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第4話 旅立ち前の日常

説明回です。以下の4点を知っておいて頂ければ、読み飛ばしOKです。

1.ソフィアが神具を手に入れた。

2.レオンハルトが助かった。

3.旅に出るタイミングを見計らっている。

4.神代の霊薬はすごい薬。

 オージアスに抱えられ神域へと運びこまれたレオンハルト。

 彼は今、新緑の草の上に横たわっている。


「ルミナは、コップに飲み水を汲んで来てくれ」

「はい」


 俺の指示に従い、ルミナは森の外へと駆けだした。

 神域内にある水は、吸収できずに、そのまま体外へと排出されてしまう。

 このため神域の外にある水が必要となる。


「う……うぅ」

「お兄様」


 苦悶の表情を浮かべるソフィアという少女は、レオンハルトの右手を両手で包むように握りしめている。

 だが彼女の想いとは裏腹に、レオンハルトの死は刻一刻と近付いているのは確かだ。


(時間はないか)


 できることなら別の手を使えれば良かったのだが──レオンハルトの顔からは、すでに血の気が失せ土気を帯び始めており急がねばならない。

 

「強力な薬を使う。」


 レオンハルトを囲む、彼の仲間たちに俺は告げた。

 俺自身も経験あるが、これから使う薬は恐ろしいほど強力だ。しかし、副作用というべきものも凄まじく、俺としては二度とお世話になりたくない薬でもある。


「傷が治る痛みで彼は暴れるだろうから、全員でしっかりと押さえてくれ」

「…………」


 このままだと死ぬだけの命。

 そのことが分かっているのだろう。俺の言葉に黙って頷く彼らの瞳には、強い意思が込められている。


「ケイ様」


 ルミナが水を汲んで戻ってきた。


「始めるぞ」


 俺は再び彼らに目を向けると、再び彼らは頷いた。

 死を間際にして、うなされるように呻き声をあげ続けるレオンハルト。

 彼の額には大粒の汗が光っている。


「しっかり押さえていろ」


 俺はレオンハルトの口を無理矢理開けさせる。

 そして丸薬を入れて、水を無理矢理流し込み吐き出さないように彼の口を押さえた。

 身体の状態は限りなく死に傾いていたのだろう。しばらく飲み込むことができずにいたが、ようやく弱々しくはあったが薬を飲み込んだ。


「もっと力を込めろ!」


 薬を飲み込み、レオンハルトの喉が僅かに動いたのを確認し、力を込める手を強めるように呼び掛ける。

 すると指示が終わると同時に、レオンハルトは目を見開き叫び声をあげ始める。


「……うっ、ぐううぅぅぅぅああああああ」


 飲ませたのは”神代の霊薬”。部分欠損すら治してしまう、今の時代には存在しない薬だ。 

 しかし肉体の損傷が深ければ、その分だけ治療時の痛みが激しくなる。


 レオンハルトの場合は、腕を生やし胴体の怪我も急速に治す。

 腕一本だけを考えても、骨が生え、肉が付き、皮膚がそれらを包み込む。

 それらの修復が行われている間、痛覚神経が空気にさらされ修復による刺激も同時に襲い続ける。


 さらに言えば、脳機能も活性化され麻酔すら効かなくなる。

 このため、使う者は修復が完了するまで痛みと戦い続けなければならない。


「ああぁぁあぁ、うぐぅぅぅぅ」


 舌を噛み切らないように、レオンハルトに猿ぐつわを回した。

 あとは、彼の精神次第だ。


「お兄様!」

「しっかりと押さえておけ!」


 レオンハルトの横で交差する必死な言葉。

 彼の近くでもまた痛みとの戦いが始まっていた。


 ………

 ……

 …


 それから2時間が経ったころ戦いが終わる。

 レオンハルトの失われた腕は、植物が急速に成長するかのように生え、損傷していたであろう内臓も修復された。


