14 「隆文はレベルが低くなんかないぞ!」
ずいぶんと間が開いてすみませんでした。今年最後の更新です。
俺はどんな罵倒がきてもいいようとっさに身構えた。
面と向かって己のことをぶさいくと言われて怒らない女はおるまい。
それがたとえ幼児であったとしても。
むしろ、この世は自分の為にある(by孝臣)のごとく己中心に世界が出来上がってしまっている年代だ。小さいというだけで「可愛い可愛い」、幼いというだけで「すごいすごい」と褒めちぎられて、持ち上げられていることに慣れ切ってしまっている(参考孝臣)お年頃なのである。一部年齢が上がっていってもその思考回路から抜け出せない人間(筆頭は文乃)もいるが。
俺は知っている。
経験から嫌というほど知っている。
人間謝り倒せば大抵のことはどうにかなるものさ!
孝臣の頭を地べたに押しつける準備も万全だ。
さあカモン!
あらゆる罵詈雑言、心置きなく、へいどうぞ!
と、コンマ数秒のうちに覚悟を決めた俺の想定に反し、その女の子は不機嫌な顔のままふいと視線を反らした。
拍子抜けしつつも、お目こぼしに安堵するでなく一応謝罪はしておいた方がいいだろう、と判断する。
孝臣の耳を引っ張りながら、「あだだだだ」と喚く孝臣は無視の方向で、俺たちはその子に近づいた。
「ごめんね、こいつがひどいこと言って。悪気はないんだ。考えなしなアホなだけで」
言いつつ、俺は孝臣の頭をぐいっ押して下げさせる。
その女の子はそんな俺たちをついっと見ると、またふいと顔を反らした。
「ほんと、ごめんね?」
再度謝罪をするが、反応はない。
これはよっぽど怒らせたか、この子の元からの性格か。
でもまあこれで一応形ばかりではあるが謝罪も済んだし、後は速やかにこの場を……、と思った所で。
「何だ、お前! 孝臣がせっかく謝ってるのに、無視すんのか!」
また孝臣がやらかしおった。
もう嫌だ、こいつ捨てて帰りたい。
つかそもそも謝ってた原因は孝臣、お前なんだからね? わかってる? そこんとこ。
これ以上余計なことを言い出す前に、もう一度謝ってさっさとこいつ引きずって孝臣父母のもとへ戻ろう、と思った所で、今までだんまりだった女の子が口を開いた。
「私、レベルの低い人間とは、お話したくないの」
今まで黙っていたのなら、最後まで黙っていて欲しかった……。
案の定、煽られ孝臣は激高した。
「何を! 隆文はレベルが低くなんかないぞ!」
いいかげんにせいよ、お前。しかも孝臣よ、何でそこで俺の名を出すの。普通に考えてそこはお前だろ、お前。
その俺の思いに同意するがごとく、その女の子の眼差しの侮蔑の色合いが深まった。
「何か言えよ、ほら!」
「孝臣、女の子に乱暴は……」
目は口よりも物をいう、を解さない孝臣は苛立ったようにその女の子の腕をつかんだ。
「きゃっ」
俺が止めるのも間に合わず、腕をつかまれバランスを崩したその女の子の手から、持っていたコップが離れ……。
バシャ!
その子のドレスにコップの中身のジュースが降りかかった。
ドレスには立派なジュース色のシミが広がっていく。
……あーあ。
さすがにこれは殴られるかな。
どうぞ、存分に殴ってくれ、孝臣を。
やらかした孝臣は女の子の腕をつかんだままかたまっている。
今までのその子の反応から察するに、更に温度の下がった視線をもらうか、今度こそはさすがに手を上げるんじゃないかと思った俺の予想は外れた。
「うっ……」
その女の子はしばらく呆然と自分のドレスを見下ろしていたが、ぼろぼろと大粒の涙を零しはじめた。
「わ、私のドレス……、私の、ふっ、ふえっ、ふえええええ――――――――!」
集まる視線。
泣いている女の子。
かたまっている孝臣。
頭を抱えた俺。
来年はご馳走に釣られず倫太郎と静かに穏やかに、二人でクリスマスケーキを食べようとそう決意したクリスマスのことであった。
次回もお願い致します。




