10 「世の中阿呆ばっかで困っている」
孝臣編その2です。
ドン引きのファーストコンタクトを済ませた俺と孝臣は、それでも運命的な何かに導かれ親友となる……はずもなく、順調に無関係の関係性を築きあげていった。
いや、無関係なのだから築きあげるもないか。
たまに傍目で見てると、幼くても女は女、文乃の幼児版みたいな子たちを侍らせ、「俺はすごい」「俺の家は金持ちなんだぞ」とえばりくさっていやがった。
このままいけば立派なナルシーかナンパ野郎に成長すること間違いない。
うん、あいつは将来ロクな大人にならんな。
俺はそう思い、一人うんうんと頷いていた。
ちなみに俺の周囲には誰もいなかった。
いわゆるボッチというやつだ。
いや、それは俺のせいじゃないと思うがね。
いや、子供らしからぬ俺の言動にも少々問題あるかもしれないが、十中八九は文乃のせいだ。
保護者が自分の子供に俺には近寄らないよう言い聞かせてるの実際に耳にしたしな。
子は親の言うことを聞くもんだ。一部の例外を除いて。
しかし、それもさもあらん。
でろっでろに酔っ払いながら俺を迎えにきたり、着ている衣服が全身ラメとかヒョウ柄とかまじ何考えてんの。いや考えてないからアレなのか。
お前にもドン引きだよ文乃、周囲が。
ただインパクト強すぎていじめには発展せず遠巻きにされているのはせめてもの救いだな。
俺が保育園に求めるのは安全にいられる環境と適度にとれる睡眠時間と腹が満たされる食事だけだ。
そのすべてが自宅だと確保が難しいことがある。
人間には優先されるべき事柄があるんだ。
衣食住、その保障はとても大事なことだ。
それに比べればボッチなど何だというのだ。
そうだそうだよそうなんだ。「だから気にしてくれるなよ」、とやたら「隆文君、何か困っていることはないかい」と言いながら気にかけてくる義父で保育士の倫太郎に言ったところ、余計に気にされた。
失敗した。どこで間違ったかな。
「世の中阿呆ばっかで困っている」と正直に告げた方が良かったか。
でもまあ、いいか。
それは言っても仕方がない。
考えても仕方のないことは考えるだけ無駄だもんな。
と、当時の俺は考えていたが、成長した今でも基本姿勢は変わらない。
そんな俺が、孝臣との距離を縮めることになったのには、もちろんきっかけがある。
それは、ある天気の良い日のことであった。
いつも周囲を人でかためている孝臣が、保育園の庭の隅っこに一人立っていた。
しかもどこか俯きかげんで、肩を落としているようだった。
珍しいことがあるもんだと思いながら、何か珍しいもんでも落ちてんのかなと近づいてみた。
そばによってきた俺に、孝臣は気がつくとビクリとして顔を上げた。
その目はうっすらと涙を浮かべていた。
顔はどことなく強張っている。
「た…隆文。お、俺……」
そう言う声もいつもと違い強張っている。
何があったと思った疑問は、視線を下に落としてみればすぐに解消された。
孝臣の足元には、水たまりができていた。
俺は思った。
こいつ、漏らしやがった。
次回もお願い致します。