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 晴れた夏の日差しが、真昼の校舎を照りつける。

 今日は日曜日だが、学校のグラウンドで遊びまわっていた俺たちは、制服に着替えるために校舎へと向かって歩いていた。

 屋上から下がった垂れ幕が、赤文字でソフトボール部の全国大会出場を盛大に祝っている。

 予選負けで気楽になった野球部がソフトボール部のいなくなった校庭で、ここぞとばかりにのびのびと、サッカーをして楽しんでいる。

 俺が思うに、今日は高校生活の中で一番自由な日なんだろう。

 顧問の目がないのをいい事に、サッカー部はテニス部とセパタクロー。ハンドボール部は水泳部と水球をやっているらしい。

 俺のクラスもさっきまで、一ヶ月先の体育祭を見越して自主練習をしていた。……と称し実は一部の男子だけで集まって、ハンドボールをして遊んでいたところだった。

 俺は運動で火照った体を、襟元をぱたぱた扇ぐことで冷却しながら、グラウンドの端に投げ置かれているカバンの元へ向かう。その中の一つから自分のエナメルバッグを確認すると、それを拾い上げて肩にかけた。

 これから俺はトイレに入って、ジャージから制服に着替えなければならない。生徒手帳など開いたこともないが、この学校では登下校時に制服を着ていなくてはならないという校則があるらしい。

 生徒玄関まで来たところで、俺は、前方から歩いてきた友人に声をかけられた。濡れた髪を後ろにかき上げている、5組のナカジマだ。

「よう! 太郎」

「おう、ナカジマ」

 俺も手を挙げて反応する。俺の名前が葉太郎(ようたろう)なので、ナカジマは「よう。葉太郎」を縮めたらしい。何十人からも同じ挨拶をされてきたので、もうなんも面白くない。

「太郎、今から帰んの?」

「ああ、トイレで着替えてきてから。ナカジマも? 部活終わったの?」

 ナカジマの「シマ」という漢字がなんか見たことも無い難しい字の為、俺の頭の中で彼の名前はいつもカタカナ表記で浮かんでくる。

「うん。プールが他の部活に占領されちゃったからな。まだ今、バレー部と女子たちがビーチバレーみたいなのやってる」

 なんだ。ハンド部と水球してるって話はデマだったか。

 ナカジマは水泳部員だ。髪がまだ濡れていると言う事は、さっき着替えてきたばかりなんだろう。白い歯が笑顔に映える、色黒で偉丈夫の好漢だ。

「葉太郎って、いつも何で帰ってんの? バス通だっけ」

「いや、いつもは自転車だけど今日はバスで帰る」

「そっか」

 ナカジマが感じのよい笑顔で爽やかに提案する。

「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうぜ」

「おーけー。じゃあ俺、着替えてくるから、先にバス停行って待ってていいよ」

「いいよ急がなくて。まだ10分くらい時間あるし、俺ここで待ってる」

「わかった」

 俺はナカジマをおいて生徒玄関に入ると、上履きに履き替え、最寄の1階男子トイレに向かう。

 エナメルバッグから制服を無造作に引っ張り出すと、バッグの方をトイレの入り口付近に投げ置いて、制服だけを持ってトイレの個室に入っていった。


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