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第2話 ガラクタ勇者 in 森

 ~魔の渓谷で、黒い水晶の剣を慧が抜いてから半年後~


「……」


 黒衣を纏い、顔を黒い布で覆った男が、気を飛び移りながら背後から忍び寄る。

 男が狙うのは、己の背丈と比べ数倍はあろうかという巨狼。


「……」


 己の縄張りだと言わんばかりに慢心する巨狼。

 それを見下ろす位置にある枝へと移動した男は───狼の頭上目がけて飛び降りた!


 剣を突き立てたまま、重力に引かれていく男。

 彼は剣を握る指先に強く力を入れて、これから襲うであろう衝撃に備えている。


 そして、その時が訪れ──ズッという湿った音が周囲に響いた。

 

 男がいるのは巨狼の頭部。

 剣は深々と頭部に突き刺さっており、銀色の毛皮がゆっくりと赤く染まっていく。

 

「Gyaaa……」 

 

 周囲に響いた巨狼の断末魔の叫び。

 それは、着き刺さった黒剣が脳髄へと達した瞬間に途切れる。


 だが、巨狼の代わりに悲鳴をあげる者がいた。


 途切れた断末魔に代わり悲鳴を上げたのは木だ。

 死の間際に巨狼が寄りかかった木が、メキメキと音を立てながら倒れた。


 その音に驚いた鳥たちが一斉に空へと逃げ出した──いや、逃げ出したのは鳥などという可愛い物ではない。


 空へと逃げ出したのは魔物。

 それも腕利きの戦士であっても、命がけの戦いを強いられる可能性があるほどの上位個体だ。

 対して黒衣の男に倒された巨狼は、空へと逃げた魔物たちを捕食する側の存在であり、この森における絶対的強者の一体だった。


「……」


 絶対的強者たる巨狼を葬っておきながら、歓喜の言葉一つ口にせず、その遺体へと近付く黒衣の男。


 彼は森の絶対的強者だった死体に手を向けて、ただ一言を口にする。


「クリエイト」


 男の言葉とともに、狼の死体は光の粒子となる。

 光は何かに引き寄せられるかのように一ヶ所へと集まり──一本のナイフへと姿を変えた。


 そのナイフは、神聖さすら感じるほどの純白で、見る者が見れば夢の中ですら欲するほどの価値があろう逸品だ。


「これは、初めて出たな」

『うむ、中々の品であるようだ』


 これまで無言だった男は、一通りの仕事を終えて気が抜けたのか、姿なき何者かと話し始めた。


 いや、姿は見えている。ただ、男が話している相手というのが問題だ。

 話し相手とは彼が右手に持った黒水晶の剣であり、周囲に人がいれば彼の頭の状態を疑う。奇妙な光景を作り出している。


 邪神の剣に触れてからけいは、この森で暮らしていた。

 この森は、邪神の剣が持つ神域が中心部に広がる場所であり、彼には都合が良かったからだ。


 現在、けいは邪神の剣をゾファルトと呼んでいる。

 ゾファルトとは、主従の契約を完了した証として、邪神の剣が自ら慧へと伝えた名前だ。



 ~慧の視点~


 俺は、巨狼を倒した。

 こいつは銀色の体で体高が、俺の3倍ほどのバーサーカーウルフと、いう魔物だ。


 森の外に出れば、500人規模の部隊が必要になる魔物らしい。

 と、情報をくれたのはゾファルトだ。


 ゾファルトというのは、この森に落されて世界樹(俺が命名した)で俺が触った剣のことで、黒い水晶でできた刀身と金色の柄を持った剣だ。

 この剣は喋るというか、俺の頭の中に直接情報を伝える形にはなるが、コミュニケーションが可能なため、バーサーカーウルフの情報を得ることができた。


 さすがファンタジー世界というべきか。

 話す剣が存在するとは──。


 

 現在はゾファルトとの間に主従契約を結んでいる。

 俺を主として扱ってくれたとてもいい人? だ。

 ガラクタ勇者なんて呼ばれてずっと蔑まされていたから、ゾファルトの誠実さが心にしみる。


 さて、そんな俺はゾファルトと契約してから、この森で過ごしている。 

 ゾファルトはすごい能力をいくつも持っていて、その能力がこの森では大活躍するからだ。


 特に【神域の加護】はすごい。

 この能力は、神域がある場所で所有者の能力がチート並みに跳ね上がるというもの。ガラクタ勇者である俺でも、【神域の加護】があればチート並みの活躍ができるというわけだ。


