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声優妄想編(ヌーザ学院)

17.


 願の言葉を合図に宴会場ホールの照明が抑えられ、スクリーンに一人の少女の姿が映し出される。

「澤さん」

「澤さん、だろ」

「澤さん以外、いけないと思います」

 願がそのキャラクターについて説明する前に、中の人候補の名前が上がってしまった。

 だが願は動じることなく、

「一見似ていますが、フェンサーではありません」

 と、一言断っておく。そうでもしないと舞台上からでもはっきりとわかるほどに怒っている未生が収まらないと考えたからだ。

 スクリーンには、金髪碧眼。髪型は切りそろえられたボブカット。そして軍服のようなヌーザ学院(仮)の制服を纏った少女が描かれている。

 剣は何処にも持っていない。

 だが、そのために妙な違和感がその絵にあるのも事実だ。

 背景として組み込まれているのは、どうやら城壁の上というシチュエーションらしい。風が、彼女の金色の髪をそよがせていた。

「名前はシェラフラン。文明サイドでも大国の貴族階級の出自。厳格な性格で、人類には文明が必要であり、それを否定する蛮族との戦いにおいては躊躇うことはありません。先代の剣奉主ですね」

「ちょっといいかな?」

 そこまで説明を終えたところで、会場から声が上がった。わざわざ挙手までしているのは、目つきの鋭い四十絡みの男だ。

「……すいません。不勉強でまだ皆様の顔と名前が一致してません。出来ればお名前を。それと挙手の目的も」

 簡易的なオープニングセレモニーすらも行っていない弊害が出てしまった。

 勝手に集まって、勝手に飲み食いするだけの会合に、打ち入りという言葉は、果たしてあてはめていいものだろうか?

「ああ、気にしないでくれ。顔を晒す仕事してるわけじゃないからな。俺は中村英樹。所属はブルーボックス」

 そんな風に自己紹介が行われたことで、会場から「あの中村さんがいるのか」「うわぁ、盗まないと」と一斉にざわつき始める。

 そんなにネームバリューを獲得している人なのか、と思わず細川と黒坂が陣取る一角に願が目をやると、二人が揃ってニンマリと笑っている。この中村という人物を引き入れられたことは、かなり大きな成果だったらしい。

