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世界の天秤  作者: 雪月
13/23

約束

 運命は残酷で、優しいね。


 青が勇士であったことは残酷な現実で、逢いたくても逢えない青に再会できたことは幸せな現実。青が勇士として、負の神である私の前にあらわれたことは残酷で――でも、それ以上に幸せなことでした。






 本音を言わせてもらって、泣かせてもらって、私は青に敵わない。


「お茶入れなおすね」

 お茶を入れなおして、二人で静かな雰囲気を楽しむ。

 そして、私は尋ねた。


「青」

「ん?」

「私の家族は、元気にしてる?」

「あぁ。してるよ」

「そう。彩斗はあいかわらず?」

「そうだな。人間味あふれる賢者だよ」

「そっか・・・・・・」


 私は親しい人の話を聞いた。悲しい話は青の家族だけで、少しだけほっとする。もちろんこのときはそんな話はしなかったけれど。


 そして、もう1つ尋ねた。約束が果たされたのか確認するために――。

「青は――ヒカルと旅してた?」


「――ヒカルを知ってるのか?」


 私はこくんとうなずいた。






 負の神になって半年。まだ、負の神を倒しにきたものはいなくて(私が存在してるってことは、そうに決まっているのだけど)、時は妙に穏やかに流れていた。このときまで、私は教会の外を散策をしたりしていた。


 だから、傷を負いながらもまもなく教会、という場所で倒れている少年を見つけた。


 そして、私は教会の外を歩くことをやめました。もう二度とあんなふうに出会いたくなかったから。




「――んっ」

「あ、気がつきました?」

「ここは――」

「・・・・・・」

 まさか彼方の教会だなんていえるわけなく、聞こえないフリをした。


「あのさ」

「はい?」

「おじょーさんが、助けてくれたのか」

「ええ、まぁ」

 正確には晴久様にも助けてもらっているけど、晴久様は彼の前にあらわれる気がないので、言わないでおく。


「おじょーさんって、こんな辺鄙なとこに住んでんの?」

「はい」

「ふぅーん。ところでさ、その敬語やめない? オレのが年上だろーけど、あんま差はないデショ?」


 ・・・・・・なんだろう、この緊張感のなさは。絶対に勇士のはずなのに。というより、死にかけてたのに

「なんか元気ですね。死にかけてたのに・・・・・・」

「え、マジかぁ。やー、まぁ、危ないかなって思ったんだけどさ。ちょっと焦ったかもな、じゃあ」

「焦るって・・・・・・」

「んー、オレさ、これでも勇士なわけ。恋人と一緒に邪力に襲われて・・・・・・。あいつは自分で命終わらせたんだけどさ――」


「オレはね、全っ然、壊れなくてね〜。まあ、だから、負の神を倒しにね☆」


 どうしよう、話してる内容は重いのに、死にかけてたのに、この人の出す空気が緩すぎるっ。私を倒すはずの人なのに、私がこんなにも緊張感を持てないのは、この人のせいなのでしょうね・・・・・・。

 でも

「どうして私に話すの?」


「怪しくないって、想ってもらうため♡」

「――え?」

「っていうのは、半分冗談で、おじょーさんにはなんか話さなきゃって想ったんだよ。誰かに言ったことなんかないんだけどさ」

「そう――」


「あ、スープ持ってくるね」

「おう、ありがとう。あ、そうだ」

「なに?」

「名前。オレはヒカル。カタカナでヒカル。おじょーさんは?」


 私はにっこりと微笑んだ。

「ヒカルが元気になったら、教えてあげるわ」


 私は負の神だということを――。




 ヒカルは用心棒ということもあってか知らないけど、驚異的なスピードで回復をとげた。


「おじょーさん、ほんっとに、ありがとう」

「1週間もしないで、回復するとは思わなかったけど、よかった」

「ああ。本当に世話になったっていうか、命の恩人だよな」

 私は首を横にふる。

「ヒカルの生命力の強さがないと無理だよ」


 彼は楽しそうに笑った。

「本当にいい子だね〜」

「え? そんなことはないよ」

「あるな。きっとオレが、いやオレたちが知ってるコトとちがうんだってわかったホドね」

「?」

「オレは負の神を倒さない。命の恩人を倒したりできないよ」


「気づいて・・・・・・」

「んー、オレ、勘いいんだよ。それに教会で育ってきてるし、ココが彼方の教会なんだろう、ってことくらいはわからるさ。じゃなきゃ、オレはなにしにあの道を歩いてたんだか、になるぜ? おじょーさんだって、オレが勇士だってわかったろ? オレが言う前から」

 嘘をついても仕方ないので、うなずいた。

「ぶっちゃけ、負の神の真実はオレはどうでもいい。どうでもいいってのは、ちがうか。なんつーか、負の神がどういう存在かはわかったからさ、オレにとって重要なのは、おじょーさんが命の恩人で、それ以上に倒す要素がないってことだな☆」


「ないって――私を倒さない以上は世界は元に戻らない」

「そーだねぇ。けど、元ってそもそもなんなわけ? オレにとっては、この世界が普通だよ。そういうことに気づいてる以上、いくら望まれようとムリなわけ。だいたいさ、倒すなんてきれーな言葉にしてるだけだろ。殺すってことじゃん」


 ヒカルが言うことは最もだ。私は倒されるんじゃない。殺されるのだ。


 でも――

「私を殺してくれないのね」

 はい、そうですか、と言えない私はずるかった。

 だって、こんなこと言ったって、本当に本気で世界の為に私を殺して、だなんて言えるわけなかった。殺さないと言った、ヒカルに安心してしまったの。


 そして、真実を教え、約束を交わした。






「約束?」

「うん。代わりの勇士をつれてきてもらうっていう」

「そうか・・・・・・」

「うん――」


 なんで約束を交わしたのかは、言わなかった。

 だって、わからなかったの。青や彩斗や家族に、正しい世界を見てほしいと願ったからですか?

 だけど、私は生きたいとも想っていました。心の中から、その想いが消えることはありませんでした。その想いが罪だということを、知っていました。



 私は罪を深くしていく。


 青の罪を変えてしまった。

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