*
拾いものを届けて保健室から出ると、俺は生徒玄関へ向かう。自分のロッカーから外靴を出し履き替えると、外で待っていたナカジマに合図を送る。
「悪い、遅くなった」
ナカジマの元に駆け寄ると、ケータイを開き時間を確認する。やばい。
「もうバス行っちゃたか」
「大丈夫。俺も忘れてたけど、今日日曜日だからバスの時刻変わるんだった。あと20分くらいバス来ない」
「マジかー」
ほっとした俺たちはバス停で駄弁って時間を潰すことに決めた。
「なんか俺、服の中だけ濡れてるんだけど。冷たい」
「どういう状況だよ」
笑いながら俺たちは歩いていく。
すると、突然横でナカジマが、何かに目を奪われたように速度を緩めていた。
「ん?」
俺もその視線の先を目で追う。と、そこには女子生徒が三人、校舎前に相応しくない格好で立っていた。二人は深刻そうに話し合い、もう一人がそこへ向かい走っている。
彼女たちは、三人とも服を着ていなかった。
話し合っていた二人は紺色のスクール水着を着て、もう一人は黒い競泳水着に同色の水泳帽を被っている。
水泳部員らしい競泳水着の子がスクール水着の二人の元に駆け寄り、水泳帽を外すと、俯いてふるふるとかぶりを振った。肩にかからないくらいの短髪の、ボーイッシュな女の子だった。
スクール水着の一人で黒髪ポニーテールの子が、胸元で手を合わせたまま肩を落とした。もう一人の眼鏡をかけた長髪の子は、周りの視線が気になるのか、ずっとモジモジとしている。
俺は、彼女を知っていた。
見紛うはずがない。スクール水着を着たポニーテールの方は、俺のアイドル、猿原さんだった。
濡れた水着が張り付き強調されたスレンダーな体のラインが、健康的でとても美しい。
ボーイッシュな女の子の方は知らないが、猿原さんより背が高くて眼鏡をかけてるのは、同じクラスの水野さんだろう。
水着の上からでも分かる柔らかそうな体つきが、実に魅力的だ。
思えば猿原さんの水着姿を見るのは初めてだ。授業ではプールを使う選択科目は男女で分けられている。今更特筆すべきものではない事は承知だが、この流麗な曲線と凹凸のみで表現された造形美に加え、なおかつ露出の少ないデザインこそがスクール水着において最も重要な
「なに見蕩れてんだよ」
「えっ。あ、え?」
ナカジマのツッコミに俺は「先に足止めて見入ってたのはそっちだろ」と、弁解する。
「俺は違……いや、そうだけどさ。あの3人……なにしてんのかな、って思って」
まぁ、それは一番の疑問だろう。プールの建物から水着のまま出てくるというのは、ありえない光景だ。
しかし、その疑問の答えを俺は知っていたので、ナカジマに教えてやる。
「着替えの制服を隠されたから探してるんだ。実は俺、さっき見つけて届けてきたから、ちょっと保健室に預けたって教えてくる」
「ああ、なるほど」
本当に納得したのか分からないが、ナカジマと俺は三人の水着少女の方へ歩き出した。
猿原さんも水泳部と遊んでいたのか……。羨ましい。ナカジマは見慣れてるんだろうか。俺も水泳部に入ればよかった……。
じゃなくて。俺が制服を届けなかったら、猿原さん達はどうなっていた事だろう。
(……。)
馬鹿か。
俺は一瞬だけ思い浮かべてしまった、スクール水着のまま下校する猿原さんのビジョンを振り払う。
この学校には、部活帰りの者以外は下校時制服着用の決まりがある。水泳部じゃない猿原さんと水野さんは、ずっと水着のまま帰ることもできなかったかも知れないのだ。
俺は、自分のした事の大きさに若干の動揺を覚えながら、三人組に声をかけた。