空の色
美夜が立ち去ってどれくらい経ったかわからない。
僕は彩斗を見た。
「彩斗。美夜はずるいよなぁ」
「青・・・・・・」
「俺だって、あいつが死ぬとこなんて見たくないのに」
「うん・・・・・・」
「耐えられない――なんて、どうしようもできない」
「うん・・・・・・」
「彩斗。――ごめん」
彩斗がむっとした顔をする。
賢者がそんな顔って、どうなんだよ。
「謝る意味がわからない。だいたい謝らないって言ったのは青なのだけど?」
「そうだけどな」
彩斗が大きく息を吐く。
「あのね、わかっているよ、おまえがそう想っていることくらい。青は人を殺している。美夜を守る為に。悪くないとは、正しいとは言わない。でも、悪いとも、間違っているとも言い切れない」
僕は賢者としておかしい物言いに笑う。ありがとう、と伝えて。
「ありがとうはいいとして、笑うところではないだろう」
「人間味あふれるとこ変わってないなって。後、親友って厄介だよなぁって」
「どういう意味だよ」
「――言ってほしいことがわかるし、隠しててもばれる」
「・・・・・・青」
「なんで――なんで、美夜なんだ・・・・・・? 美夜が美夜だから、世界が選んだことは理解るけど、けど――」
「わかりたくなどないよ、ぼくだって」
まっすぐと彩斗が言葉を放つ。とても鋭いそれは、世界に対する怒りにも想えた。
僕も彩斗も、静かに佇む晴久様も、納得なんてできてなかった。だけど、どこかで知っていた。いつかこんな日が来ることを。悲しくて、苦しくて、辛くて、せつなくて、やりきれなくて、納得できなくて、許せなくて・・・・・・それでも、受け入れることを――。
「だけど、この現実を受け入れるよ。ぼくは賢者だから」
彩斗が困ったように微笑う。
彩斗はこれから先もあの街で、賢者として過ごしていく。きっと正しくなった世界をよかった、なんて言ったりしなくてはならないのだろう。賢者だからこそ、真実を知ってるなかで、そんなことを言うのは酷なことで、彩斗だからこそ自然に言ってのけるのだろう。
!!! なんだ? 今、すごい衝撃が――。
衝撃を感じた方――教会を見る。
「教会が――崩れて――」
彩斗がつぶやく。
なんで、急に・・・・・・いや、つまり――。
「勇士が負の神を倒したのでしょう――」
そういうことだ――。だから、つまり、美夜は・・・・・・。
「――っ!」
僕は崩れ続ける教会へ走った。
「青!」
彩斗が僕の名前を呼ぶ。それは止めるためじゃない。エールだ。僕が死なないことを知ってるから、彩斗は止めない。
僕は死ねない。人を殺したという罪は、美夜がいない世界を生きることで、罰を受けなくてはいけないから。
だけど、今は美夜のことだけを想わせてほしい。どうかもう少しだけ、僕たちの普通の世界のままで。
「美夜!!」
教会は崩れていた。けど、たぶん美夜のために崩れてた。だから、怪我なく僕を導いてくれたのだろうし、壁も天井も壊れてたけど、美夜を傷つけてはなかった。血に濡れた美夜の体は、そのせいじゃないことをわかってた・・・・・・。
抱きしめると、美夜は涙をこぼしながら僕を見つめた。
なぁ、美夜。幸せでいる――なんて嘘でも言わない。これからを想って、幸せになんか笑えない。幸せになるなんて嘘はつかない。ごめん、美夜。君が知ってることを知ってるから、これからなんて語らない。
「青――ありがとう。ずっと――愛、してる・・・・・・」
美夜が涙にぬれた目で、幸せであったと告げるように微笑む。僕の目からも涙がこぼれる。でも、きっと同じように笑ってるだろう? だってさ、これからを想っては無理だけど、美夜と過ごした日々は幸せだったから。
「ありがとう、美夜――。愛してるよ、永遠に・・・・・・」
これがきっと美夜に届いた最期の言葉。
「僕もずっと愛してる」
この言葉は届いてない。
教会はいつのまにか崩れるのが、おさまってた。壊れた天井からは空が見えた。
空の色は――青かった。
それは、世界が正しくなったことを教えた。
だけど、僕にとって普通の世界は、まちがった世界。きっと一生変えられない。きっと一生納得できない。理解はしていても、想いは理屈じゃないんだから。
美夜を強く抱き、キスをした。
「さよなら、美夜・・・・・・」
僕は笑って言ったけど、もうあんなふうに笑えてないことをわかっていた。
空の色はどこまでも青く、澄んでいた。
それはとてもきれいだ。
だけど――
青い空なんて一生見ることができなくても、よかったよ・・・・・・。
青く澄んだ空は、きっとずっと僕の心を痛め続ける――。
空の色は本当に青く青く・・・・・・どこまでも――。




