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世界の天秤  作者: 雪月
20/23

空の色

 美夜が立ち去ってどれくらい経ったかわからない。


 僕は彩斗を見た。

「彩斗。美夜はずるいよなぁ」

「青・・・・・・」

「俺だって、あいつが死ぬとこなんて見たくないのに」

「うん・・・・・・」

「耐えられない――なんて、どうしようもできない」

「うん・・・・・・」


「彩斗。――ごめん」

 彩斗がむっとした顔をする。

 賢者がそんな顔って、どうなんだよ。


「謝る意味がわからない。だいたい謝らないって言ったのは青なのだけど?」

「そうだけどな」

 彩斗が大きく息を吐く。

「あのね、わかっているよ、おまえがそう想っていることくらい。青は人を殺している。美夜を守る為に。悪くないとは、正しいとは言わない。でも、悪いとも、間違っているとも言い切れない」


 僕は賢者としておかしい物言いに笑う。ありがとう、と伝えて。

「ありがとうはいいとして、笑うところではないだろう」

「人間味あふれるとこ変わってないなって。後、親友って厄介だよなぁって」

「どういう意味だよ」


「――言ってほしいことがわかるし、隠しててもばれる」


「・・・・・・青」

「なんで――なんで、美夜なんだ・・・・・・? 美夜が美夜だから、世界が選んだことは理解わかるけど、けど――」

「わかりたくなどないよ、ぼくだって」

 まっすぐと彩斗が言葉を放つ。とても鋭いそれは、世界に対する怒りにも想えた。



 僕も彩斗も、静かに佇む晴久様も、納得なんてできてなかった。だけど、どこかで知っていた。いつかこんな日が来ることを。悲しくて、苦しくて、辛くて、せつなくて、やりきれなくて、納得できなくて、許せなくて・・・・・・それでも、受け入れることを――。



「だけど、この現実を受け入れるよ。ぼくは賢者だから」

 彩斗が困ったように微笑わらう。

 彩斗はこれから先もあの街で、賢者として過ごしていく。きっと正しくなった世界をよかった、なんて言ったりしなくてはならないのだろう。賢者だからこそ、真実を知ってるなかで、そんなことを言うのは酷なことで、彩斗だからこそ自然に言ってのけるのだろう。



 !!! なんだ? 今、すごい衝撃が――。


 衝撃を感じた方――教会を見る。

「教会が――崩れて――」

 彩斗がつぶやく。


 なんで、急に・・・・・・いや、つまり――。


「勇士が負の神を倒したのでしょう――」


 そういうことだ――。だから、つまり、美夜は・・・・・・。


「――っ!」

 僕は崩れ続ける教会へ走った。


「青!」

 彩斗が僕の名前を呼ぶ。それは止めるためじゃない。エールだ。僕が死なないことを知ってるから、彩斗は止めない。

 僕は死ねない。人を殺したという罪は、美夜がいない世界を生きることで、罰を受けなくてはいけないから。


 だけど、今は美夜のことだけを想わせてほしい。どうかもう少しだけ、僕たちの普通の世界のままで。






「美夜!!」


 教会は崩れていた。けど、たぶん美夜のために崩れてた。だから、怪我なく僕を導いてくれたのだろうし、壁も天井も壊れてたけど、美夜を傷つけてはなかった。血に濡れた美夜の体は、そのせいじゃないことをわかってた・・・・・・。


 抱きしめると、美夜は涙をこぼしながら僕を見つめた。


 なぁ、美夜。幸せでいる――なんて嘘でも言わない。これからを想って、幸せになんか笑えない。幸せになるなんて嘘はつかない。ごめん、美夜。君が知ってることを知ってるから、これからなんて語らない。


「青――ありがとう。ずっと――愛、してる・・・・・・」


 美夜が涙にぬれた目で、幸せであったと告げるように微笑む。僕の目からも涙がこぼれる。でも、きっと同じように笑ってるだろう? だってさ、これからを想っては無理だけど、美夜と過ごした日々は幸せだったから。


「ありがとう、美夜――。愛してるよ、永遠に・・・・・・」


 これがきっと美夜に届いた最期の言葉。



「僕もずっと愛してる」


 この言葉は届いてない。






 教会はいつのまにか崩れるのが、おさまってた。壊れた天井からは空が見えた。


 空の色は――青かった。


 それは、世界が正しくなったことを教えた。

 だけど、僕にとって普通の世界は、まちがった世界。きっと一生変えられない。きっと一生納得できない。理解はしていても、想いは理屈じゃないんだから。



 美夜を強く抱き、キスをした。


「さよなら、美夜・・・・・・」


 僕は笑って言ったけど、もうあんなふうに笑えてないことをわかっていた。




 空の色はどこまでも青く、澄んでいた。

 それはとてもきれいだ。

 だけど――


 青い空なんて一生見ることができなくても、よかったよ・・・・・・。


 青く澄んだ空は、きっとずっと僕の心を痛め続ける――。



 空の色は本当に青く青く・・・・・・どこまでも――。

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