 願は例のごとく、中村のことをまったく知らなかったわけだが、今ここでそれを正直に言う必要もないし、気付かれるのもまずいような気がした。

 せっかく会場が暖まっているし、幸い司会として主導権を握り続ける手段も残されている。

「それで、中村さん何か?」

「ああ、その“剣奉主”っていうの、何か格好悪くないか? 他にも……」

「その件やけど、もっともな指摘や。そこで適当なルビを振る案は決定事項なんやけど、未だ試行錯誤でな」

 若井がすかさず、中村の疑問に答えた。

 中村はその説明に大きくうなずき、次に願へとうなずいて見せた。

「――では、話を戻しまして、このシェラフランの中の人を……」

「だから澤さん」

「澤さんだよ」

「もう澤さんじゃないと違和感がある」

 願は、一向に他の意見がでない会場を眼鏡越しの視線で見渡して、

「……では、澤さんと言うことで」

「待て待て待てぇ」

 芝居がかった言い回しで、若井がその流れを止めた。

「意見は統一せんでええゆうたやろ。むしろ、色んな意見が出ることを期待しとんのに、何で最初からこういう事になるねん」

 もっともな言い分であるが、アニメーター達にも言い分はある。

「そう言われても……」

「ビジュアルが……」

「でも、最初はボイス入ってなかったような」

「そう言われればそうか」

 話が転がり始めた。

「でも、わざわざ声を想像しながらプレイしないだろ」

「う~ん、でもなんとなくは」

「それなら、俺は西野谷さん」

 ついに澤とは別の名前が挙げられたが、その瞬間に、

「「「ええ~~~」」」

 と、一斉にブーイングが上がる。

「ノヤさんは、そもそもその時デビューしてないだろ」

「それにノヤさんは癒し系だ」

「い、いや、ノヤさんの真価はドS声だって」

 最初に名前を挙げたらしい男が、重ねて主張すると「ああ~」と声が上がって、何人かが納得したようだ。

「それじゃあ、澤さんもドS系なのか?」

「そりゃあまぁ、バカな子の声を出してないわけだし」

「例えが極端すぎないか?」

「あ、ドS系というなら新開さんとかも好きかな」

「どっちの?」

「え? ああとルキナの人」

「……言いたいことはわかるけど、あの声Sか?」

「そういうことならもう一人の、新開さんは?」

「あの人の声は色っぽすぎないか?」

 一気に、会場がヒートアップしてきた。

 なんだかドS声の女性声優は誰か、という風に主旨がずれてきているようにも願には思えたが、若井からも細川からもそれについては文句はないようで、中止の合図は出ない。

 そうなるとかねてからの予定通り――

「ここまでです」

 スライドにシェラフランが映し出されてから五分後に、願はマイクを握っているという特権を行使した。スピーカーから、願の平坦に過ぎる声が会場を横殴りにすることで、一気に熱が冷めたようだ。

「時間の前には誰も勝てません。そろそろ次のキャラクターに移らないといけませんので」

 結論が出ていないことに、何人かが不満を漏らしそうになったが、最初からそれが目的ではないと明言されているのである。

 スクリーンにはすでに新しいキャラクターが映し出されていた。

 黒髪に茶色の瞳の少年。髪が幾分かクシャッとしているように描かれており、作画の大変さを想像してか、呻き声のようなものが宴会場ホールから聞こえてくる。

 背景としては、どこか建造物の中庭っぽいようで、すれ違う女の子に目を引かれておかしな姿勢になっているところが描かれていた。

「名前はエルゲン。ごくごく庶民ですね。両親は言ってしまえば公務員ですが、先ほどのシェラフランと同じ学院に通う学生です。この絵の通り女の子大好き――で、主人公になります」

 一番重要な情報を最後に付け足したことで、色々上がっていた名前がピタリと止まる。

「ざ、座長か……」

「そうなると、ちょっと考えないと」

 さすがに全員が業界関係者である。

「そういうことは、気にしないでください」

 そんな会場の雰囲気に今度は監督である細川からフォローが飛んだ。

「遍く門戸を開いてオーディションを行う、という形式が本作では選びにくい状況です。そこである程度の平均値を知っておきたい、というぐらいの希望です。もちろん作品の質の向上に繋がるのであれば、そんな平均値は無視してしまうつもりですが」

「平均値……今なら、神戸?」

 その細川の誘いに、誰かが乗った。

「ああ、神戸」

「神戸か」

「ウォッホン!」

 皆が同調しそうになったところで、若井からわざとらしい咳払いが飛んだ。

「……スケベな主人公か。安芸さんは?」

「なんでだ。あの人はもっと王様キャラだろ」

「いやいや。『おいなり!』の主役は真っ直ぐにスケベで格好良かったんだってば」

「それ知らないなぁ」

「安芸さんが許されるなら、月村さんは?」

「落とし物なぁ」

 今度は反対意見は出ない。

「スケベを前面に押し出すなら、今なら江花じゃないか?」

「あいつは加減がわかってないだろ」

「そもそも、スケベを前面に押し出す方向で正しいのか?」

 皆の視線が、監督とかプロデューサーとか、シリーズ構成(実はいた)とか、そのあたりに向けられる。そういった面々の視線が空中で交錯した。

 火花が散ったりはしないが、お互いに押しつけ合おうとする圧力の掛け合いが行われている。

「ど、ど、努力家で、ら、ら、楽天的!」

 突然に未生が叫ぶ。

 未生は、女性アニメーターが集まっている一角で沈黙を守り続けていたのだが、さすがにこの事態には、黙っていられなかったらしい。  

「努力家?」

「じゃあ、スポーツアニメ?」

「結局、神戸になるじゃないか」

「どういう見解だよ。むしろ下田くんとか……いっそのこと真弓さんとか」

「う~ん、俺それ嫌いなんだ」

「何が?」

「将来的に、女性キャラと良い雰囲気になる……と思われるだろ」

 さすがに現段階で、最後までストーリーを知っているのはごく少数だ。

 実のところ願も知らない。だが、そういった要素はきっとあるだろうとは思っていた。

「ああ」

 そして、会場の誰かもそれには素直にうなずいた。

「そうすると中の人同士が……同性になるわけだろ? それはちょっと……」

 先に名前が出た“真弓さん”というのは、真弓淳子といって少年役を演じる事が多い“女性”声優である。

「お前、それは器が小さすぎないか? 別に中の人同士が本当に恋愛するわけでもないし」

「そりゃそうだけど、実際中の人をしってるわけだしさ。この年になると、ちょっと微妙なんだよね」

「百合でいいじゃないか!」

「そうだ。百合は良い物だぞ」

「アニメと現実を、都合よく混ぜるなよ……」

 そこから、主役の少年役に女性声優をキャスティングすることの是非を巡って五分間が費やされてしまった。何人もの名前が挙がったから、その点では当初の目的は達成したことになるが――

