邪力と覚悟
この世界にある力。正の力と負の力、そして邪力。
こうは言ってはなんだが、別に不思議ではない。僕らにとっての普通。
負の神がなにかを使って、直接どうこうするというのもまずない。(お伽話?に魔物が出てくるみたいなやつはまずない)
邪力は負の神が操っているものではない。どこからともなくやってくるものだ。
だから、案外穏やかな旅となってたりする。
ただ――
「ここも情報さーっぱり」
ヒカルがお手上げというポーズをつけて言った。
二手に別れ、情報を探し、夕飯がてらミーティング、といったところだが
「そうか。俺もないな」
成果はあがらない。
「だよなー。っつーか、青クン」
「なんだよ」
「さっき子供と遊んでたデショ」
ぎくり。
「やー、ほら、なんか、一人寂しそうにしてたから・・・・・・悪い」
「そーゆーつもりで言ったんじゃねーよ」
ヒカルは夕飯を口にしながら苦笑しつつ言った。
都を出てから半月が経っている。
けれど、なかなか情報は集まらなかった。だいたいにして、勇士が旅に出たという話すら聞くことはなかった。もっとも、僕も彩斗に伝える以外はしてないのだが・・・・・・。
「とりあえず、1泊したら次を目指そう。たぶん、あそこの国は大きいから情報もあるはずだよな」
僕の意見に、ヒカルはうなずいた。
一夜明けて、僕たちはまた次の街へと向かった。国境間際の街にいたので、次に行くところは新しい国でもある。
ちなみに移動手段は歩いたり、乗り合いの馬車だったり、親切な人の馬車に乗せてもらったりで、今も親切な人に、本当に国境間際まで連れてきてもらったとこだった。
ここは国境があるのが枯れ木ばかりが茂る森の中で、ヒカル曰く
「30分もしないで、街につくぞ」
とのことだった。
「ヒカル、来たことあるんだな」
「用心棒の仕事でね。青は外国に行ったことは?」
「俺はないよ。自分の街以外もそんなに見てなかったし。だから、知らないだけで、見ていないだけで、もっとひどいところっていうのがあるのかもしれないとは想うよ」
「んー・・・・・・そんなことはないぞ。どこも同じような状況さ。それに、ヒカリを亡くした今でも、オレはこの世界が普通だとは想ってるしなぁ」
ヒカルは良い奴だと想った。僕の心の重さを取り払ってくれようとしてるんだろう。彼の本音を話すことで。
それと同時に、この世界が普通であることに共感した。生まれてからずっとこの世界なのだから、普通なことはあたりまえだ。
だけど
「だけど、俺は間違っていると想うから、正しくする」
「――おう」
ヒカルは僕の頭を軽くこづいた。
乾いた森を歩いていると、街が見えてきた。
「ヒカルが言ってた時間通りだな」
「だろ。街ついたらどーする? あんま大きな街じゃねーし、都目指して、次の街進むか?」
「そうだな。じゃあ、次の街まで行こう」
「OK」
街に入る前から決めていた。けど、そうせざるを得なくなることをほんの数分後知ることになる。
街はとても静かだった。
「人がいない・・・・・・? ヒカル、この街ってこんな街だったのか?」
「いや。いくらなんでも、それはねーよ。とりあえず、どこか店とか教会――が近いはずだ」
僕たちは教会を訪ねた。
「この街になにかあったのですか?」
僕は優しそうな若い女性の賢者に聞いたが
「邪力に襲われました。2週間前のことですが・・・・・・」
その答えはわかってた。
ただ
「――にしたって、ひどすぎやしません? 邪力でここまで街が静まるって」
「えぇ、中心部が襲われたというのもあるかもしれませんが、邪力に襲われ壊れた人をすぐに倒すことができなかったのです・・・・・・。結果として、ここの人口はだいぶ減ってしまいました。別のところへ引っ越した方もおりますし、一時的に離れている方もおりますので、ここはだいぶ不安定になっています。早めにここを離れるべきですよ」
彼女は疲れた様子を隠せてはいなかったが、僕らを気遣うように微笑んだ。
けれど、心に刺さったのは、彼女の気遣いではなかった。
僕には、邪力によって、壊れた人を殺す覚悟はあるのだろうか・・・・・・。
「青。青!」
はっ。
静かすぎる街の中、自分の名前が響いた。
「悪い、聞いてなかった」
ヒカルは軽くため息をついて
「あーんま、考えこむなよ。まあ、この状況見て、それも酷かもだけどね〜」
軽い調子で言ったあと、少しだけ真面目な表情をして言った。
「邪力に襲われた奴は、手遅れだからな」
僕は「わかってる」とうなずいた。
――の、タイミングで、ヒカルは剣を抜いた。
「子供だよ」
「知ってるさ。けど、純粋に子供っては言えなさそうな年に見えるけどね」
少しズキッとした。
後をつけられていることを知っていて、剣を抜かないところを甘いと言われてる気がした。
年は12、3、4の少年と少女。犯罪に手を染める者は染めているだろう。
けど、その目はとてもそうは見えなかったから・・・・・・。
僕は結局、剣を抜くことはしなかった。