普通の世界
真実を知り、様々な罪を知った。協力者――ヒカルが言っていたこともわかった。
旅に出て、とりあえず都へとやって来た。
顔見知りもいることなので、孤児院も兼ねている都一の教会を訪ねた。
「彩斗くん、久しぶりですね。どうかされたのですか?」
「まあ、少々用事がありまして」
「そうですか。晴久様が行方知れずになって、結構経ちますが、大変では?」
「そのあたりはなんとかなっておりますよ」
などと、近況報告をし、教会を後にした。
「そう簡単に情報は得られず、か――」
ぽつりとつぶやくやいなや
「少し時間くれませんか、賢者さま」
声をかけられた。
ぼくはヒカルと名乗る青年に、人気のないだだっぴろい広場へと連れてこられた。
「人が集まりそうなところなのに、ずいぶんと寂しいところだね」
「邪力に襲われたとこなんで、ってことですよ。ま、聞かれたくない話をすんのにはもってこいってわけです」
「――君と会うのは初めてだと思うけれど?」
「でっすね〜。彩斗さま」
「・・・・・・なんで、名前を――」
「青を知ってます?」
「! 君こそ青を知って――?」
「一緒に旅してましたからねー。負の神を倒しにいくっていう。もっともオレは、途中まで用心棒として同行したにすぎませんがね。あの街からの賢者さまが来たって聞いたんで、そうかなって想いまして」
「彩斗さまは、青の親友の賢者でしょう?」
「・・・・・・そうだけれど、よく――」
「あー、オレ、勘いーんです☆」
にっこりと笑われ、自分はどのような顔をすべきかわからず、苦笑になる。
「そ、そうか。ところで、その様づけと敬語をやめてくれると助かるんだけどね。賢者と想ってくれなくていい。ぼくを青の親友と想ってくれているのなら」
「なるほどね〜。人間味あふれる賢者って、わかるよ。きっと彩斗のいいとこなんだな」
「それはどうも、ハハハ・・・・・・」
少しだけ間があく。
「彩斗。オレは勘もいいし、教会で育ってきた用心棒っていう特殊な状況ってものあってさ、普通知らないことを知ってしまってる」
「?」
「だから、負の騎士の話も知ってる。彩斗の街の勇士が亡くなって、手紙届いたんだろ」
「! それは――勘?」
「まー、そこ含め、考えた結果だな。オレはね、負の騎士の噂を聞いたときから、負の騎士の正体を予想してた。で、彩斗がこうしてココに来て、確信した」
すごいことを言われているはずなのに、ぼくは妙に落ち着いていた。きっとその原因はヒカルにあるのだろう。ヒカルがひどく穏やかに、微笑っていたことに・・・・・・。
だから尋ねた。正直に。
「何故そんなにも普通でいられるんだ――?」
彼はきょとんとしてから、にかっと笑って
「世界は今のままでなんも変わんねーし、普通だろ☆」
あっさりと応えた。
なんだろうか、この軽さは。重いことを話しているはずなのに、おかしくはないか?
「――まあ、もちろんコレはオレの考えで、ふつーは言わねーよ? けど、青を恨んだりはしてないのは本当。それにだ!」
「それに?」
「オレはなかなかずるいんですよ、彩斗サマ」
「???」
ぼくが納得出来ない顔をしていると、少しだけ彼は悲しそうな笑みを見せた。
「とりあえずさ、オレが案内するよ。負の神がいるって言われてる彼方の教会までね☆」
話をたぶんそらされたのだろう。ヒカルは青と美夜の関係を知るはずはなかった。けれど、青が負の神の正体を知れば、殺すことができないことは知っていたのであろう。自分がそうであったように――。
知らないことは罪だ。なにも考えずに青を送り出したことは罪だった。ぼくは賢者でありながら、多くの人に対して、罪を犯した。けれど、わかる。ヒカルの言っていたあの言葉が。
「世界は今のままでなんも変わんねーし、普通だろ☆」
この世界は普通。この世界で生きていくことはできる。悲しい出来事は少なくない。けれど、幸せがないわけではない。優しい少女を殺してでないと正しい世界にならないというのならば、そのことを放棄してもいいのではないかと想うぼくがいる。大切な――幼なじみで、親友である美夜を殺さなくては、正しい世界にならないというのならば・・・・・・。
生きている美夜を責めることも、負の騎士となった青を責めることも、咎めることをしない晴久様を責めることも、真実を知ってしまったらできるわけなかった。なにもかもがわかってしまったから、わかってしまうから。そして、諭すことができるほど、ぼくは立派な人ではなかったから。ぼくはいつだって、彩斗であることを捨てられない。
「彩斗。これが私たちが知る真実です」
晴久様の小さな言葉はとても重く感じられた・・・・・・。