 疲れ果てたレオンハルトと、その仲間たちはすでに眠っている。

 レオンハルトは薬を使ったため、身体と魔力、精神に強い負担が掛ったはずだ。恐らく2~3日は目が覚めないだろう。


 ソフィアたちもまた、魔の渓谷を彷徨い続けたんだ。

 今は、それらの疲れもでているだろうから、そのまま眠らせておこうと思う。


「なぜ彼らが信用できると思ったんだ?」


 俺は彼らが眠る場所を離れて、神域に設けた小屋にいる。

 ルミナが何故、彼らを信用できるか問うためだ。

 もっとも、今さらという気もするが──。


「あの方たちはヴァルカス領の紋章が入った鎧を着ていました。それで……」

「ヴァルカス領……確か獣人人権保護の」

「はい、私も両親と一緒に住んでいました」

「わかった」


 この世界において獣人の地位は低く亜人と呼ばれている。

 亜人──すなわち彼らは人間に準ずる者であり、人間に近くとも人間ではない存在という意味だ。


 これが彼らに対する世の中の見方であり、人と同等の権利など認められてはいない。

 よって人間がどれほど獣人を傷めつけようとも大した罪にはならず、逆に獣人が人間に危害を加えると大きな罪になる。


 だが、そのことに異を唱える者たちもいる。

 世界から見れば少数派だが、彼らは国や領の単位で獣人の人権を保護している。


 その行為は、獣人という人権を持たない奴隷を人として扱う行為だ。

 このため奴隷解放と同じ意味があるため、敵を多く作ることになる。

 だからこそ、そのような政策を行う国や領の指導者に深い恩を感じる獣人も多い。


「まずは話を聞くか……」


 俺はレオンハルト達が眠る方向を見ながら、誰に伝えるわけでもなく呟いた。

 

 *


 レオンハルトは代の霊薬の副作用で、もうしばらく眠り続けることになりそすだ。

 だが彼を除くヤツらは、翌日には全員が目を覚ました。

 

 そして現在、俺とルミナvsソフィアの仲間という形で話し合っている。


「……ここにしばらく置いて頂きたいのです」

「はあ」

 

 本当はゾファルトの土地なんだがな。

 ヤツは──


『主の好きにするがよい』


 といって、俺に一任してくれた。

 本当に懐の深い剣だ。


「なんでもしますので、どうかお願いします」


 俺とルミナvsレオンハルト一行という形での話し合い。

 美少女の”なんでもします”というのは、男として色々と思う所がある。

 しかし──


「どうしました?」


 隣に座るルミナが向る純粋な視線が、俺の心に突き刺さる。

 まるで穢れた俺の心を見られているようで辛い。 


「なんでもない」

「そうですか……」


 怪訝な表情を見せるも、これ以上追及されなくて良かった。


 それはともかくとして。

 ここで彼女たちを放りだせば、ロクな未来は待っていないだろう。


「ルミナはどうしたい?」

「私は……」

 

 ルミナの答えは、もう分かっている。

 だからこそ彼女の考えを聞こうと考えた。


 こうして、ソフィア(美少女)、フリア(美女)、オージアス(ナイスミドル)、レオンハルト(リア充?)との共同生活が決まった。


 *


 これからの予定をまとめておく。


 神域。それは異なる次元に存在する世界。

 許可された者以外は、強力な術を行使するなどしなければ、入ることが不可能な領域。

 俺の(本当はゾファルトの)神域にいる限り、ソフィアたちの身は安全なハズだ。

 

 しかし彼女たちは、バスヴァーユ領の領主に力を借りるため動こうと考えている。

 そのために危険な魔の渓谷へと入るほどなのだから、彼女たちを止めるのは引きとめるのは不可能だろう。

 

