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世界の天秤  作者: 雪月
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空が告げる

 青は穏やかな表情で、大事に美夜を抱いて戻ってきた。

 その姿に、ぼくも穏やかに微笑む。涙は見せない。空の色が変わったときに泣いたから――。


「美夜と言葉を交わせた?」

 尋ねると、青は控えめに笑ってうなずいた。

 その笑顔を見て、青がもうあんなふうに笑うことはないことがわかった。時間が解決することがないことが、嫌だけれどわかった。






 ぼくたちは優しい表情をうかべて眠る美夜を丁寧に葬った。


 さよならと心の中でつぶやく。



「私は行きますね」

 晴久様が言葉を放つ。

「行くって、どこへですか?」

「もとより隠居の身ですから。然るべき処へ行きますよ」


 然るべき処・・・・・・。

「――街へは戻られないのですね」


 晴久様は申し訳なさそうに笑う。

「はじめからそのつもりでしたから。彩斗にこんな想いをさせるつもりはなかったのですが」

「それは――わかっております。晴久様、お元気で」

 ぼくは笑顔を見せた。

「ええ、彩斗も――」


「・・・・・・青、君は――」

 晴久様は青に話しかけ

「いえ、なんでもありません。私は先に行きますね」


「晴久様」

 青が呼びかける。


「俺は晴久様に本当に感謝してます。ありがとうございました――。お元気で・・・・・・」


「私も青に感謝していますよ」

 晴久様は優しく告げて、彼方の教会を去った。




「青」

「ん・・・・・・」

「ここに残るのだろう」

「――美夜と一緒にいたいし、戻ることはやっぱ無理だ」

「うん――いいと思うよ」


「たまに会いにくる。青と美夜に。いいだろう?」

「あぁ、もちろん」


「うん、じゃあ、ぼくも行くよ」


 青に背を向け、歩いて行った。



「彩斗!」

 少しして、名前を呼ばれる。

 振り返って青を見ると、ぼくのこれからを考えて呼んでくれたことがわかった。


 だから

「大丈夫だよ。ぼくは賢者なのだから」

 笑った。これで充分。

 きっと青はわかっていただろう。でも、それでもぼくのことを慮ったのだろう。


 安心したように笑った青を見て、ぼくはまた歩きはじめた。

 そして、少し考えて振り返った。


「青! ぼくは真実を!」


「「知れてよかった」」

 声が重なった。


 そうか、さすが親友だ。


「彩斗、ありがとう。もう俺は謝らないよ」

 青が静かに微笑んだ。


 青は人を殺している。それはまごうことなき罪だ。そのことに関して、青が罪と想っていないことなどありえない。罰がないと想っているわけない。でも、その罰は美夜のいない世界を、納得できない世界を、真実を秘めて生きていくことで充分だろう?



 ぼくは笑って、歩きはじめた。もう振り返ることはしなかった。


 青い空が、ぼくたちの普通が終わったことを告げていた。

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