 願はそこで、若井の表情を伺ってみた。

 案の定というべきか、実に複雑な表情を浮かべている。

 真のターゲットである“何か”は幼児性の高い精神構造をしているというのは、ほぼ確定条件だ。それでいて異常事態に巻き込んでいるわけだから、声優の存在も当然知っている。

 となると先ほどの議論を鑑みれば、女性声優をキャスティングすることは賭けの要素が強くなる。

 そんな中の人の事情だけで、無視されると言うことはまず無いであろうが、そこを無理に押し通すほどの理由もない。

 エルゲンにキャスティングされるのは男性声優で。

 特に、女性声優をキャスティングしたいと思っていたわけではないだろうが、選択肢が減るのはどんな時にも嫌なものだ。

「続きまして――こちらです」

 若井の気分を変えさせるためにも、願は話を先に進めることにした。

 映し出されたのは、黒髪をサイドテールにまとめた少女。エルゲンのそれとは違って、艶やかで濡れたような黒髪だ。緑の瞳を一杯に見開いて、こちらに向かって指を突きつけている。

 背景にあるのは、騎士像のような武装した人物像で、少女はその中の盾を背負った構図として描かれていた。

「名はホートリン。性格は空回り気味のツンデレ……僕が言ってるんじゃなくて、本当にそう書いてますね」

「悪かったな」

 富山がそれに拗ねたように応じるが、このような特殊な場であればそれで説明としては十分だろう。

「そして盾奉主ですね。ヒロイン……候補なのかな?」

「おいおい、AP。それじゃ困るだろ」

「しかし、僕の知っている限り、あんまりエルゲンとの絡みはないんですよね」

「大丈夫。ヒロイン格で良いよ」

 今度は細川からのフォローが飛んだ。

「……ではそういうことで」

「カーさん」

 即座に声が上がった。

 ちなみに“カーさん”とは母親のことではなく、早川亮子という当代随一の売れっ子女性声優の愛称である。

「ええ~、カーさんはもう良いよ」

「もう良いって事があるか」

「そうじゃなくて、ツンデレならもっと適役があるだろ」

「針生さんか? それこそもう良いよ」

「もう良いよって事があるか」

「いや、さっきのシェラフランが澤さんだとすると、同じ事務所の早川さんはバーターで頼める」

「そのバーター思考やめろ。大体、澤さんで決定じゃないだろ」

 今までとは違う、急速な盛り上がりを見せる会場。

 なんだかんだ言っても、アニメーターは男社会である。

「女性陣からも意見欲しいなぁ。今日の飯代やと思ってちょっと考えてみてくれんか」

 すかさず若井から声が飛んだ。

「じゃあ……鈴木さん? 鈴木千恵さん」

 それに応えるようにして、未生の側に立っていた女性アニメーターから声が上がった。

 すると男性陣から「おお~」と声が上がる。

「確かにスズチさんの声は魅力的だ」

「それに、そもそもの地力が強い」

 男性陣からのまんざらでもない評価に、恐る恐る声を上げた女性アニメーターも満足げだ。

「じゃあ鴨池さん」

 続いて声が上がる。

「多聞さんとか」

 さらに名前が挙がる。

「いや、上手い人ばっかりだけどなんだか中堅どころばかりだな」

「何よ。これも外の人に年齢合わせろっていうわけ?」

「そうは言ってない」

「そうだ。それにここまで、ミューシャ所属の声優の名前が挙がってないのは何でだ?」

「ちょいちょい、バーターを目論んでるの誰?」

 今まで大人しかった女性陣も議論に加わり始めた。

「すまないが岸さん、ちょっと確認したいことが」

 そんな中、一人の男が手を挙げて願を呼んだ。眼鏡で小太り――つまりは、この場においてはありがちな外見で、目つきだけは鋭くじろりと願を睨んでいる。

 目つきが悪い率が高いのは、きっと視力と睡眠時間の問題だろう。

 だが、願は動じることなく、

「すいませんが、これも僕の勉強と言うことでお名前を頂戴してもよろしいですか?」

「ああ、そうか。俺は小堺英俊だよ」

 目つきの割にあっさりと願の言葉に従う小堺。

 またも会場がざわつくところをみると、やはり業界では有名人らしいが、願はやはり知らなかった。

 しかし、もはや諦観の境地に達していた願はそのまま話を進める。

「それで小堺さん。何かありましたか?」

「その黒坂さんが描いた絵から察するに、その……」

