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次の日。月曜日。
昨日の制服盗難事件は、あまり話題になっていなかった。
俺の話が出てきたのも一回だけ、猿原さんからのお礼の言葉を除いては一言も俺の耳には入らなかった。そんなに大事にならずに済んだのは良かった。
ただ一つ、不可解な点があったらしい。
猿原さんの話によると、あの時プールの更衣室には数人の女子生徒が入れ替わりに中に居て、常に人の目があった、いわば衆人環視のシチュエーション的な密室状態だったというのだ。誰もその更衣室から外に出た者が居なかったので、イタズラの犯人は誰だか判らず、ただ変な事件だったというだけで終わったらしい。
俺は購買で買ってきたホイップあんぱんをもぐもぐと食べながら、自分の机で昼休みを過ごしていた。
俺が独りまどろんでいると、不意に現れた多嶋良樹が、教室の外から俺のことを呼び出した。
手招きされた俺はあんぱんを机に置き、教室のドアへと向かう。廊下へ顔を出すと、待っていた良樹が、内緒話をするようなトーンで一言囁いた。
「……放課後、いつもの所に来て。……話したいことがあるから」
俺は良樹の目をちらっと見た。これは、真剣な話題らしい。
「わかった。……俺、二者面談あるから、ちょっと遅れるけどいいか?」
「いいよ。むしろその方がいい」
良樹はそれだけ言い残すと、踵を返して去っていった。
何の話だ……。――昼休みの終わりを告げる、予鈴のチャイムが鳴り響く。