表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の天秤  作者: 雪月
17/23

正の王子と正の姫

「正の王子と正の姫――って呼ばれている2人が中心となってね」


「――それはヒカルから?」

「そう。孤児院の子たちだから止めたらしいけれど」

「そうか。そんなの聞く耳持つわけないのに言ったんだな」

 僕は苦笑して言った。

 正の王子と正の姫が、誰かわからないはずない。


「正の王子は朝輝。正の姫は朝綺。――なんだろ?」


 僕が名前をあげたことに、驚くことなく彩斗はうなずいた。

「俺が2人と顔見知りなこと、聞いてたのか?」

「いや、聞いていないよ。でも、真実を知った今、だからヒカルは話したのだってわかるよ――」

「そう――だな。俺もそう想う。ヒカルは・・・・・・良い奴なんだよな」

 そして、それを僕は踏みにじってるんじゃないだろうか。そう想わないことはない。でも、美夜を殺されたりなどしたくない、絶対に。だから、トモとアサが本気でくるというなら、剣を抜く。



 覚悟がいることだった。

 人を殺すことに抵抗がないなんていうことも、罪悪感がないということもありえることではない。けれど、親しい人間を手にかけなくてはいけないというのは、それだけじゃない。でも、そうだとしても、僕はわかってた、美夜が1番だということを。僕は自分の想いを犠牲にできるようなすばらしい人間でも、強い心の持ち主でもない。

 だから――


「けど、俺は美夜を守るよ」


 それはここで美夜と再会したときから変わることのない決意。そして、僕の願い。


 彩斗は呆れたように笑って言った。

「そんなことは知っているよ」

「うん――とめる?」

「・・・・・・わかっていながら聞くかな。とめない。だけど」

「協力はしない――なんてことは、わかってるよ。それに、それで充分」


 こんな状況だからこそ、僕たちの会話は厄介さがあった。

 幼なじみで、親友であるから、言わんとすることが、本音が見えてしまう。それが厄介だった。わからなければ言えることが、わかると言えないことだってある。彩斗が僕の想いをわかってる、ということがなんだか辛かった。



「青」

「ん」

「ヒカルから伝言」

「は?」

 って、あいつはこうなるってわかってた、ってことだよな? さすがとしか言えないけど、なにを――。


「『オレは青を恨んでない。むしろ、ゴメン』」


 僕はぽかんとなる。

「――ははっ、そっか」

「うん」


 ったく、彩斗といい、ヒカルといい、泣きたい気分にさせてくれるよ、本当に。

 そして、彩斗に――親友に――問いたかった。僕を恨んでるかどうか。僕はまちがったことをしてるかどうか。

 彩斗がどう答えるかなんて、簡単すぎたけども聞きたかった。聞けないと想うからこそ――。




 その日はなかなか眠りにつけず、いつもより遅く起きた。彩斗もたぶん寝れてないはずだが、普通に起きたようでさすがと言える。


「おはよう、青」

「おはよ、美夜。彩斗と晴久様は教会?」

「彩斗はね。晴久様は庭園。2人は朝食とったから、私たちも食べよう」


 美夜は楽しそうに朝食の準備をする。

「いただきます」

 と声をそろえて、笑いあって食事をした。

 そこにあるのは、幸せな一コマだ。この世界はまちがってる。それでも幸せがある。そして、この世界の姿は普通。


 だから――だから、どうかこのままで。


 そう想う僕はまちがってるんだろうか?

 朝輝と朝綺は絶対にやってくるだろう。そのとき僕は負の騎士として対峙する――。



「あ、青、起きているね。おはよう」

 食後のお茶にうつってると、彩斗が戻ってきた。

「おはよ」

 って、まったくもって眠くなさそうなあたり、やっぱ賢者なんだよなぁ。


「あ、彩斗もお茶飲むでしょ?」

「ありがとう、もらうよ。――晴久様は?」

「庭園にいるけど、そろそろ戻ってくると思うわよ」

「じゃあ、先に頂いておくかな」


 2人がそんな会話をしてると、晴久様が戻ってきた。

 僕たちは街の様子を彩斗に尋ねたり、思い出話をしたり、ただのお茶の時間を楽しんだ。






 普通の日々が数日流れた。

 久しぶりに雨が降った次の日だった。



 僕と美夜は庭園で、雨上がりのやっぱり普通の姿じゃない光景をただ眺めてた。


「綺麗だね」


 声がする方を見ると、彩斗が旅支度をした姿で立っていた。


「――帰るのか?」

「うん。見習いに任せておくわけにはいかないからね」

「そうだよな・・・・・・」


 彩斗は穏やかに笑う。

「2人に会えてよかったよ」


 美夜が伝える。

「ありがとう」

 と・・・・・・。


 その想いは僕も同じで、呼び止めようとしたときだった。晴久様が神妙な顔をして、あらわれたのは。


 僕は気づく。

 朝輝と朝綺たちがやってきたのだと。


 気づいてる彩斗は知らないフリをして

「ぼくは行くよ」

 普通に告げてくれた。

「――ありがとう、彩斗。見送ることはできないけど、元気でな」

 僕は笑って、教会へ行こうとした。



「青」


 美夜が優しく呼ぶ。



「もういいよ、青」



 それは胸がしめつけられるくらい綺麗な笑顔を見せて言った。

 哀しさも、せつなさもない幸せな笑顔。幸せをくれる笑顔。



「私は生きたいよ。死にたいなんて想えない。この想いは間違っているなんて、自分勝手なわがままだなんて想わない。だって私は神様じゃない、ただの人間だもの」

「――」

「だけど――もうこれ以上、青に守ってもらうことに耐えられない」


「ねえ、青」

「・・・・・・うん」

「私は幸せよ。青に守ってもらったこの時間も、あの街で過ごした時間も。ずっと幸せよ」


 きらきら降ってくる。

 君の幸せを告げる言葉が、笑顔が、とてもきらきらと心に降る。


「美夜・・・・・・。どうしてもか」

「――うん、どうしてもよ」


 そんな笑顔で、優しいまなざしなんか向けられて、彼女をとめることができるはずない。


 僕は美夜に生きてほしい。なにを犠牲にしても・・・・・・。

 でも、美夜は決めてしまった。

 そして、悔しいことに僕が止めることができないことを知っている。唯一つ、君の想いを犠牲にすることはできないから。




 美夜は僕にキスをして、最高の笑顔で

「愛してる」

 伝えてくれた。


 だから僕も笑顔を返す。

 君と過ごした日々は、いつだって、ケンカしたって、悲しい出来事があったって幸せだったから。


「僕も愛してるよ」


「! 久しぶりに聞いた、僕っていうの」

「二度と言わないよ」

「うん。――ありがとう、青。行くね・・・・・・」

「うん――行ってこい」


 笑顔で君は旅立つ。笑顔で僕は送り出す。



 もうすぐ世界が正しくなる。僕らにとっての普通が終わる。空の色が変わる――。




「彩斗」

「――うん」

「もう少しさ、ここにいてくれないか」

「――うん・・・・・・」


 僕は親友にお願いをした。


「空の色が変わるまで」


 紫がかった灰色の空を見ながら・・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