 俺とて竜也に見つかれば殺されかねない身。

 もし俺が彼女たちに協力すれば、国に深く食い込んでいる竜也たちを敵に回すこともありうる。

 彼女たちの手助けをする時間があれば、早く別の国に行った方がお互いのためだ。


 しかし、出国には国境を越えねばならない。

 中世ヨーロッパと同じように、国境はあってないようなものだが、安全に国境を越えられる道は限られている。

 なにせ、あちこちにモンスターが歩き回っている世界だからな。

 神域の加護のない状態だと、俺では対処しきれない。


 そこでバスヴァーユ領から出ている船に乗り、隣国に移動することにした。

 冷戦状態となっている隣国への船に乗るには、紹介状が必要だ。


 そこでソフィアたちの出番となる。


 彼女たちにバスヴァーユ領まで俺が護衛する代わりに、領主に口添えしてもらい紹介状は手に入れられることになった。



 ~プロセルドの街~


 ソフィアたちの護衛をする。

 これがもっとも安全に隣国へと行く手段になるだろう。


 現在は、キシスというヤツがヴァルカス領の実権を握りつつある。

 だが、正当な血筋であるレオンハルトとソフィアは生きているのが現状だ。

 ソフィアたちが助けを求めようとしているバスヴァーユ領の時期領主は、ソフィアの婚約者という間柄。

 領主にさえ会えれば、キシスの人生はゲームオーバーとなる。


 その分、キシスも頑張っている。

 俺とルミナで定期的にプロセルドの街で情報を集めているのだが、どうやらソフィアたちを探すという名目で人を動かしているようだ。

 もちろん、兵に捕まれば二度と表に立てなくなるだろう。

 

 しかし、いつまでも他人の領で人を動かし続けるわけにはいかない。

 ましてや魔の渓谷という危険極まりない場所を通った彼女たちは、死んでいない方がおかしいのだからな。

 近いうちに彼女たちを探す兵は大きく減ると、ソフィアたちは考えていた。


「久しぶりだな」

「いい仕事はあるか?」

「そうだな」


 俺は冒険者ギルドを訪れた。

 中は大きな喫茶店という感じであり、冒険者ギルドのイメージとは違い清潔な雰囲気だ。

 きっと目の前にいる、ギルドオーナーの性格が出ているのだろう。


「お前さんを指名して、ラージ・ラビットの肉を6匹欲しいって言うのが来ているんだがどうだ?」

「ラージ・ラビットは、今ならコヨルン山岳地帯辺りだったか?」

「そうだ。最近は狩るヤツも減ったからな、かなり増えているんじゃないか」

「あいつらの繁殖力は凄いからな」


 ラージ・ラビットは食物連鎖の底辺に位置する。

 だが、繁殖力が凄まじい上に肉食だ。増えると集団でモンスターや動物を襲って自然環境を変えてしまう。


「20匹以上退治してくれれば、国から報奨金が出るぞ」

「かなりの手間になるな」

「そう言うな、お前さんは解体がうまいからな。今回の依頼に国からの報酬、残った肉もそれなりの額で売れるだろうから、手間はかかるが稼ぎもでかいハズだ」

「そうだな・…」

 

 ソフィアたちを探す兵士が減るのは、まだ先だろう。

 いったんバスヴァーユ領に向かったら、そのまま船に乗り込むつもりだ。

 それまでに金を稼いでおきたいが──20匹程度なら問題はないだろう。


「じゃあ、20匹を目指して頑張らせてもらうよ」

「そうか、なら契約書にサインをくれ」

「ああ」


 ギルドオーナーが差し出した、契約書に俺はサインをした。

 この世界では冒険者ギルドで依頼を引き受けた場合、依頼を受けた証としてサインをする。依頼に関する説明を受けたという意味でのサインで、報酬の受けとり時のトラブルを避けるのが目的だ。


「20匹の方はいいのか」

「そっちは、ラージ・ラビットの魔石と討伐部位をコヨルン山岳地帯にいる兵士に渡してくれればいい。証明書をよこすはずだから、そいつを俺に渡してくれれば魔核石の代金と一緒に報奨金を渡す」

「わかった」

「一応、狩りを始める前に兵士に話しておいてくれ」

「ああ」


 こうして冒険者ギルドで依頼を受けた。

 だが、何ごともなく依頼はこなせたので説明は省略させてもらう。

 

 *


 レオンハルトの口に薬を放りこんでから2週間が経ったころ、ようやく彼はまともに動けるようになった。


「世話になった」


 と、彼はイケメンスマイルで礼を言ってきた。

 やはり彼はリア充という名の、男の敵なのだろう。


 それはさておき、彼らに問題が生じていた。


「剣がない」

「そこに……」


 俺が指差したのは、レオンハルトの剣を収めた鞘。

 彼は、それを手に取り、おもむろに剣を抜くと──


「寿命だ」


 あちこちが刃こぼれをしており、刀身にわずかだが歪みも見られる。

 彼の言う通り、いつ折れてもおかしくはない。少なくとも俺には、この剣一本で戦う勇気など持ち合わせてはいない。


「街で買ってくるから代金を……」

「俺の剣だけならいいのだが」

「はっ?」


 レオンハルトの言葉に、他のメンバーが申し訳なさそうにしている。


わりい。俺もだ」

「私は杖がね……」

「矢が……」

 

