正の王子と正の姫
「正の王子と正の姫――って呼ばれている2人が中心となってね」
「――それはヒカルから?」
「そう。孤児院の子たちだから止めたらしいけれど」
「そうか。そんなの聞く耳持つわけないのに言ったんだな」
僕は苦笑して言った。
正の王子と正の姫が、誰かわからないはずない。
「正の王子は朝輝。正の姫は朝綺。――なんだろ?」
僕が名前をあげたことに、驚くことなく彩斗はうなずいた。
「俺が2人と顔見知りなこと、聞いてたのか?」
「いや、聞いていないよ。でも、真実を知った今、だからヒカルは話したのだってわかるよ――」
「そう――だな。俺もそう想う。ヒカルは・・・・・・良い奴なんだよな」
そして、それを僕は踏みにじってるんじゃないだろうか。そう想わないことはない。でも、美夜を殺されたりなどしたくない、絶対に。だから、トモとアサが本気でくるというなら、剣を抜く。
覚悟がいることだった。
人を殺すことに抵抗がないなんていうことも、罪悪感がないということもありえることではない。けれど、親しい人間を手にかけなくてはいけないというのは、それだけじゃない。でも、そうだとしても、僕はわかってた、美夜が1番だということを。僕は自分の想いを犠牲にできるようなすばらしい人間でも、強い心の持ち主でもない。
だから――
「けど、俺は美夜を守るよ」
それはここで美夜と再会したときから変わることのない決意。そして、僕の願い。
彩斗は呆れたように笑って言った。
「そんなことは知っているよ」
「うん――とめる?」
「・・・・・・わかっていながら聞くかな。とめない。だけど」
「協力はしない――なんてことは、わかってるよ。それに、それで充分」
こんな状況だからこそ、僕たちの会話は厄介さがあった。
幼なじみで、親友であるから、言わんとすることが、本音が見えてしまう。それが厄介だった。わからなければ言えることが、わかると言えないことだってある。彩斗が僕の想いをわかってる、ということがなんだか辛かった。
「青」
「ん」
「ヒカルから伝言」
「は?」
って、あいつはこうなるってわかってた、ってことだよな? さすがとしか言えないけど、なにを――。
「『オレは青を恨んでない。むしろ、ゴメン』」
僕はぽかんとなる。
「――ははっ、そっか」
「うん」
ったく、彩斗といい、ヒカルといい、泣きたい気分にさせてくれるよ、本当に。
そして、彩斗に――親友に――問いたかった。僕を恨んでるかどうか。僕はまちがったことをしてるかどうか。
彩斗がどう答えるかなんて、簡単すぎたけども聞きたかった。聞けないと想うからこそ――。
その日はなかなか眠りにつけず、いつもより遅く起きた。彩斗もたぶん寝れてないはずだが、普通に起きたようでさすがと言える。
「おはよう、青」
「おはよ、美夜。彩斗と晴久様は教会?」
「彩斗はね。晴久様は庭園。2人は朝食とったから、私たちも食べよう」
美夜は楽しそうに朝食の準備をする。
「いただきます」
と声をそろえて、笑いあって食事をした。
そこにあるのは、幸せな一コマだ。この世界はまちがってる。それでも幸せがある。そして、この世界の姿は普通。
だから――だから、どうかこのままで。
そう想う僕はまちがってるんだろうか?
朝輝と朝綺は絶対にやってくるだろう。そのとき僕は負の騎士として対峙する――。
「あ、青、起きているね。おはよう」
食後のお茶にうつってると、彩斗が戻ってきた。
「おはよ」
って、まったくもって眠くなさそうなあたり、やっぱ賢者なんだよなぁ。
「あ、彩斗もお茶飲むでしょ?」
「ありがとう、もらうよ。――晴久様は?」
「庭園にいるけど、そろそろ戻ってくると思うわよ」
「じゃあ、先に頂いておくかな」
2人がそんな会話をしてると、晴久様が戻ってきた。
僕たちは街の様子を彩斗に尋ねたり、思い出話をしたり、ただのお茶の時間を楽しんだ。
普通の日々が数日流れた。
久しぶりに雨が降った次の日だった。
僕と美夜は庭園で、雨上がりのやっぱり普通の姿じゃない光景をただ眺めてた。
「綺麗だね」
声がする方を見ると、彩斗が旅支度をした姿で立っていた。
「――帰るのか?」
「うん。見習いに任せておくわけにはいかないからね」
「そうだよな・・・・・・」
彩斗は穏やかに笑う。
「2人に会えてよかったよ」
美夜が伝える。
「ありがとう」
と・・・・・・。
その想いは僕も同じで、呼び止めようとしたときだった。晴久様が神妙な顔をして、あらわれたのは。
僕は気づく。
朝輝と朝綺たちがやってきたのだと。
気づいてる彩斗は知らないフリをして
「ぼくは行くよ」
普通に告げてくれた。
「――ありがとう、彩斗。見送ることはできないけど、元気でな」
僕は笑って、教会へ行こうとした。
「青」
美夜が優しく呼ぶ。
「もういいよ、青」
それは胸がしめつけられるくらい綺麗な笑顔を見せて言った。
哀しさも、せつなさもない幸せな笑顔。幸せをくれる笑顔。
「私は生きたいよ。死にたいなんて想えない。この想いは間違っているなんて、自分勝手なわがままだなんて想わない。だって私は神様じゃない、ただの人間だもの」
「――」
「だけど――もうこれ以上、青に守ってもらうことに耐えられない」
「ねえ、青」
「・・・・・・うん」
「私は幸せよ。青に守ってもらったこの時間も、あの街で過ごした時間も。ずっと幸せよ」
きらきら降ってくる。
君の幸せを告げる言葉が、笑顔が、とてもきらきらと心に降る。
「美夜・・・・・・。どうしてもか」
「――うん、どうしてもよ」
そんな笑顔で、優しいまなざしなんか向けられて、彼女をとめることができるはずない。
僕は美夜に生きてほしい。なにを犠牲にしても・・・・・・。
でも、美夜は決めてしまった。
そして、悔しいことに僕が止めることができないことを知っている。唯一つ、君の想いを犠牲にすることはできないから。
美夜は僕にキスをして、最高の笑顔で
「愛してる」
伝えてくれた。
だから僕も笑顔を返す。
君と過ごした日々は、いつだって、ケンカしたって、悲しい出来事があったって幸せだったから。
「僕も愛してるよ」
「! 久しぶりに聞いた、僕っていうの」
「二度と言わないよ」
「うん。――ありがとう、青。行くね・・・・・・」
「うん――行ってこい」
笑顔で君は旅立つ。笑顔で僕は送り出す。
もうすぐ世界が正しくなる。僕らにとっての普通が終わる。空の色が変わる――。
「彩斗」
「――うん」
「もう少しさ、ここにいてくれないか」
「――うん・・・・・・」
僕は親友にお願いをした。
「空の色が変わるまで」
紫がかった灰色の空を見ながら・・・・・・。




