普通の世界の終わり
負の神として、勇士と――いえ、勇士たちと対峙する。
いつかこんなふうに多くの勇士がやって来ると思ってたけど、今日だとは思っていなかった。
5人ね――。
「ずいぶんとたくさんの勇士がやって来たのね」
「――あなたが作った邪力で大切な人を亡くした正の力のみがある者にすぎない」
1人の少年が強いまなざしをあびせる。
「卑怯だと言うなら、おれ一人で戦ってみせる」
「! 朝輝、なんで」
「朝綺、おれは負ける気なんてない」
少年と少女のやりとりを聞いて、はっとする。
トモキとアサキ――17、8歳の少年と少女・・・・・・青が助けたという、一緒に旅をしたという2人。
あぁ、青が会わなくてよかった――。
だけど、青は知っていたのだろうね。彩斗がヒカルと会ったのだから、絶対に。ヒカルが知らないわけないのだから。伝えていないわけないのだから――。
「おれがいく」
朝輝と呼ばれた少年が、私に剣を向ける。
彼が一人で立ち向かうのは、栄誉を手に入れるためではないでしょう。こんな普通の姿をしている者を倒すことに抵抗がないわけない。彼は重荷を独りで背負うんだろう・・・・・・。
「好きにすればいいわ」
私は冷たく微笑んだ。そして、同じように剣を向ける。
キンッ――。
冷たい音が響いた。
こんな世界だし、まわりもそうだったからかもしれないけど、剣の実力はなかなかのものだったりする。だけど、この人数がいて、鍛え上げているであろう彼らに敵うはずないでしょう。もちろん勝つつもりはないけれど、負の神として負けなくてはいけない。あっさりなんか負けられない。余裕のない姿なんて、早々に見せられない。
負の神の真実をばらすことはあってはいけない――。
そんなこと、私は受け入れない。知らないことの罪は知らせてはいけない。彼らは彼らの罪を知ってはいけない。
――ううん、本当は知るべきなのかもしれない。これからの世界のためには。そう、想わないこともないわ。
でも、わかるから。
人が繰り返すことも、世界が案外もろいことも。真実を知ったからといって、変わらないことだってあるし、悪くなることだってあることも。
そう、だったら、真実を告げる必要なんてないわ――。
これから先も負の神は誕生してしまうでしょう。どんなにがんばっても、私の代わりは現れるでしょう。この世界の天秤が狂わない限り――。同じことを繰り返す・・・・・・。
それがわかっていながら、死ぬなんて馬鹿みたいね・・・・・・?
馬鹿みたい。だけど、その道が正しい。青と一緒に生きていたい。青に守ってもらうことに耐えられない。どうして私なのですか? 私の宿命をわかっています。どうしようもないことをわかっています――。だから・・・・・・。
冷たい剣の音が響き続ける。どのくらいの時間が経っているかなんてわからない。余裕を保ちながらなんて厳しかった。なにより、彼は強かった。涼しい顔をしているのは限界に近かった。
だから、タイミングはよかったのかもしれない。
左肩に矢が刺さる。
放たれた方を見ると、朝綺と呼ばれた少女が決意のこもった目で見ていた。
「卑怯だって言われようと、あたしたちは世界を正しくしなきゃいけないっ」
きっと、こんなふうに弓をひいたことはなかったのだろう。
小さな震えとこぼれそうな涙から、わかった。
痛む心を無視して冷たく「そう?」とつぶやく。肩から矢を抜き捨て、片手で剣をかまえる。
致命傷にはなっていないけれど、血は流れ、痛み、力は入らない。
もう、充分でしょう? 余裕のあるフリなんか――。
少年の剣を受け入れる。
それは確かに私を死に導くものでした――。
あぁ、ほらなんだかぐらついて・・・・・・。
「教会が崩れるぞ!」
勇士の一人が叫んだ。
「早くここを!」
「王子! 姫! 行くぞ!!」
3人の勇士は教会を後にした。
少女が残っているのは、少年が残っているから。少年が残っているのは、私の意識がまだあるから。
彼がもう一度、剣を向けたときだった。
「さっさと逃げろ!! このバカがっ!」
「ヒカルさん!?」
「トモもアサもいいから急げ!」
「けど、まだっ」
「一発で急所を狙わなかった甘さだろ。それにわかんねーのか? 充分だ。アレじゃもう助からない」
「相手は負の神なんですよ!?」
「――じゃあ、一緒に死ぬのか。おまえもアサも。この状況を考えろ」
「! 本当にヒカルさんには敵いませんね。そうですよね。ごめん、朝綺、行こう」
「うん。ありがとう、ヒカルさん」
「それはいいから、急いで出ろよ」
「ヒカルさんも急いでくださいよ!」
「用事棒バカにすんなよ? アサをちゃんと守れよ、トモ!」
2人の勇士も去って、ヒカルだけが残った。
私は負の神でいることをやめた。
「――まだ、話せるか? おじょーさん」
「ええ。ヒカル――ごめんなさい。後・・・・・・ありがとう」
「! ハハ、やんなるねぇ。セリフとられちゃったな〜」
彼は少し悲しそうに笑う。
「おじょーさん、ごめんね。オレは本当にあの世界でよかったよ。あいつらに真実を気づかせないでくれてありがとな」
私は首を横に振った。
ヒカルは最後にヒカルらしく笑って、教会を後にした。
――あぁ、苦しさも逆にわからなくなってきた。きっともうすぐ終わる。青に――会いたいな・・・・・・。
「美夜!!」
「! あお・・・・・・」
青が私を抱きしめる。私は青の顔が見たくて、上を見る。涙があふれて止まらなかった。青が今、ここにいてくれることが幸せだった。
ねぇ、青。幸せでいて――なんて嘘でも言わない。あなたは今までの時間に対して、幸せに笑ってくれたけど、きっとこれからを思っては幸せな笑顔なんて見せない。幸せになってくれたらうれしいけど、ごめんね? わかってしまう。
「青――ありがとう。ずっと――愛、してる・・・・・・」
青が涙にぬれた目で笑った。とても優しく、幸せであったことを告げるように。ねぇ、私もそんなふうに笑っているでしょう? だってね?
とても、とても、幸せでした。




