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世界の天秤  作者: 雪月
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負の騎士

 旅に出てから、1ヶ月強。

 ぼくは教会の扉の前に立っている。


 かなりの早さで、彼方の教会へ到着したであろう。

 まあ、ありがたいことに協力者と出会ったからなのだが。

 

 ああ、ぼくが賢者であったことも大きいかもしれない。

 なぜなら、辺境の地にある守護教会へ赴くことは、困難を極める。前提として、人が行くというはないとしているのだから。そもそも守護教会を把握している賢者も存在しない。古くから伝わる書物で知っていたり、噂でしか知られていなかったり、そんなものばかりである。

 ただ、守護教会には裏道が存在する。賢者しか通れない道が。賢者には見える道が。

 どのように識別しているかは、たぶん世界の力といったところであろうが、その先に守護教会がある、というところへ行けば、賢者にはわかるのだ。(すべてに当てはまるかなど当然わからないが)

 その裏道はとても安全で楽な道で、到着までにかかる時間はかなり異なる。

 だから、ぼくは安全にこの教会まで辿り着けた。




 ぼくは賢者であるが、信仰心はない。

 そうだとしても、彼方の教会が特別であることはわかっている。

 その特別な教会に、負の神がいる――?


 正直な話、負の神がどういったものなのかは誰にもわからない。昔からずっと伝わる話として、知っているだけだ。

 負の神が誕生すると、世界は正しくなくなる。

 邪力という人を壊すものがあらわれる。

 正の力だけを持つ者には邪力は効かない。

 負の神は正の力を持つ者によってのみ倒すことができる。

 簡単にまとめると、これしかわからない。

 子供向けの話などでは、負の神は勇士によって倒された、などとある感じだ。

 つまり、ほぼなにもわからない。


 わからないけれど、わかることは、存在はする、ということだ。

 では――『負の騎士』は・・・・・・?


 負の騎士の名を聞くようになったのは、ここ数年の話だ。賢者にのみ伝わる噂。よほどのことがないかぎり、普通の人は知ることはない。混乱をきたすようなことを言うような賢者はさすがにいないから。ただ、ぼくの中ではあくまでも噂のはずだった。けれど、あの手紙で真実であることを知ってしまった。

 勇士の訃報を告げる手紙には、負の騎士というサインが刻まれていたから。



「――はぁ・・・・・・」

 大きくため息がこぼれた。

 扉を開けたくなどなかった。この先に待っているものが、もうすでにわかってしまっていたから。許されるのならば、この場から逃げ去ってしまいたかった。

 いや、それをしてもいいのかもしれない。でもぼくはやはり賢者として、それ以上に彩斗という一人の人間として、扉を開けることを選んだ。



 ぼくはこのとき、過去を悔やんでいた。自分自身を責めていた。まだ、本当の罪を知らなかった。






 教会の中はとてもシンプルだった。外観に対して、広くもない。

 ぐるりと中をみる。

 同じ扉なのに、外に対して、内側は簡素なのだな・・・・・・などと正直どうでもいいようなことを考えていると


 カツン――


 靴音が響き、後ろの方から告げられた。


「こんな辺境な地までご苦労なことだ」

「! ・・・・・・」

「負の神を倒しにきたのか? ならば、先に俺を倒すんだな、勇士」


 冷たい声が響く。

 ぼくはまだ声を発していない。顔も見せていない。だから、負の騎士にぼくが誰かなどわかりようがない。

 だけど、ぼくは――。


「ぼくは勇士ではないよ、


 ぼくは負の騎士とはじめて対峙した。そして、青と5年ぶりに再会した。



「――彩斗・・・・・・」


 名前をつぶやから、顔を見て、やはりそうだったのかと思った。

 知っていた。

 手紙を見たときから。あれが青の字だということはすぐにわかったから。




「青。勇士はぼくではないよ。おまえだよ、青」

「――過去の話だ。俺は彩斗が知ってるおれじゃない」

「負の騎士だっていうのか」

「そうだ」


「そうか、この前ここに来た勇士はあの街の勇士だったんだな」

 青はぼくが何故気づいたのか、わかっているようだった。


「青が殺したんだな」

「あぁ」

「! 何故? どうしてなんだ!?」

「・・・・・・」

「負の神を倒すために旅にでたのだろう!? どうして負の神を守る!?」

「――なにを言っても、おまえは納得しないよ。見逃す気がないなら、俺を倒すか、俺を倒せる勇士を連れてくることだ」


 青の冷たい声は変わらない。動揺しているように見えたのは、最初にぼくを見たときだけだ。

 声も目も青であり、青ではないようであった。


「ぼくはそういうことを言っているわけではないよ。理由を尋ねている」

「答える気はない」

「ならば、このままの世界でいいってことなのか」

「構わない」


 あまりにもはっきりと言われ、泣きたい気分になった。

 負の神を許せないと、世界はこのままではいけない言ったことは、事実のはずなのに、どうしてだ?


「・・・・・・本当に勇士を連れてくる」

「俺はそんなに弱くないつもりだ」

「1人でなくてはいけない決まりはない」

「それでも俺は負けない」

 強いまなざいだった。

 理由が知りたかった。


「ぼくはそんなことはしないと思っているのか」

「――」

「ぼくを殺すとどうして言わないんだ、青」

 青が負の騎士である理由はわからない。けれど、理由なく負の髪を守っているなどありえないことくらいわかる。

 ぼくが知っている青ではないというのなら

「何故、言わない?」

「――俺は人間でなくなったわけじゃない。人を殺したいわけじゃない」


 そうくるか・・・・・・。


「おまえは想ってないかもしれないが、ぼくは本当にするよ」

「そんなことはわかってる」

 青の目が少し揺れた。


 悪いけれど、ぼくは賢者で、青よりも年上で、剣では敵わないが、口で負けるつもりはないのだ。

 だから、理由を言わせる。


「わかっていても、殺しはしないのだな」

「! 俺は――」

「理由を言いなよ、青。剣を抜かないのならば、おまえはぼくには敵わないよ」

「――剣を抜けばいいんだな」


 ぼくには青がぼくを殺さないことなどわかっていた。剣を抜いても、殺しはしないのだろう。もっとも青は嘘で剣を抜けるような者ではない。だから、そうまでして守りたいものが知りたかった。すべてを失い、すべてを断ち切って旅に出た青が・・・・・・。



 青が剣を抜き、ぼくも剣を抜く。

「俺は本気だ」

「冗談のつもりは、ぼくにだってないよ」


 ――キンッ

 剣のぶつかる音が響いた。

 そして


「やめて!!!」


 若い女性の声が響いた。



 ぼくらの手が止まる。

 とても綺麗な人だ。年はたぶん青と同じくらいだろう。

 でも、何故このようなところに? 彼女がまさか負の神――? あんな目をした人が?

 信じられないが、青の目がそのことを物語っていた。



 負の神――青が守っている存在。

 あの美しさに――いや、そんなことはありえない。


 それは瞬間想ったこと。そして、答えはすぐにわかった。


 青が小さくつぶやいた名で。


「・・・・・・美夜・・・・・・」




 ぼくは理由を知った。

 本当の罪を知った――。

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