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ジャージから制服に着替えてトイレから出ると、俺の置いておいたバッグの傍でしゃがみこむ、小柄な男子生徒の姿が目に入ってきた。
さらさらの髪で、いつも悪戯っぽい目が小憎らしい俺の友人、多嶋良樹だ。
リュックサックを床に下ろし、方膝を立ててしゃがみこむ良樹は、どうやら自分のリュックの中を探っているようだ。
「おう、良樹」
俺が声をかけると、それに気づいた良樹が顔を上げて、リュックの口を閉めた。
「ああ、おは葉太郎。今から帰るところ?」
「そうだけど、お前も?」
良樹が立ち上がって、またリュックのファスナーを開ける。背伸びをしても俺より頭ひとつ分背の低い良樹は、傍目からは到底俺と同級生には見えないらしい。
「んん、僕は今来たところ。図書室にこれ返そうと思ってね」
良樹がリュックから数冊の本を取り出してみせる。どれも良樹が好きな日本人作家の推理小説ばかり……だと思いきや、論理パズルの本やトランプマジックの入門書なんかも入っていた。
「ん? ヨータローそれ、何持ってるの?」
俺が抱いている物に気づいた良樹が、興味深そうに視線を送る。
「ああ、これか?」
俺はその手に持っていた、女子生徒の制服三着を上げて見せた。
「さっき着替えにトイレに入ったら、これが個室の便座の上に置いてあったんだ。忘れ物……だろうから、持ってきた」
「へえー……」
良樹が眉根を寄せて考える。
「でもそれって、女子の制服でしょ? なんで、男子トイレにあるんだろう……」
「確かに、……え、何でだ?」
俺はもう一度、持っていた制服を見つめた。しかも三着……
「そういえば外で何人かが『着替えが無くなった』みたいな事言ってたよ。もしかして、誰かのなくなった制服ってそれの事じゃないの?」
と良樹が提言する。
――ん? 女子の制服が無くなって、それが男子トイレで出てきた?
「誰かのイタズラか」
「だろうね。職員室に持っていった方がいいんじゃないかな」
「んー、いや、保健室の方が近いから、菜摘さんに預けてくる」
俺はエナメルバッグを拾い上げる。と、バッグのファスナーが開いていた。開けっ放しにしてたんだっけ。
すると良樹が、「ちょっと待って」と言って、俺の手からスカートを一つ取り上げた。
「その前に、誰が無くしたのか見ちゃおうよ。裏側に名前が刺繍されてるはずだから」
そう言いながら良樹がスカートのフレアを捲り上げる。
「やめとけよ。プライバシーのあれ的なあれがあるだろ」
と俺が良樹の手からスカートを取り上げた寸前、
「あっ、猿原だ」
と良樹が呟いた。
思わず俺もスカートに刺繍された名前を見てしまう。
ーー猿原栞莉。
俺の(クラスの)アイドル、猿原さんのスカートだった。
「……なんだよ」
俺は見つめてくる良樹のニヤニヤ笑いを一瞥しながら、赤面しそうになる顔をムスッと仏頂面に変えて良樹と別れた。