表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の天秤  作者: 雪月
11/23

負の神との対峙

 彩斗は僕の親友だ。

 だから、隠しておきたかった。けど、僕はもう無理なことをわかってた。

 彩斗がここに来たときから。


 あのときの美夜の気持ちがわかる。


 負の神との対峙は罪を教えた・・・・・・。






 教会に入ると禍々しい空気が――なんてことはなかった。

 立派な外観にしては、中は簡素だったけど、普通だった。見回しても、おかしなところなどない。


 そのとき、1つの扉から美しい少女があらわれた。


 僕がハッとするのと同じように、彼女もまたハッとしたように見えた。



 僕は冷たい視線を向けられている。たぶん、彼女は負の神。

 なのに、手をかけた剣を抜くことができないのは、どうしてなんだ――?


「ようこそ、勇士様――と言えばいいかしら」

 冷たい目で、冷たい笑みをうかべてきた。


「武器も持たずに、さすが負の神――ということか」

「あら、武器を持たせてくれるだなんて、ずいぶんと紳士なのね」


 彼女は裁断に立てられていた剣を抜き、僕の方に向ける。

「負の神の姿が、女で子供で、余裕とでも想ってる?」

「――そんなことは想ってない」

 そうだ、想ってない。

 負の神にぶつけたいことだって、たくさんあるはずなのに、なにも出てこない・・・・・・。


 正しい世界にすると誓った。僕にとって、今の世界は普通。でも、まちがってる。朝も夜も同じで、空は紫がかった灰色。僕の名前のような青い――。


 ズキッ――


 頭が痛み、声が聞こえた。



「青い空が見たいな」


 なんだ? 誰の声だ? 聞いたことがない――ない? いや、ちがう。僕は知ってる・・・・・・。




「正しい世界になったら、1番、青い空が見たいな」

「なんで、1番?」

「だって、青の名前はそこからつけられたんでしょ?」

「まあ、そうだな」

「でしょ? ねぇ、青は?」

「俺? 俺は夜」

「夜? 朝じゃなくて?」

「そう、夜。しい、だな」

「き、気障」

「って、先に言ったのは、そっちだろ? 




 ――美夜?


「美夜」

 僕はその名を口にした。


 そして、すべての記憶がよみがえる・・・・・・。


 どうして僕は忘れてしまっていたのか。

 美夜は同い年の幼なじみで――僕の恋人。

 負の神なんてありえる要素がない優しい少女。

 どうして・・・・・・。



 僕は剣から手を離す。


「美夜!」


 強く、目の前の負の神――いや、少女に呼びかけた。


「・・・・・・なんで――」

 そうつぶやいたのは、美夜だった。

 冷たさはその目にはなくて、悲しみとかせつなさとか――その目に負の神を感じることはできなかった。


「なんで、なんで青なの? なんで思い出しているの?」


 美夜からは剣が、カシャンと落とされていた。泣きそうな声で、それでも涙は見せることはなかった。

 僕はゆっくり近づき、そっと抱きしめた――。


 僕はわかった。負の神が言い伝えと異なっていたことが。僕に負の神を倒すことができないことが。

 僕に美夜を倒せない。たとえ彼女を殺すことで正しい世界になることがわかっていても、僕にその勇気はない。そんなにきれいな人間じゃない。

 だってさ――


「美夜。俺は勇士でよかったよ。じゃなきゃ、一生おまえを思い出せなかった。美夜に逢えなかった。触れることはできなかった。だから、よかったよ」

 こんなふうに想ってしまうんだから。


 美夜が顔を上げる。

 僕が微笑むと、あいかわらず幸せにしてくれる笑顔を見せた。



「青?」

 声がした方に顔を向ける。


「! 晴久様!」

 そこには彩斗の師でもある、元僕らの街の賢者、晴久様がいた。行方不明になったはずの・・・・・・。

「なんで、晴久様が・・・・・・」

「――まあ、それを含めて話しましょう。負の神の真実と共に」

 晴久様は困ったように笑った。

「とりあえず移動しましょう。お茶でも飲みながら、話したいですからね」


 僕は美夜の肩を抱いて、晴久様の後についていった。


「それにしても、青が――いえ、君ならば驚く必要ありませんか」

 あいかわらずの穏やかな口調で、ただやっぱりその声は困っているような声だった。

 僕が勇士であることをしたことなんて、まるわかりなんだろう。



 教会を裏から出ると、とても美しい庭園が広がっていた。僕にとっては信じれない光景だった。

 ここはやっぱり彼方の教会なんだと、伝えられてる気分だ。

 でも――そんなこと口に出すことはできない。この庭園が本来の姿であることくらいわかってるからだ。

 これから、罪を犯すことをわかってるのに、そんな正しい世界を話せない・・・・・・。


「こちらですよ」

 居住スペースは教会からは行けないようで、庭園から入るようだった。




 あの扉はやっぱり真実への扉だった。


 僕は僕にとって普通ではない庭園を眺め、空を見た。

 そこにあるのは、僕にとっての普通。


 空の色に、美夜が見たい青はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