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世界の天秤  作者: 雪月
16/23

灰紫の夜

「彩斗、大丈夫?」

 美夜が心配そうにぼくを見る。それから「ごめん」と小さくつぶやき

「大丈夫なわけないわよね・・・・・・」

 申し訳なさそうに言った。


「本当にごめ――」

「俺は」

 美夜の謝罪を青が遮る。そしてきっぱり告げてきた。


「謝らない。悪いだなんて想ったりしない」


 ぼくは少しだけ笑って「それがいいと想う」と応えた。



 その応えは嘘ではない。青に謝ってほしいとも、謝るべきだとも、青が悪いとも想わない。もちろん美夜に対してだってそうだ。ぼくが言ったことは本音。けれど、青は違う。つくづく親友とは面倒である。わかってしまうに決まっている。青は様々なことをわかっているし、きっと本当は謝ってしまいたいだろう。自分が悪くないなどと想っているわけない。だけど謝ってしまったら、悪いと言ってしまったら、美夜を辛くさせてしまう。青は美夜を死に至らす者から守っているのだから・・・・・・。もちろん美夜だって気づいているのだ。そして、美夜が気づいていることを青だってわかっている。けれど、それでも、言うことに、言わないことに意味はあるのだ――。






 ひどく不安定な空気を晴久様がまとめ、実は夜だったりしたので、眠りにつくことになった。――などと言っても、眠れるわけないのだけれど。



 ぼくは今、独り庭園にいる。この庭の姿が――

「普通とは想えないよな」

 !

「――青・・・・・・」

「悪い、驚かせた」

「いいよ、別に。美夜は一緒ではないの?」

「ん、うん、俺だけだと都合悪かったりした?」

 青が少しふざけた感じで言う。

 わかっているくせによく言うものだ。


「むしろ逆だよ。だいたいわかっていただろう、ぼくが話していないことがあることくらい」

「まあ、そうだな。美夜には言いづらいことだろ」

 その通りだった。美夜が負の神であるからこそ、正の力のみを持つ者の話などできない。


「ヒカルの話をしただろ」

「あぁ」

「彼が勇士であったことは聞いてなかったけれど、色々な話をしたよ。なかなか多くのことを隠していたことは、今更ながらわかるけれど――」

 自分が勇士であったことも、負の神のことも驚くくらいに隠していたということがわかる。あの物言いだったりで、しっかりと隠してくれたものである。けれど、青が負の騎士だと想っていることを、彼は隠すことはなかった。たぶん、それは伝えてほしかったからだろう。


「彩斗」

 言葉を止めたぼくに青が声をかける。

「俺に言うことがあるんだろ」

「――いい話ではないよ」

「わかってるよ」

 青は困ったように笑う。ぼくは覚悟を決めた。


「負の騎士である青と対峙したとき、負の騎士を倒せる者を連れてくると言ったけれど、あれは半分本当の話だよ。ぼくが連れてくるのではなく、自らやってくるのだけどね――」

「・・・・・・それでもって、複数ってことか。一人でなくていいなんて言ってたってことは」

 ぼくはうなずく。

 青にどうするつもりなのか、尋ねることは憚れた。聞かずとも答えはわかったから。今のぼくに青を止めることはできない。いっそのこと逃げてほしいけれど、それはできない。ここを去ったら、美夜は死んでしまう。負の神になったということはそういうことだった。だからこそ、青は負の騎士になって、ここにいるのだ。そして、人を殺めるのだ。それをわかっているが、なにも言えない。美夜のことがわかるほどに、2人の関係がわかるほどに。だから、青を止められない。けれど、共に美夜を守ることはできない。それは、賢者だからではない。ただ、ぼくがずるいだけ。そしてそれは、ぼくだけでなく、晴久様も、ヒカルもなのだ。だからこそ、晴久様は見つめていたのだろうし、ヒカルは告げたのだろう。


「正の王子と正の姫」


 の存在を・・・・・・。きっと青に伝えるべく。






 この日はとても衝撃的な日であったと想う。それでも、やはりいつもと同じ夜だった。庭園の姿だけは普通ではなくても。正しくないと言われる世界だけれども、この夜の色は普通だった。朝も昼も夜もすべて同じ景色を見せる世界。

 世界は本当にいつもと同じで、ただ――ぼくの世界は大きく変化した。

 負の騎士と対峙し、負の神があらわれ、青に再会し、美夜を思い出し、自分の罪を知り、人の罪を知って・・・・・・。


 どうしてなのかと詰問できるのであればしたい。他でもない世界に――。何故こうまでしなくてはいけないのかと。

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