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世界の天秤  作者: 雪月
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噂・・・・・・旅の終わり

 旅に出て、まもなく半年というとき、1つの噂を聞いた。負の神にまつわる噂。

 あくまでも噂。信じる根拠はない。ないけれど・・・・・・。



「青。どう思ってる?」

「俺は信じてみるべきだと思ってる。ヒカルは?」

「オレもそう思う」


 僕は決意を固めた。


「青。もう宿に戻ろうぜ。夕飯の時間だ」

 ヒカルはそのままの流れで、全然関係のないことを言った。




 宿に戻り、トモとアサの部屋を訪ねた。


「青さん、ヒカルさん。おかえりなさい」

 ふわっと笑って、アサが言う。

「ただいま。って、トモは?」

「本読みながら、寝ちゃいました」

「夕飯にしようと思ったけど、どうしようか。アサ、おなかすいてるよな?」

「う、はい。あ、あと、朝輝もおなかすいてると思うんで、起こしちゃって大丈夫ですよ」

 を、たぶん言い終わる前に、ヒカルが元気に

「飯、行くぞ、飯! 起っきろ、トモ〜!」

 遠慮することなく起こした。



 宿を出て、近くの食堂で夕飯にする。


「トモ、おまえ、本読んで寝るって、勉強嫌いだったりするのか」

「なんですか、突然! それと今日のはたまたまですっ」

「ヒカルさん、ヒカルさん。朝輝は真面目だから勉強は得意なんですよ。あたしは好き嫌いはっきりわかれちゃうんですけど、負けず嫌いな朝輝は苦手な教科なくしたんですよ」

 わかりすぎて、笑ってしまう。

「青さん。笑うならヒカルさんなみに爆笑してくれたほうがありがたいです」

「悪い、悪い。けど、二人共、学校行きたいよな」

「まあ、それは――。けど、あの街においてかれなくて本当にうれしいです。な、朝綺」

「うん。そうだね、朝輝」


 少し胸が痛んだ。

 本当はこんなふうに連れまわすことはすべきでなかった。けど、ちゃんと守りたいと想った。だから、どんなところかわからない孤児院に預けるのではなく、ヒカルのとこへと想ったのだ。ヒカルもそう想ったから、自分の旅にはつき合わせると言ったのだ。


 それももう終わりだ。


 ただの噂。だけど、僕はきっとそうだと想った。そして、ヒカルもそれに同意した。つまり、それは一緒の旅の終わりを告げてる。

 もう二度と会えないかもしれないと想うと、寂しさはある。だけど、一人で行く決意は変わらない。だから、やっぱり、今日で終わりだ。



「青さん。おれ、青さんみたいになりますよ!」

 朝輝の熱いまなざしがささった。僕は返す言葉に迷ってしまう。

「じゃあ、あたしはヒカルさん(笑)」

 !

「頼むからそれはやめてくれ」

「青クン。どういう意味だ?」

「いや、別に・・・・・・」

「かわいいアサがオレのようになるのが、どこがいけないかな〜」

「ははは・・・・・・。自分の胸に聞いてみな。アサも冗談でもそういうこと言うなよ? 心配になる」

「はーい♡」

「って、わかってるのか?」

「もちろん。青さん、ありがとう」

 アサはにっこりと笑った。


 このとき、ようやくわかった僕もどうかしてるかもしれない。

 朝輝が僕のようになると言ったのは、朝綺がありがとうと言ったのは、わかったからだ。ここで旅が終わりなことを。

 13歳の少年と12歳の少女――二人にはっきりと別れを告げるつもりはなかった。そして、二人もまたはっきりと別れを聞くつもりがないこともわかった。いや、僕に合わせてくれてるのかもしれない。


 あー、本当になんていうか・・・・・・

「トモもアサも、もう少し子供でいろよ」

 本音を告げはしたけれど、別れの言葉を告げることはできなかった。なにを言っていいのかわからなくて・・・・・・。




 時刻を見れば、深夜。ベッドに腰掛けながら、空の色を見る。空の色はもちろんなにも変わらない。


「ヒカル、起きてるか?」

「起きてる」

「あのさ、今まで、ありがとうな」

 僕はヒカルに感謝の言葉を告げた。

 ヒカルは起き上がり僕を見た。


「本当に助けられたって想ってる。人を殺すまでに至らなかったのは運が良かっただけだって想ってるけど、ここまで無事にこれたのも、剣を抜くべきところで、俺が剣を抜けたのはヒカルのおかげだよ。あの二人を守れたのもな」


 ヒカルはいつものように、にかっとわらう。

「オレがいた意味があったなら、そりゃよかった」


「あー。トモとアサにはちゃんと学校行かせるし、心配すんなよ?」

「ああ」


「俺は明日の朝、行くよ」

「そっか。朝か」

「ああ。く朝でも、麗な朝でもないけどな」

 わざと冗談めかして言うと、ヒカルは「バカだね〜」と言って、ふとんにもぐりこんだ。


 ヒカルはなにも言わなかった。がんばれも、負の神を倒してくれとも。そんなプレッシャーになる言葉は何一つ言わなかった。

 唯一、聞こえた気がしたのは「ごめん」という言葉。

 かすかな言葉で、聞き返すこともできず、本当かどうか確かめられなかった。






 この日、僕は手紙を書こうとした。ヒカルに、朝輝に、朝綺に。それから、彩斗に。

 ここが節目だと想ったというのもあるが、手紙を書いて届けられるのは、ここが最後であるとわかっていたから。


 でも――書けなかった。


 決意を述べてみても、誓いをかかげても、ただの自己満足にしかならないのが、わかっていたから。



 たくさんの感謝と決意を胸に僕は行く。負の神を倒しに・・・・・・。

 この世界を普通だと想ってるけれど、正しくないと想うから。僕にその力があるというなら、僕はその力を使いたい。




 あまり眠ることなく、朝を迎えた。時だけが、朝早いことを伝えていた。

 ベッドから起き上がり、旅支度をする。なるべく音を立てないよう準備をし、静かに部屋を出た。

「ありがとう、ヒカル」

 と、言葉を残して。

 ヒカルが起きていながら、あえて気づかないふりをしてくれてることくらい、僕はわかってたから。



 外の景色はあいかわらずで、昨日と変わったことなど何一つない。

 旅は終わりだ。


 僕は戦いへ行く――。

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