 どうやら彼らの武器は全滅しているようだ。

 森を抜けるのは、俺がいれば問題はない。

 しかし、森を抜けたあとは彼ら自身が戦えなければ、バスヴァーユ領へ辿り着くのは難しいだろう。


「武器を買う金は?」

「森で無くしてしまった」

「…………」


 だめだ、このイケメンは意外とドジっ子だ。

 

「しかたない……俺の武器を譲るよ」

「すまない」

「代金は後払いで頼む」

「……ケイ様」


 また、ルミナの好感度が下がった。


 *



 俺は世界樹(俺が命名)の前で、ゾファルトを手にして立っている。


「神域よ。俺が持つ武器を開放しろ」


 アイテムBOXのスキルで収めていた武器を、神域の力を使って解放した。


 俺の言葉と共に、神域に無数の武器が現れる。

 最初は二次元の映像のような姿だったそれらの武器。

 徐々に立体となり、いずれ具現化した。


 その数は300を超えており、種類もまた、剣、槍、弓、杖、ナイフなど幅が広い。


「好きな物を選んでくれればいい」

「後払いだがな」

「そこは譲れない」


 オージアスよ、後からキッチリと支払ってもらうからな。

 なにせ、半年もの間、クリエイトを使って作り続けた武器だ。

 ただで譲る気など毛頭ない。


「見させてもらうぞ」

「ああ」


 神域をドコまでも埋め尽くす武器。

 その中をソフィアやレオンハルト達は歩きながら自身に合う武器を探す。


「どれも一級品だな」


 オージアスは、宙に浮かぶ武器を見ながら呟く。


「これは……」


 ソフィアが手を伸ばしたのは、神弓ローセル。純白の弓だ。


「そいつは神具だ」

「神具!」


 神具というのは希少だ。

 上級の神具となれば、国力の象徴とも言われている。その威力も高いのだが、扱うには素質が必要となるうえ、熟練度というべき物も必要となる。


「…………」


 ソフィアは、何も言わずに神弓ローセルから手を引いた。


「いらないのか?」

「え、ええ」


 それ以上は何も言わないソフィア。

 神具は恐ろしく高価だ。もちろん上級や中級などのランキングがあるので、物によって値段が大きく上下する。

 もちろん下級の神具でも恐ろしい値段だとは思うがな。


「俺としては、貴族に恩を売れるチャンスなんだ。遠慮はしなくていい。ソイツもソフィアを認めているようだから扱えるはずだ」

「…………」


 かなり迷っているな。

 度の武器を選ぼうが貴族に恩を売ったことに変わりはない。

 もちろん、高額な武器を選べば、そのぶん大きな恩を売ったことになるがな。


「ねえ、他に神具はあるの?」


 そう言ってきたのはフレアだった。

 大胆というか何というか──。


 だが、武器や防具は命に関わりやすいからな。

 チャンスがあれば、最高の物を選ぶというのは悪い判断ではない。


「神具使いの素質がないと扱えないから、高価だからと言って選ぶと後悔するぞ」

「じゃあ、あるって言うことね」


 藪蛇やぶへびだったようだ。

 わざわざ、神具があることを伝える結果になってしまった。


 神具を扱うには素質が必要となる。

 だから神具使いは希少だ。


「上役を差し置いて、高価な武器を手に入れようとしているヤツがいるんだ。ここでソフィアが、そいつを手にしなくても大して変わらないんじゃないか?」

「そうですね。では私はこれを……ですが1つだけ」

「?」

「決してお金の心配をしたのではありませんから。誤解をなされないように!」

「……」

「本当ですからね」


 貴族の矜持──いや、これはただの見栄だな。

 お金の心配をしていたと思われたのが、かなり恥ずかしかったようだ。


「なんで笑っているのですか!」


 こうして俺は、貴族に後払いで武器を納品した。

 彼らが領地を取り戻して、代金を支払ってくれることを祈るばかりだ。

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