた。
「ほんと、ごめんね。あいつも、悪い奴じゃないんだけど、まだガキだからさ。かわいい女の子見てからかいたくなちゃったんだよ」
フォローをしつつリップサービスもまぜてみる。
しかし俺はいったい何なのだ。
俺も孝臣と同じ年のガキでしかなにはずなのに、この保護者感。
解せぬ。
「かわいい……」
その子は軽く首を傾げてみせた。
「私、かわいい?」
と、その仕草でそう尋ねる様子はものすごくかわいらしかった。
もともと容姿は優れた女の子である。仏頂面の時は半減したが、世の中には危ないお兄さんやおじさんがいるので、初対面はあれくらいでちょうどよかったのかもしれない。
「うん、とってもかわいいよ」
なので今度はリップサービスではなく本心のまま肯定してみせた。
「……ふうん」
すると、ちょっと頬を染めてもじもじとその子は手を組んだり離したりした。
ん? 何か本当にかわいいな、この子。
「あ、紹介遅れたね。俺は二維隆文。今いないあいつは興孝臣。よろしくね、っとはい、完了。できたよ、染み抜き」
そう言いながらドレスから手を放した。
「……きれいになってる!」
その子はびっくりしたようにそう言うと、俺をじっと見た。
そして、ほわっと笑みを浮かべた。
「……ありがとう。私は、宮野芹」
宮野、芹、か。
……後で孝臣父に出席名簿確認してもらって彼女の親御さんにお詫びの品を送ってもらおう、と思ったそのタイミングで。
「隆文! もらってきたぞ、ホットミルク!」
孝臣が乱暴にドアを開けて入室してきた。
その途端。
眼前の笑みはすっと消え、超ド級の不機嫌オーラがその身を纏った。
あ、駄目だこりゃ。
これが、後々長い付き合いになる俺達と宮野芹との出会いであった。
芹と孝臣がよるとさわるとギャーギャー言い出すような犬猿の仲なのは、絶対にこの出会いが影響してると思う。
それとも喧嘩するほど仲が良いってか。
まあどっちでもいいけどさ。
どちらにしても俺を真ん中に挟んでやるの、まじやめて。
次回はつなぎ回をし、次の幼馴染へGO。