「ホートリンですね」

「うん、そのホートリンはかなりスタイルが良いんじゃないか?」

 その小堺の指摘に、再び全員の視線がスクリーンに集まる。

 描かれているホートリンは、変わらずにこちらに向けて指を突き出している半身の状態なわけだが、それだけに制服を下から押し上げる胸のふくらみも確認することが出来た。

 先ほどのシェラフランよりは確実に、女性らしい体つきをしていることがわかる。

「はい、彼女は脱いだら凄いですよ」

 キャラクター原案である青黄から、それを裏付ける証言も飛び出した。

 青黄は、ひたすらに食物を胃袋に収めており、涙滴型のその体型がますます下ぶくれになっていっているような、そんな錯覚すら覚える勢いだ。

「……となると、雨原まはらか」

 スタイルの良いことが確認されて、まず飛び出したのはその一言だった。

「なんでよ」

 即座に突っ込みが入る。

「自分で言ってるじゃないか。『巨乳といったら雨原』って」

「アレは自虐ネタだろ」

「そもそも、ツンデレ得意か?」

「いや、何でも出来るだろ」 

「しかし、貧乳キャラやらせた方が輝くのも事実――中の人的にも」

「それって、セクハラ~」

「ま、待てよ。それこそ自分で言ってるじゃないか」

「自分で言ってるからって、周りが囃し立てる事じゃないわ」

 と、言われてしまうと良識のある身では、いかんとも話の続けようがない。

 それならば、この辺で締めようか、と願が時間を計っていると誰かがポツリと呟いた。

「しかし、雨原がヒロインというのは……なかなか良いんじゃないか? そのスタイルとか関係なく」

「確かに、今まで名前が出なかったのが不思議なくらいだ」

「それは同意」

「じゃあ、雨原と言うことで」

「そういう主旨じゃない、と何度も言ってるでしょう」

 即座に細川から、注意が飛んだがそれで再び議論が始まるわけではなかったので、願は若井と目配せをして先に進めることにした。

「では、続きましてこちら――ああ、こちらは議論いらないです。ただのキャラ紹介になります」

 映し出されているのは、槍を持ってどこか高いところから飛び降りている最中の青年の姿だった。

 細部まで眼の行き届いた細かい動きの描写が、画面全体に躍動感を与えている。

 そんな風に活写されているのは、黒目黒髪の東洋人っぽい風貌。

 無精髭を蓄え、伸ばした髪を襟足の辺りでくくってるのが、どこか浪人っぽい。

「こちらはコンテアという名前です。長らく槍奉主の地位にあり、学院の兄貴分ですね。実際の年齢も結構いってます」

「絵が……」

「ええ、こちらはキャラ原案の青黄先生のイメージボードを直接お借りしてます」

 会場から漏れた呟きに、即座に願は応じる。

 実際、画力だけは図抜けて高い上に、黒坂によるアニメ用のリファインを受けていないので、映し出された絵は実に細々とした小物まで執拗に描かれていた。

 どうも今まで、キャラの立った男を描く機会がなかったようで最近は、

「おっさん描くのは、これはこれで楽しいですね」

 等と青黄は漏らしている。

 そのせいか、絵を描くことを商売としている連中も圧倒してしまう迫力がその絵にはあった。

「このキャラには、諸般の事情がありまして直接オファーして稲葉肇さんに演じてもらうことが決定しております」

 願がそう発表した瞬間、オオーーーッ、と一番の歓声が上がった。

 さすがに稲葉はベテランである。

 他に説明の必要性を感じなかった願は、

「この打ち入りへは他の声優陣が決まってからということで、ご参加いただけませんでしたが、皆様と共にお仕事する事を楽しみにしているとの伝言をお預かりしています」

 願は相変わらず淡々とメッセージを読み上げただけだったのだが、表情を引き締める者が会場に何人も居たことは、すぐに見て取れた。

 いや、その前に青黄の画力にすでに緊張した表情を浮かべている者もいたのだが。

 スライドの順番に深い意味はないように感じていたが、これもまた若井の計算の内なのかも知れない。そして次の順番は……

「キケオですね。脚甲奉主」

 スクリーンには銀髪を短く刈り込んだ少年の姿。だが皮肉げな光を放つ水色の瞳には、どこかスレたような趣があった。それを裏付けるように制服は随分と着崩していて、袖なども一部破けている。

