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世界の天秤  作者: 雪月
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完璧な勇士

 美夜の話を聞いて、ヒカルが勇士であったことをはじめて知った。

 ヒカルの言葉が今ならわかる。

 「信じてる」という言葉は、僕がすべてを知って、とる行動に対しても含まれていたのだろう。真実を知ることを前提としてなくとも、きっとそういうことだ。

 そして、謝罪の言葉が聞こえたのは、気のせいじゃない。僕に託したことに対しての謝罪。もしかしたら、自分の罪に対してなのかもしれない。勇士であることを放棄し、このままの世界でいいと想ってる、という罪。なぜなら


「一人しかつれてこない、って言ってたの」

「つまり、俺だけってこと?」

「うん。その一人が私を倒せなかったら、そのままでいいって。完璧な勇士をつれてくるって言ってたけどね」

「完璧か・・・・・・」

「うん、そう。だから、ヒカルはちゃんと約束を守ってくれた。青は勇士として完璧だもの」


 ヒカルはなにを想って、僕に声をかけたかはわからない。すぐに到着するはずの旅を長くしたのは、僕を見極めるためだったのか、美夜のためだったのか、ヒカル自身の覚悟のためだったのかはわからないけど、僕を完璧な勇士だと想って、ここへ連れてきてくれた。でも


「一番、最悪だよ、俺は――」

「青、それは・・・・・・」

 困った顔をした美夜の頭をなでて、僕は笑った。

「俺が決めたことだよ」


 そう、僕が決めたこと。




 僕の罪と美夜の罪はちがう。けど、ヒカルの罪は通じるものがある。本当に感謝をしてる。でも、僕は僕が負の騎士になることで、勇士を放棄した罪を更に重くしてる。

 心が痛まないわけなかった。世界に対して、人々に対して、謝罪の気持ちがないわけなかった。そして、僕を送りだした彩斗に対して「ごめん」と想うことしかできなかった。

 伝えることはできない。それをしてしまったら、おしまいだ。僕の新たな決意も、美夜のことも、彩斗には言えない。1番相談したい相手で、1番ばれてほしくない相手だ。もしもばれたら、どうなるだろう。ばれるにしても、美夜のことは隠せるといい。これから、彩斗はきっと後悔するだろう、僕をあっさりと送りだしたことに対して。そして、罪も感じるだろう。でも、いろんなことがわかってしまったら、その後悔も、罪も、形を変えて重くなる。


 だから、彩斗にはばれてほしくない。






 ばれてほしくなかったよ、本当に。

 けど、限界だった。


が負の神――」

 彩斗が美夜の名前を読んだことで、僕は演じることをやめた。


「そうだよ。だから、俺は負の騎士になったんだ」

 僕は剣をしまった。

「美夜。いつも見てたのか?」

 美夜が、僕が行ってきたことを知らないと思わないから尋ねた。

「それはないよ。でも、今日は――。負の神の力かしらね」

 困ったように笑う君に、僕も同じように笑っただろう。笑えるような気持ちはないけれど。


「彩斗。ごめんね」

 美夜が謝ると、彩斗は困ったように微笑んで

「いらないよ」

 謝罪を拒否した。


「美夜が謝る必要がないことくらい、ぼくだってわかるよ」


 彩斗は負の神の真実を知ってしまった。だから、どうして僕が負の神になったかは、もう尋ねないだろう。


 美夜が負の神だから――


 それがすべてだ。あの決意を一瞬で変えることができる理由。彩斗は幼なじみで、親友で――それは僕だけじゃなく、美夜にとっても同じだ。だから、負の神の言い伝えが異なってることに気づいてる。そして、僕が美夜をどれだけ想ってるかわかってる。



 手紙なんて書くべきじゃなかったんだろう。勇士が亡くなったことを告げる手紙など・・・・・・。それをすることに決めたのは、他でもない自分だけども。僕らのあの街から勇士が来るなんて、想いたくなかった僕がいけないのだろう。亡き者にしたことを告げるという、けじめをつけるような、きれいごとのような、そんなことを行ったのは、やはりだめだったんだろうか。

 僕は彩斗の罪を変えてしまった。


「真実はどうなっているんだ――?」

 彩斗がつぶやくように尋ねた。

 そして、その役を引き受けたのは

「私が話しますよ」

 晴久様だった。


 晴久様はここに彩斗が来ることを知ってたかもしれない。あれらの手紙を届くようにしてくれてるのは、晴久様だから。

 晴久様は僕がやってることを咎めない。とめもしない。けど、基本的に協力もしない。ただ、見守るだけだ。それはそれで、罪だけども――。




 彩斗は僕を勇士に向いてると想ったから、決意がわかったから、送りだしたんだろう。ヒカルは僕を完璧な勇士と想い届けた。正の力があると知り、無視することをできなかった僕は、なるべくして勇士になったと想う。


 けど、僕は1番最悪な勇士だった。


 勇士として、失格だった。

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