約束
運命は残酷で、優しいね。
青が勇士であったことは残酷な現実で、逢いたくても逢えない青に再会できたことは幸せな現実。青が勇士として、負の神である私の前にあらわれたことは残酷で――でも、それ以上に幸せなことでした。
本音を言わせてもらって、泣かせてもらって、私は青に敵わない。
「お茶入れなおすね」
お茶を入れなおして、二人で静かな雰囲気を楽しむ。
そして、私は尋ねた。
「青」
「ん?」
「私の家族は、元気にしてる?」
「あぁ。してるよ」
「そう。彩斗はあいかわらず?」
「そうだな。人間味あふれる賢者だよ」
「そっか・・・・・・」
私は親しい人の話を聞いた。悲しい話は青の家族だけで、少しだけほっとする。もちろんこのときはそんな話はしなかったけれど。
そして、もう1つ尋ねた。約束が果たされたのか確認するために――。
「青は――ヒカルと旅してた?」
「――ヒカルを知ってるのか?」
私はこくんとうなずいた。
負の神になって半年。まだ、負の神を倒しにきたものはいなくて(私が存在してるってことは、そうに決まっているのだけど)、時は妙に穏やかに流れていた。このときまで、私は教会の外を散策をしたりしていた。
だから、傷を負いながらもまもなく教会、という場所で倒れている少年を見つけた。
そして、私は教会の外を歩くことをやめました。もう二度とあんなふうに出会いたくなかったから。
「――んっ」
「あ、気がつきました?」
「ここは――」
「・・・・・・」
まさか彼方の教会だなんていえるわけなく、聞こえないフリをした。
「あのさ」
「はい?」
「おじょーさんが、助けてくれたのか」
「ええ、まぁ」
正確には晴久様にも助けてもらっているけど、晴久様は彼の前にあらわれる気がないので、言わないでおく。
「おじょーさんって、こんな辺鄙なとこに住んでんの?」
「はい」
「ふぅーん。ところでさ、その敬語やめない? オレのが年上だろーけど、あんま差はないデショ?」
・・・・・・なんだろう、この緊張感のなさは。絶対に勇士のはずなのに。というより、死にかけてたのに
「なんか元気ですね。死にかけてたのに・・・・・・」
「え、マジかぁ。やー、まぁ、危ないかなって思ったんだけどさ。ちょっと焦ったかもな、じゃあ」
「焦るって・・・・・・」
「んー、オレさ、これでも勇士なわけ。恋人と一緒に邪力に襲われて・・・・・・。あいつは自分で命終わらせたんだけどさ――」
「オレはね、全っ然、壊れなくてね〜。まあ、だから、負の神を倒しにね☆」
どうしよう、話してる内容は重いのに、死にかけてたのに、この人の出す空気が緩すぎるっ。私を倒すはずの人なのに、私がこんなにも緊張感を持てないのは、この人のせいなのでしょうね・・・・・・。
でも
「どうして私に話すの?」
「怪しくないって、想ってもらうため♡」
「――え?」
「っていうのは、半分冗談で、おじょーさんにはなんか話さなきゃって想ったんだよ。誰かに言ったことなんかないんだけどさ」
「そう――」
「あ、スープ持ってくるね」
「おう、ありがとう。あ、そうだ」
「なに?」
「名前。オレはヒカル。カタカナでヒカル。おじょーさんは?」
私はにっこりと微笑んだ。
「ヒカルが元気になったら、教えてあげるわ」
私は負の神だということを――。
ヒカルは用心棒ということもあってか知らないけど、驚異的なスピードで回復をとげた。
「おじょーさん、ほんっとに、ありがとう」
「1週間もしないで、回復するとは思わなかったけど、よかった」
「ああ。本当に世話になったっていうか、命の恩人だよな」
私は首を横にふる。
「ヒカルの生命力の強さがないと無理だよ」
彼は楽しそうに笑った。
「本当にいい子だね〜」
「え? そんなことはないよ」
「あるな。きっとオレが、いやオレたちが知ってるコトとちがうんだってわかったホドね」
「?」
「オレは負の神を倒さない。命の恩人を倒したりできないよ」
「気づいて・・・・・・」
「んー、オレ、勘いいんだよ。それに教会で育ってきてるし、ココが彼方の教会なんだろう、ってことくらいはわからるさ。じゃなきゃ、オレはなにしにあの道を歩いてたんだか、になるぜ? おじょーさんだって、オレが勇士だってわかったろ? オレが言う前から」
嘘をついても仕方ないので、うなずいた。
「ぶっちゃけ、負の神の真実はオレはどうでもいい。どうでもいいってのは、ちがうか。なんつーか、負の神がどういう存在かはわかったからさ、オレにとって重要なのは、おじょーさんが命の恩人で、それ以上に倒す要素がないってことだな☆」
「ないって――私を倒さない以上は世界は元に戻らない」
「そーだねぇ。けど、元ってそもそもなんなわけ? オレにとっては、この世界が普通だよ。そういうことに気づいてる以上、いくら望まれようとムリなわけ。だいたいさ、倒すなんてきれーな言葉にしてるだけだろ。殺すってことじゃん」
ヒカルが言うことは最もだ。私は倒されるんじゃない。殺されるのだ。
でも――
「私を殺してくれないのね」
はい、そうですか、と言えない私はずるかった。
だって、こんなこと言ったって、本当に本気で世界の為に私を殺して、だなんて言えるわけなかった。殺さないと言った、ヒカルに安心してしまったの。
そして、真実を教え、約束を交わした。
「約束?」
「うん。代わりの勇士をつれてきてもらうっていう」
「そうか・・・・・・」
「うん――」
なんで約束を交わしたのかは、言わなかった。
だって、わからなかったの。青や彩斗や家族に、正しい世界を見てほしいと願ったからですか?
だけど、私は生きたいとも想っていました。心の中から、その想いが消えることはありませんでした。その想いが罪だということを、知っていました。
私は罪を深くしていく。
青の罪を変えてしまった。




