覚悟と感謝
二人に会ったのが、次の街に近くて良かったと、心底思ったのは、食事ぶりを見た後だった。
「ごちそうさまでしたっ。ありがとうございます!」
二人は声を揃えて言った。
ちなみにここまでの間、名前と年は聞いていた。
少年の名は朝輝、少女の名は朝綺。13歳と12歳。
「トモもアサも、いったい何日食べてなかったんだ?」
さすがのヒカルもひきつりながら聞いてる。
「なんとか食いつないでたんで、3日くらい? です。本当にありがとうございます!」
「おいしかったです。ありがとうございます」
まっすぐなトモとかわいらしいアサに「どういたしまして」と応えた。
「ところで、二人は兄妹なのか?」
「違いますよ。おれと朝綺は幼なじみです」
「名前がコレだから、結構言われるんですけど。あたしたちの両親が仲良くて・・・・・・というか」
「仲良かったらしくて? が正しいですかね」
表情を少し曇らせたアサの代わりに、トモが続けた。
「おれたちに両親の記憶はほぼないんです。どこかに出かけたときに、災害に巻き込まれて、亡くなったそうなんで。おれも朝綺も孤児院で育ってきたんです」
「なら、オレと同じだな。オレは教会の孤児院だけどな。で、今回はその孤児院もまきこまれたってーわけか」
「はい。邪力に襲われたのがあの辺りで」
「あたしたちもその中にいたんですけど・・・・・・」
全部言わなくてもわかった。朝輝も朝綺も正の力しか持たないことを。
「おれも朝綺も無事ってわかって、あの場から逃げました。だから、あの後どうなったかは見ていません」
「正解だよ・・・・・・」
「だな。それでオレたちの後をつけたのは?」
「お二人が負の神を倒しに行くと思ったからです」
まっすぐこちらを見てきたトモにため息をついた。
「負の神のところまで他の誰かを連れてく気はないよ」
「おれは邪力に染まりません」
「わかってる。けど、俺には無理だよ・・・・・・」
僕は椅子から立ち上がり「先に宿に行ってる」と告げて、その場を去った。
たぶんヒカルに任せたほうがいいと想ったから。
ヒカルの目がそう言ってたから。
「なんで青さんはダメだって。ヒカルさんはどう思ってるんですか!」
「どうもこうもオレは勇士じゃないから、負の神のとこまでは行けねーよ。オレは無事あいつを届けることが目的だからなぁ」
「おれは行けますよ!」
「そりゃ邪力は怖くないだろうし、倒すことができるっていう意味ではその通りだな。けど、トモ。アサは連れて行く気ないだろ?」
「それは・・・・・・」
「いいよ。朝輝。あたしだってわかってるもん。今のあたしは無理だって」
「ふぅーん。アサのほうが賢い☆ ってわけだ」
「ヒカルさん!!」
「ったく、わかるよ、おまえの気持ちも。けど、トモには身を守る術がないだろ。だから、邪力に襲われたとき、逃げたんだろ。負の神どころか、人にやられる」
「――っ」
「青は自分の力をわかってんだよ。あいつとオレじゃ、オレのほうが強い。青も強いけど、誰かを気遣いながら戦うなんて無理なわけだ」
「おれは足手まといってことですね」
「んー、それでいいんだよ。トモもアサもまだ守られるべき存在だろ。――青を信じろとは言わねーよ。でも、今その力がないことは認めとけ」
「はい。でも、おれは青さんを信じて、自分を強くします」
「あたしも! あたしも守られるだけの存在じゃなくなりたいです」
「そーか。よし、それじゃあ、宿、行くぞ!」
ヒカルはきっと上手くやってくれたと想う。想うけど――
「おっちつかないねぇ、青クン」
部屋に入ってきて早々、ヒカルがからかうように言った。
「二人は・・・・・・」
「隣の部屋。――ったく、大丈夫だよ。アサに関して言えば、ある意味トモより今の自分の力を理解してるし、トモも納得したからさ」
「なら、よかったよ。トモの気持ちはわかるんだけどな」
「でも、そこで連れてかないのが、おまえのいいとこだな」
酒を準備しながら、ヒカルは言った。
ついだ酒を受け取り、軽く乾杯とグラスを上げた。
「なあ、ヒカル。頼んでもいいか。ヒカルなら二人を守りながらも旅できるだろ」
「安心しろ。旅が終わったら、教会に連れてくよ。ホントは今すぐのがいいけど、まー、なんとかなるし、オレの旅には付き合わせることにするさ」
ヒカルは酒をくいっと飲み、にかっと笑った。
僕も少し笑う。
「ありがとう」
「俺のことを信じろとは言わないけど、あの二人に俺のような旅はさせたくないって想ってる」
負の神を倒しに行く旅なんてさせたくない。
危険が伴うから、少なからず重圧があるから――とかでなく、この旅はきっかけがきっかけだけに、悲しみのようなものがつきまとっているから・・・・・・。
「青」
「?」
「オレは青を信じてる」
真剣に言われ
「嘘でも剣を抜けない俺を?」
僕は少し笑ってごまかしながら言った。
でも
「そのためのオレだろ。青が剣が抜けなくても、邪力に襲われた奴を殺せなくても、オレがやる。それを受け入れる覚悟だけで構わない」
ヒカルは真面目に返してきた。
「ヒカルだけにさせる覚悟が俺にはないよ」
僕がそう言うとヒカルは楽しそうに笑った。
「そーゆー奴だよなー。オレはトモとアサに嘘でも剣を突きつけられなくて、なんやかんやで覚悟ができてて、覚悟ができてないから、信じてるのさ」
ヒカルが言うことは俺にはあまり理解できない。ただ
「負の神を倒すって信じてくれることはわかった」
と思ったが、ちがったようだ。
「少しちがうな。オレは青を信じてるんだ」
ヒカルはにかっと笑った。
僕がきょとんとしてると
「まあ、もうちょい飲もうぜ」
と、その話はそこまでとなった。
僕を信じてるという言葉には、ものすごく感謝しなくてはいけなかった。
それがわかるのは、まだ先の話・・・・・・。