真実への扉
噂を聞いたとき、僕は正直そんなわけないだろ、と想った。そして、だからこそ、そうなのかもしれないと想って、道なき道を歩いてる。
道なき道は、決して例えなどではない。本当に道などない。しかも崖とよんでも間違いでもなさそうな山だ。
「本当に彼方だよな・・・・・・」
ぽそり。
一歩間違えると、死にそうなこの道に、足を踏み外したらというものとは別の不安がよぎる。
この先に教会があるのかと。
負の神は『彼方の教会』にいる。
彼方の教会はこの山の先にある。
それが、噂として聞いたことだ。
彼方の教会は特殊な教会だ。通常の教会には賢者がいる。けれど、彼方の教会には賢者はいない。人がいない場所にあるといわれている。
とはいえ、そんな教会はそれなりにある。守護的な意味をこめて建ててある、守護教会と呼ばれてるものだ。
彼方の教会も守護教会の1つだ。それがどこにあるかは知らされていない、この世界を守護する教会だ。
ということになっている。
実際、守護教会があるから、どう、ということはないし、気休めみたいなものだ。
世界がこんな状況だから、そう思ってるわけでもなんでもなく、信仰みたいなものはないに等しい。賢者だって別に信仰者ではないのだから。(彩斗なんかはその典型といえる)
そう、神なんていないことくらいわかってる。
負の神を倒すのは、勇士だ。勇士なんて呼び名がつくが、ただの人間だ。神がなにかをしてくれるわけじゃない。そしてーー負の神は倒せる者として、存在してる・・・・・・。
ずるっ――足をすべらした。
い、今のは、結構やばかった・・・・・・。今日はもう休もう。少し先に休めそうなスペースもあるし、ここで死んだら意味がない――。
そう、僕はただの人間だ。こんなところで怪我を負えば、助ける者なんていないし、場合によっては死んでしまう。勇士を英雄のように、神のように想ってる人は少なからずいるけれど、死ぬときは普通に死ぬ存在だ。邪力は意味がなくても、邪力に染められた者は、勇士を殺すことができる。
――じゃあ、負の神は?
たぶんこのとき、はじめて想った。
僕は誓いをたて、決意を持って旅にでた。だけど、それまで負の神に考えを巡らすことなんてなかったんだ。
家族を失い、自分の力を知り、決意した。それはきっと自然なこと。でも僕は絶対に様々なことを知らないだろう。たくさんのことをわかってないまま、負の神を倒すことを決めた。なにも疑問に想うことのないまま。
負の神はなぜ負の「神」なのか――。
どうして今になってそんなことを想う?
けれど、そこにどんな意味があったとしても、正の力を持つ者が、負の神を倒せば、世界は正しくなる。そこには嘘偽りもない。
「本当に教会――」
どれくらいかかったかわからないけれど、教会に辿り着いた。
この教会が本当に彼方の教会かはわからないし、負の神が本当にいるかはわからないけれど――立派なたたずまいが、そうだろうと感じさせた。
ここはきっと彼方の教会で、負の神はここにいる。
教会を見上げ、そのまま空を見る。
そこにあるのはいつも通りの空の色。僕の名前のような空はない。こんな立派な教会があるような場所だとしても。それが今の普通で、今のあたりまえだ。
そう、だから、僕は負の神を倒す。
立派な教会の扉をまっすぐと見た。
恐怖や不安がないといったら、嘘だ。自分の剣に自信があるといっても、ヒカルほどじゃない。そんなに強い心を持ってるわけじゃない。――勇士として、きっと不足してるものだらけだろう。
だけど、僕が負の神を倒せば、世界は正しくなる。
「行くか」
自分自信につぶやいた。
扉を開けたら、きっといろんなことがわかってしまうだろう。僕が知り得る真実とは異なることもあるだろうけど、僕は決意を変えることはできない。
僕はゆっくりと扉に手をかけた。
わからないことは罪だということを、まだわかってなかった。
そして、扉を開けたあとの罪は――。