 ただ、神域というのがゾファルトと契約した世界樹(俺が命名)のある場所なんだが、【神域の加護】の範囲が神域が隠されている森の一部にしか通用しない。


 よって、この森を出たら【神域の加護】によるチートな活躍が不可能となる。


 さらにもう1つゾファルトはすごい能力を持っていて、それは【クリエイト】という能力。


 【クリエイト】は、倒したモンスターをアイテムに作り替えるスキルだ。


 俺がこの森で暮らしているのは、【神域の加護】でチート的な性能を得て倒したモンスターを、【クリエイト】でアイテムに加工するためだ。


 この森のモンスターに、【クリエイト】を使うと色々と凄いアイテムができるからな。森を出る前になるべく多くの良いアイテムを用意しておこうと、ずっと頑張っている。


「さて、いったん戻ろうか」

『うむ』


 俺の言葉に頷く──剣だから頷いたのはイメージだが、反論なく従ってくれるゾファルト。


 本当に良いヤツだ。



 ~ゾファルト視点~


『やはりケイは恐ろしい。バーサーカーウルフを背後から襲ったとはいえ、一撃で葬り去るとは』


 我は主となったケイの能力が恐ろしい。

 ケイは【神域の加護】や【クリエイト】を、我の能力だと勘違いしている。


 ある意味で勘違いではない。

 なぜなら主が無意識のうちに我に付加したスキルだからだ。

 だが、それでもケイの能力と言っても差し支えはないだろう


 それに、神格を有する我の神域を、ケイは契約時に己の所有物としている。

 これは神から土地を奪うような、本来は起こり得ない出来事だ。


 まだケイは、己の力に気付いていない。

 恐らくは多大な制約があるのだろうその能力は、神格を有する我が肉体の支配権を奪うのを、当たり前のように防げる程の代物だ。


 このまま能力が成長し、制約が外れたときどのような結果になるか?


 否、我にどのような影響があるか。

 契約により、強制的な主従関係を強いられている今、我は流れに身を任せるしかないのであろう。


 だが、ただ流されるのは危険すぎる。

 主が我に与えたスキルを、己の物でないと勘違いしているうちは、その言に乗っておこうと思う。

 そのようにすることで、主が己の能力だと気付くのが遅れるはずだから──。



 ~慧視点~


 俺は、神域へと帰った。

 契約時にゾファルトが譲ってくれたので、色々と弄らせてもらっている。


 最初は、ゾファルトの機嫌を損ねないか心配だったが、ほとんどのことを許可してくれたので、今となっては快適な場所となっている。


 風呂も用意してあるし、洗面台なんかもある。

 布団も、クリエイトのスキルを使って現れた布製品を重ねて作った。

 もちろん台所やテーブルもあるぞ。


 まな板には四角い盾を使い、包丁は片刃のナイフを使っている。

 どちらも、この森でクリエイトを使って手に入れたヤツだから、ナイフは切れ味が良く、盾は傷一つ付かない。


「……」


 『便利だ』と、口にしようと思ったが出てこない。

 森に落ちて声を失った影響は未だに続いている。


 ゾファルトを手にしている時は、なぜか声が出るのだが──料理をしているときに話す必要はないだろう。


 *


 ~???視点~


「ソフィア様、こちらへ」

「はい」


 魔の渓谷に広がる森を進む4人組がいた。

 騎士鎧を着た二人と、ローブを纏った物が一人。

 そして弓を手にし、胸当てを着けた女性。


「まだ追ってきているようだな」


 忌々しげに、自分たちが歩いてきた方向を見ながら吐き捨てる騎士鎧の男。

 彼の名はレオンハルト・ヴァルカス。

 この渓谷に隣接するヴァルカス領の当主となるハズだった男。


「それだけ、私たちを本気で追いかけているということでしょうね」


 言葉を続けたローブを纏った女性だった。

 彼女は、ヴァルスカ領で魔導士として雇われていたフリア・イバルス。


「キシスめ。毒婦に惑わされおって」


 最後に言葉を繋いだのは、もう一人の騎士鎧を着た男。

 彼は、古くからヴァルカス家に使えるオージアス・ローグ。


「…………」

「ソフィア、今は逃げるしかない」

「お兄様……分かっております」


 最初に、言葉を発したレオンハルトが、ソフィアに今は逃げるようにと促す。

 彼女は迷いを目に浮かべながらも、最後は覚悟を決めて力強く頷いた。


「でも、魔の渓谷を抜けるしかないなんてね」

「仕方ないだろ。危険すぎるからこそ、俺たちにとっては一番安全なのだから」

「そうなんだけどね。死の危険があるからこそ、私たちが生き残れる可能性があるなんて皮肉なものね」

「まあな」

 

 レオンハルトとソフィアの傍らで、騎士オージアスとフリアが話している。


 4人は、領土をキシスという男によって追われ魔の渓谷を通り抜けようとしていた。


 彼らがいた、ヴァルカス領の南方は海に面し、北東には険しい山脈が広がっている。

 東方は別の国の領土と接しており、常に戦争の危険があった。


 これらを考慮するのなら本来なら西方へと逃げたいところだ。

 しかし、そのような考えは誰にでもできるためキリスにより読まれて、すでに封鎖されていると考えられる。


 このため魔の渓谷と呼ばれる、北の山脈の間に広がる危険な場所を通ることになった。

 魔の渓谷には、強大な力を秘めた魔物が多数存在しており、これまで切り開こうと手を出すたびに、大きな痛手をヴァルカス領に与えてきた曰くつきの場所だ。


 歴戦の戦士すら命がけの戦いを強いられるような魔物が、多数存在する魔の渓谷。そのような場所を通るのは自殺行為であり、キシスは限りある手駒の無駄遣いをさけようと西方へと回していた。