 組み合わせている背景は、どこかの路地裏。

 路地の向こうには陽光降り注ぐ光景が描かれている中で、キケオは一人路地裏で暗い眼をしていた。

「いわゆるはみ出し者ですね。学院に通うよりも、小銭を稼ぐことを優先しています。情報屋に運び屋。そんなのが彼の日常です」

 なかなか毛色の変わったキャラクターの登場に、すぐには名前が挙がらない。

 しばらく一同、じっとスクリーンを見つめていたが、やがて女性陣から一人の名前が上がった。

「……あの……奈良さんは?」

 その一瞬、参加者のほぼ全員からため息が漏れた。

「言っちゃったか~」

「我慢してたんだけどなぁ」

「仕方がないかな~」

 名前を挙げた当人が非常に戸惑う中、願が壇上から声を掛ける。

「奈良さんはどうか? という意見が出ただけなのでは?」

「そりゃそうだけど、なんかあまりにもはまりすぎて、ちょっと別の人を模索してたんだよ」

 なるほど、と思わないでもないが、それをこの場の全員が考えていたとなるとちょっと眉唾物だ。

 だが、その答えにほぼ全員がうなずいている。

「奈良さんて言っちゃうと、もうイメージが固定されるような気がして」

「確かにそれだけのパワーがあるよな、あの人には」

「だけど、奈良さんにしちゃうのも惜しいような……」

「あ、それわかる」

 その場の空気というのは確かにあるものらしい。

 もしくは、本当に人類が分かり合えるようになったその兆しなのか。

「――しかし奈良さん一択は……」

 だが、願はそれをわかるわけにはいかない。

 司会進行という仕事があるのだ。

「わかってるって。ええと……守銭奴キャラだろ。ああ、古地勝利」

 面識がある人物の名前が出たことで、願の身体が揺れた。

「ショーリ? 何で?」

「だってほら、BBBでそういうキャラやってただろ?」

「え? ああ、そういえばそんな設定だったな。全然使えてなかったけど」

「そんな設定だったか?」

 古地という名前が、上がったことでしばらく「BBB」についての話題が盛り上がったが、願はとりあえず放置しておいた。

「……でも、その設定を覚えていないって事は古地さんが上手くやれなかったってことじゃないの?」

「アレは脚本が悪いと思うけど、それならそれで復讐戦ということで」

「確か他にも商売人のキャラいただろ。ワールドシェイキングの……」

「お前はバカか」

 新しい名前が出そうになったところで、突如それに対して突っ込みが入る。

「い、いきなりなんだ!」

「その役やってたの、奈良さんだぞ」

 その指摘に、会場のあちこちから「あ」と声が上がる。

 そして、そのまま会場は爆笑の渦に包まれた。これには、最初に名前を出そうとしてた者も、頭を掻いて照れ笑いを浮かべるしかない。

「いっそのこと、元祖守銭奴キャラを……」

「待ってよ。どう考えても陰のあるキャラじゃない。明るい感じの人はダメよ」

 最高に脱線しそうになったところで、上手い具合に修正が入ってくれた。

「その辺は演じ方一つだと思うけど、例えば?」

「森岡さん」

 断定口調で、告げられたその名前に女性陣から「キャー」と黄色い悲鳴が上がる。

 となると森岡とは、森岡孝史のことなのであろう。

 そうと気付いた男性陣から声が上がる。

「待て待て。中の人が森岡さんで、情報屋で運び屋ってなったら、どう考えても“アレ”だろう」

 森岡孝史の怪演も相まって、作中、強い印象を残した曲者キャラクターがこの世にはもう存在するのだ。

「何よ。シェラフランの時に、躊躇無く澤さんの名前出したくせに」

 そう言われると、男性陣は何も言い返せない。

 しかも、ビジュアルに引き面れての事ではなく、模索の果てに出てきた名前である。

 その後は、奈良対森岡の代理戦争という形になり、いくつかの名前は挙げられたがさほど活発な議論にはならなかった。

(これは、通常のオーディションになるかなぁ……)

