9 「俺の親はしゃちょーでえらいんだぞ」
幼馴染出会い編、まずは孝臣のターン。
イケメンらしくなくがつがつとおかずを口に放り込んでいる男、孝臣がこのメンバーでは一番付き合いが長い。
とは言ってもそう時間的に差はないので、一番最初に知り合った、というレベルだが。
孝臣との出会いは四歳の頃まで遡る。
当時の母、文乃が働きに出る為早々に保育園に預けられていた俺とは異なり、孝臣は四歳で保育園に入ってきた。
親が専業主婦だった、というわけではなくそれまではナニーに面倒を見てもらっていたとのこと。
ナニー? 何それどこの国、と思ってはいけない。いるところにはいるのだよ主に金を持っている人種の世界には。
じゃあ義務教育の小学校まではそのままでいいじゃん、と思うが親には親の思惑があったらしい。
端的に言うと、世間と触れあいを持たせるため、情操教育の一環である。
金持ちの息子なのだ。
生活に余裕のない俺がいるようなごく普通の保育園ではなく私立のいいとこを選ぶと思うだろう?
いわゆるお受験付きのところだ。
まあそれは俺と同じ所に来たという時点で察してくれ。
あいつの名誉の為に言っておくならアリッサのように頭が悪いとか甲子郎のように運動神経が鈍すぎるとか芹のように愛想が悪すぎるとかでは決してない。
今も片鱗が残る孝臣の欠点。
それは、あいつとの出会いに象徴されている。
俺のいた保育園は基本席は同年齢、名前順で椅子を置いていた。
つまりは同い年で「たかふみ」の俺と「たかおみ」のあいつは隣の席になったということで。
孝臣が最初のやってきたあの日、あいつは俺に向かってハツラツとこう言い切った。
「俺はおきたかおみだ。俺の親はしゃちょーでえらいんだぞ。ただ俺はかんよーだからな。とくべつになかよくしてやってもいいぞ!」
ドン引きだ。
「……いや、遠慮する」
そう答えた俺は至極普通だと思う。
だがそれは孝臣にとって納得いかない返答だったようで食い下がってきた。
「なんでだ!? この俺がなかよくしてやってもいいと言ってるんだぞ。ありがたがるならともかく、えんりょするとは何だ! おれの親はしゃちょーなんだぞ」
また言いやがった。
こいつ、どういう育てられ方してきやがった。
おまえの親が社長でも俺の社長じゃねーっての。関係ねーよ。
ちょっとむかっときた俺は、お断りの理由を言ってのけた。
「お前の親が社長で偉いのとお前に何の関わりがある。親の功績は親のものであって子供のものじゃない。親と子供をイコールで考えるのは間違ってる。だから社長の親がどんだけ偉かろーとお前が偉いわけじゃない。なのに何だその上から目線。そんな奴とは仲良くできるはずがない。つまりはお断りだこのやろう、以上!」
親の功績が子供の功績であるはずがない。
それが是としてまかり通るなら、親の不始末は子供の不始末ということになってしまう。
文乃がやらかす様々なアレやしでかす諸々のコレが俺の責任に?
あり得ないあり得ないあり得ないでくれ。
冗談じゃないわマジで。考えただけでも恐ろしい。
また、この頃から俺はトラブルメーカー文乃のせいで子供にしては異様なほど頭と口がまわるようになっていた。苦労してんだよ俺も。
そんな子供らしからぬ俺に俺にたたみかけられた孝臣は意味がのみこめないようでぽかんとしていた。
「……つまり、俺がえらすぎておそれおおいからなかよくできないのか?」
「………………」
なぜその発想に至るのか。
幼き日の孝臣は、それはそれは残念な性格をしていたのだった。
次回へ続く。