 キシスが指し向ける追っ手は、彼らを目指して迫る。

 だが、魔の森の魔物は、彼らも追っても森に住まう魔物も平等に襲う。


 このため、少人数で行動する彼らが領土から生きて抜け出せる可能性は、もっとも魔の渓谷が高いと言える。


「急ごう」

「ええ」


 レオンハルトの言葉に、ソフィアが頷く。

 そして、進んできた方向から聞こえる悲鳴を背に、再び渓谷を抜けようと前へと進み始めた。


 *


 ~けい視点~


 俺は、料理を作りちゃぶ台へとならべた。

 もうじき、この森に住んで一年になるが、だいぶ料理の腕も上がった。

 

 食材や調味料は、クリエイトのスキルでも手に入れることができる。

 クリエイトで手に入るのは、9割方が武器や防具といった装備品やアイテムだ。


 しかし、ごく稀に食材が手に入ることがある。

 この辺りの森で、クリエイトを使って手に入れた食材はとてつもなく美味うまい。

 少し前にクリエイトを使って肉を手に入れた。

 口にすると、溶けるかのように肉汁を広がり、料理で人生が変わることがあるとことを初めて経験したな。


 当然、調味料も珍しい物が手に入る。

 だが、こちらは上手に使わないとダメだ。


 例えば、珍しい香辛料があったとしても、食材に山盛りすれば料理をダメにするのは分かってもらえるはずだ。

 俺も失敗したから、最近は調味料は慎重に使っている。


「……」


 ゾファルトを手にしていないので、心の中で頂きますと言った。

 まあ、実際のところゾファルトを鞘にでも入れて体に触れさせておけば声は出る。

 だが、剣を近くにおいて食事というのは、殺伐としてのんびり食べられないから避けたい。


「……」


 ちゃぶ台の上には──

 焼いた肉にパン。あと、じっくり煮込んで作ったコーンスープなんかもある。

 もちろん栄養バランスを考えて、生野菜のサラダも用意した。


 これだけの食材を森で集めるのは難しい。

 だから、月に一度のペースで森を出て街に行って買うようにしている。

 

 まあ、いつまでも森に引き籠っているわけにもいかないからな。

 すでに森で生活するようになってから半年を過ぎたから、今はキリが良い時期と言えるだろう。


 いつまでも森の中で生活するというのは避けたいからな。

 あと1ヶ月もしたら、森を出て冒険者としてやっていこうと思っている。

 街に行くのは、その時に困らないようにという社会見学も含めているわけだ。


「ケイ様」


 ああ、そうだ。

 俺が森にすむようになってから、3ヶ月ほど経ったころだろうか?

 一緒に暮らす仲間が増えたんだ。


 仲間というのは嬉しいことに美少女で、俺を慕ってくれている。

 たぶん、お兄ちゃん的な意味合いでの慕っているのだろうがな──。


 彼女の名前は、ルミナ。

 俺と会うまで奴隷であったため、名字は持っていない。


 ルミナは、小学校高学年ほどの身長だ。

 髪は深い緑色で瞳は黒、特徴は猫耳だろう。

 いわゆる獣人というヤツだが、その耳が人間と同じ位置にある点が、地球のイメージとは違う。


 もちろん、手は出していない。

 さすがに小学生ほどの女の子に色々とするのは、紳士としてどうかと思うからな。


「森を出たら、どこに行くかもう決めてありますか?」

「……」


 話し掛けてきたがゾファルトを持っていなかったから、返事ができなかった。

 だから、少し離れた所にあるゾファルトに、手を伸ばしてから答えることになった。


「すみません」

「構わないさ」


 俺が返事をするためにゾファルトへと、手を伸ばすことになり謝るルミナ。

 彼女は、奴隷として死にかけるような扱いを受けていたせいか、謝ることが多い。


 最近は、笑顔を見せてくれるようになり、彼女から色々と感謝の言葉をもらうのだが──その笑顔が最高のお礼さ、というセリフが俺の頭に思い浮かんだ時には悶えまくった。


「まずはアルルナ領に行って旅の資金を貯めよう。そのあとで、できるだけ早く別の国に行きたい」

「別の国ですか」

「この国には、俺を殺したがっているヤツがいるからな。早めに出たいんだ」


 これまでは、どのような形で旅をするのかを決めかねていた。

 だからルミナには、旅について具体的に伝えたのは今回が初めてだ。


「あと、かねに余裕ができたら、ルミナの奴隷解放手続きをしようと思っている」

「私はこのままでも……」

「ルミナには色々と助けられているからな。今さら奴隷というのは違和感があるんだよ」


 森を出ると、神域の加護がなくなるからな。

 俺はガラクタ勇者に返り咲くことになるだろう。


 その時に、愛想を尽かされて捨てられないことを祈るばかりだ。

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