都の教会
丸3日をかけて、都に着いた。移動手段が徒歩ではしょうがない。
「馬、飼う余裕はないしな」
っていうか、あれだな、馬とか考えてるより先に宿だ。あたりまえだが、疲れた。
「少年!」
あー、この辺りで安い宿探していくかな。
「おい、そこの!」
・・・・・・。
「って、俺?」
「そ☆ 君☆」
「・・・・・・」
なんだろうか、この明るいを通りこしたおにーさんって感じの人は・・・・・・。
「えーと、そんな怪しい者を見る目で見ないでくれるとありがたいなあ」
「・・・・・・それは無理かと思いますが」
「で、少年!」
「――無視ですか」
「君を旅人と見受けた! ってことでさ、一緒に旅する気ない?」
頭が回転する状況じゃなかった僕は
「とりあえず、休ませてください・・・・・・」
よれよれと声を出すことが精一杯だった。
ぶっちゃけたところ逃げだしてしまう元気もなかったものだから、おとなしく小さなカフェへとついていった。
疲れてるし、腹も減ってる。
が、しかしだ。
「少年。オレのおごりだ。食べたまえ!」
って、いくらなんでも量多すぎだろ!? なテーブルの上にうんざりしてくるし、さっきから
「少年、少年って、あんた、名乗る気も名乗らせる気もないんですか?」
そう、僕はまだこの人の名前を聞いてない。
「あ、そういえば名乗ってなかったな。オレの名前はヒカル。カタカナでね。年は明日で19。で、少年は?」
「名前は青。青色の青。年は17です」
「青ね。了解。あ、オレのこともヒカルでいいし、敬語もなしでOKね☆」
「じゃあ、遠慮なく」
「で、ヒカルの目的は?」
それはもうズバッと聞いた。
ヒカルには余計な探りなど不必要だと思われたから。
「負の神を倒してくれる奴を守り届ける――かな」
真剣なまなざしが同時に突き刺さった。
それはたぶん一瞬だったけれど。すぐに、にかっと明るく笑って見せてたけれど。
あぁ、僕が勇士であると想ったのか。よくわかったよなぁ。いや、でも、なんかこいつならって思わせるとこはあるか。
3日前の決意は変わることはもちろんないけれど、彼の様子は妙に気持ちを楽にしてくれて、なんでわかったのか考えながら
「そうか」
と、さらっとうなずいた。
食事を終えて、カフェを出る。(とんでもない量はどっちかっていうとヒカルのが食べていた。)
「なあ、青。今夜の宿、決まってないんだろ?」
「着いたばっかだからな」
「じゃ、オレの家、来いよ」
「ヒカルの家――って、ここの人なのか」
「おう! さすがにこれは身軽すぎるだろ」
「まあ、確かに」
剣くらい常備・・・・・・しないと思うが、なにやってるんだろうなぁ。
「あ、ちなみに、すぐだからな」
と言うだけあって、15分もしないうちに到着した。
した、けど――
「教会だよな」
ヒカルは賢者
「賢者じゃないぞ」
考えてたことがわかったみたいで、質問の前に答えをもらった。
こんなぶっとんだ賢者がいないことに思わずほっとしてしまった。まあ、実は賢者として変わっている、彩斗のことはおいておく。
「都の教会はでかいだろ。孤児院もやってんだよ」
「孤児院・・・・・・」
「そ☆ オレもその一人ってわけ。この時代、邪力や災害や犯罪で親兄弟亡くすのなんてザラだからな」
ヒカルはあっさりと言い、門を開け「ただいま〜!」と元気に声を上げた。
そうすると、中庭で遊んでいた子供たちがわらわらと「ヒカル兄、おかえりなさーい」などと、集まってきた。
こういう風景は心があったまった。
ついつい僕も一緒になって相手をしてたら
「そろそろ中へ入ったらどうですか?」
徳の高さそうな賢者に声をかけられた。
「青。疲れてるだろう。今日はゆっくりして、話は明日にしよう」
この日はヒカルの核心に触れることはなかった。
一夜明けて、朝食を食べ終えると、ヒカルの部屋に招かれた。
「コーヒーでも入れるか」
「大丈夫だよ。それで、俺、いくつか聞きたいんだけど」
「どうぞ♡」
・・・・・・どうも緊張感にかけるな。まあ、いいか。
「昨日のヒカルの目的ってどういう意味だよ」
「そのままですよ〜」
「あー、のさ。こんなこと聞くのは、失礼だと思うけど、原因あるだろ」
「んー、そうだな」
「ここは孤児院って言ったろ。で、オレもこの孤児院で育ってきた。まあ、19っていう年でなおここにいるのは、用心棒やってるから。子供の相手してる時間のが長いかもだけどな」
「用心棒か」
剣常備してるのも納得がいった。
「そ、依頼あれば、他にも受けるけど、ここは大事なとこなわけ」
言い方は軽いけど、この場所をここの人を大事に想っていることは伝わってきた。
けど
「だからじゃないだろ? ここを守るためってわけじゃ」
「まーね。まず、オレが孤児になったのは、生まれてまもなく。だからさ、元から親の存在なんて知らない。ヒカルの名前はここの賢者がつけてくれたものだしな。まあ、この孤児院はどっちかってーと、そういう奴らばっかで、もちろんそうじゃない奴らもいるけど、みんな兄弟みたいで大事だよ。もちろんあいつらのためにも世界は正しくなるべきだって想いはするけど」
「ヒカリっていう女の子がいたんだ。オレと同じ日にここに来た奴で、双子のように育っていった」
「・・・・・・」
「けど、死んだ。ちょうど1年前にね。オレたちの誕生日に死んだよ。邪力によって壊れた奴に殺された」
ヒカルは淡々と話し続ける。
「だから、原因である負の神を倒したかったけどさ――オレは・・・・・・できない」
言わないけど、わかった。
ヒカリという少女は、ヒカルの恋人だったことが。
こんな風に大切な人を失い、自分ではどうしようもできない、と想ってる人はどれくらいいるのだろう。倒しにいける僕は恵まれているのだろうか・・・・・・?
「青」
「?」
「青は勇士だろ?」
「――あぁ。俺は負の神を倒すために旅に出たよ。けど、誰かを巻き込むつもりなんてない」
ヒカルは笑って
「わーっかってるって」
となに言ってんだかという感じで言ってきた。
「オレも最後まで連れてけなんて言わねーよ。青だから言ったし、おまえに断られたら、他の誰にも頼まないさ」
僕には誰かと旅をする気なんてなかった。
「よし、じゃあ、行こうぜ☆ 青!」
「・・・・・・」
あーあ、本当に一人で行く気だったんだけどなぁ?
けど、ヒカルの話を聞こうと想った時点で決まっていたのかもしれないし、なんていうか、まあ、いいかって気にもさせる。
「よろしく。ヒカル」
こうして僕に旅の仲間ができた。