 と、願は他人事のように考えつつも、五分経ったところでその不毛な議論を打ち切る。

「――ええと、次のキャラクターで……主人公側のメインどころとしては最後になりますね」

 それと同時にスクリーンに映し出されたのは……

「幼女だ」

「ロリだ」

「あざとい」

 と会場がざわつくようなキャラクター。

 それにめげずに願は説明を開始する。

「名前はデューアです。手甲奉主」

 スクリーンに映し出されていたのは、確かにかなり小柄な少女の姿だった。

 浅黒い肌。黒髪を三つ編みに結っている姿はどこかネイティブアメリカンっぽい。

 それでいて、上目遣いの菫色の瞳は確かにあざとかった。

 組み込まれている背景は、確実に室内。精緻な模様が織り込まれた絨毯の上にぺたんと座って、今から薄い本展開に持ち込まれそうな勢いだ。

「どうですか? 萌えるでしょ。やっぱり女の子ですよ」

 青黄が自慢げに説明を添えたことが、良い具合に会場の温度を下げてくれたようだ。

「性格は、控え目……要するに、見たまんまですね」

 願の説明もおざなりになってきた。

 だが、百聞は一見にしかずのことわざ通り、ビジュアルの力は偉大だった。

「じゃあ、とりあえずカーさんで」

「何でだよ! カーさん原理主義者がいるのか?」

「困ったら、カーさん、という風潮があるだろ」

 その主張に黙り込んでしまう、アニメーター一同。

「いやいや、そこまで困ることか? こういう感じのキャラを得意としている人は結構いると思うぞ」

「例えば?」

「そうだなぁ……井村愛とか」

「結局、カーさんじゃないか」

「被害者と加害者をごっちゃにするの止めろ」

「じゃあ他に誰がいるよ」

「というか、女性声優なら誰でも出来るんじゃないか?」

 最大限に投げやりな意見が飛び出した。

「要するに、萌え声という飛び道具はほとんどの声優さんが持ってるんだから、その中で、イメージに合った者とか、シナリオの展開とかで最適を選ぶべきなんじゃないのか?」

 ぐうの音も出ない正論とはこのことだろう。

 だが――

「お前、この場ではそんな正論必要ないだろ。自分の趣味を押しつけ合うのが元々の主旨なんだし」

 これもまた。この場に限って言うなら正論である。

「しかし、何の方向性もないんじゃあ……」

 願は、幹部連に目配せする。

 ビジュアルイメージだけではなく、もう一つ指針があった方が良いだろうと考えてのことだ。

 細川も若井も、それには賛成のようでまず未生へと視線が送られ、最後に富山へと終息した。

「彼女は……」

 観念したのか、富山が口を開く。

「怯える。とにかく怯える。終始怯えていると言っても良い」

「もう少し具体的になりませんか?」

 あまりに投げやりな指針に、願からすかさず追求の一手が飛び出した。

「そうだなぁ……泣きの演技が上手い方が良いかも」

「じゃあ、中津だ」

「お、ついに出ましたねミューシャ所属の声優の名前が。これでバーターでドンドンいけます」

「誰かそのバーター厨を、放り出して」

「しかし、中津さんの泣きの演技が絶品であることは間違いない」

 強く断言する声に、強い反論はなかった。

「ミューシャ繋がりと思われるのは嫌だけど……龍宮円は?」

 その名前に、会場に空白が舞い降りる。

「誰?」

「やっぱり知らないか……でも、泣きの演技なら上手いと思う。あと岬久乃」

「あ~~~」

 と、この名前には反応があった。

「わかる。彼女の声って、どこかイジメたくなるのよね」

 これを男性が言ったら大問題だが、発言者はきっぱりと女性だった。

 それでも、その周囲から人がいなくなるぐらいの破壊力はあったが。

「あとは……いかん、段々誰でも良くなってきたぞ」

「結局そうなるって。個人的には安室さんとか」

「悪くないね」

 会場の一同が揃ってうなずく。

「江藤さんとか……」

「どっちだ?」

「よ、弱い方」

「いや、強い方だっていけると思うぞ」

 これにもまた会場の一同がうなずいた。

 結局、今度の議論は名前を挙げては、全員がうなずくという和やかなムードのまま終わってしまった。

 願は議論を打ち切ったあと、予定通りの言葉を告げる。


「――ええでは、ここで一端休憩とさせていただきます」

設定から、おざなりなシリーズ構成をでっち上げるのにやはり時間が掛かりました。

色々、声優の名前が挙がる回ですが、まぁ、元ネタの人は大体わかるでしょう。

しかし、これ自分用に、対応表作らないとまずいですね。

あと、サブタイはやはり付けていこうかと考えてます。

編集で付けられるのかな?

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