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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛憎神社

作者: 蔵野茅秋

もしかするとR18に引っかかるかもしれないません。怒られたらノクターンの方に移動します。


とりあえずそこそこの性的描写と殺人描写が含まれてるので、ご注意願います。

 ――幽霊。

 それはこの世の理から外れた存在。

(うつつ)に何かしらの未練を持ち、切れる事のない不条理に身を置く存在。


『見える』人というのは『見えない』人に比べれば、相当な苦労をしていると思うものである。そこいるものが他の人たちからすれば全く見えない訳だ。コレを正直に周囲に伝えたところで、この現象について理解してもらう事はストレスであり、共感を得るのはほぼ不可能だろう。

 しかしながら、この現象は『見えない』側にとってはミステリアスな状況に魅力を持つ。見えないからこそ、その思いは強いモノとなる。

 その一方『見える』側からすれば、これほど厄介な状況はない。


――その中でも遭遇率が高いのが寺社仏閣だという。


しかしこれはおかしい事である。本来神社というものは清浄なる神格が納める土地である。つまり聖域だ。外から来る害悪・穢れはその土地に持ち込むことは出来ないはずである。寺院も同様である。ただし寺院の場合は自ら穢れを受け入れ、仏の加護によって穢れを成仏させ、新たなる道へと導いている。どちらにせよ、そのような環境であるならば幽霊といったものが出てくる事は皆無のはずなのだ。

まぁ寺院の場合、安らかな眠りを妨げるような事をしてしまった場合であれば幽霊と出会う事があるかも知れない……。


では、神社では幽霊を見る事が出来ないのか?むしろ幽霊よりも凶悪な存在ではなかろうか?

神の力に上下はあるとしても、神社を守るものは強力聖域だ。コレを突破してしまう事を考えると、幽霊などよりも化生の類ではないかと疑ってしまう。いや、むしろそのはずだ。




********




ここに周囲から忘れられたように存在する、寂れた稲荷神社がある。

稲荷神社、京都府京都市にある伏見稲荷大社を総本宮とする狐を祭神とした、五穀豊穣・商売繁盛にご利益があるとされる神社である。――が、この稲荷神社からは一切そのご利益が感じられない。小さいながらも本来ならしっかりとしていただろう本殿はすっかりと朽ち果てていた。

「この神社本当にご利益があるのか?」

 シャツとジーンズ姿のラフな格好で、この寂れた稲荷神社にやってきたのは年若い男。トボトボ鳥居を越え参道歩く。やがて見えてくるのは朽ちた本殿。それでも賽銭箱は置いてあった。

「まぁ、ご利益があってもなくても、参拝するのは気持ち次第っていうし」

 男はポケットに入っている財布から硬貨を一枚取り出して、賽銭箱へと投げいれる。


 ――出会いが欲しい…と。


 男はそう願い。

 

 ――その願いお受けします。


「え?」

 願った瞬間、突然聞こえた声に男は驚く!

「誰かいるのか!?」

 しかし男の声に反応するものは無く、周囲を見回したところでその姿も捉える事は出来なかった。

「何だよ気味が悪い…さっさと帰ろう」

 男は神社に来た時とは違い足早に稲荷神社去っていった。




 神社から去っていく後ろ姿を、

「うふふ……」

にこやかに笑いながら本殿の屋根から眺めている女性がいた。

「ヒロヤさんかぁ……」

 女性の手の中には一枚のカード。身分証明書と書かれたカードには大学名に氏名が書かれていた。

「待っていて下さい。今参ります」





 神社から足早に離れて行った男――ヒロヤはそのまま帰宅するつもりだった。しかし、そのまま帰宅したところで、今夜の食べるものが無い事に気付き、途中で方向転換し、自宅近くにあるコンビニへと足を向けた。

 ヒロヤがコンビニに入ると、来店を告げる音楽が流れ、それに反応するように店内の奥の方から「いらっしゃいませー」と聞こえた。

 ヒロヤは店内に入ると迷うことなくお弁当とカップ麺、最後に飲料のコーナーへと行き、適当にアルコールの入ったものを数点選んでレジへと持っていく。その頃にはレジにいなかった店員が戻っていて、ヒロヤに対して大した愛想もなく「温めますか?」なんて聞いていた。

 いちいち声を出して返事するが億劫に感じたヒロヤは、頭を振って温める意思が無い事を店員に伝えた。店員もその態度を気にすることなく「わかりました」とだけ言って、さっさとレジ袋の中に商品を詰め、購入金額を告げた。そしてヒロヤから受け取った金をレジに戻し、「ありがとうございました」と、なんとも気持ちの無いマニュアル通りの返答を貰った。感情のこもっていない挨拶なんていうのは独り言と同じだ。ヒロヤはそう思いながらコンビニを出て、帰宅の道に戻ろうと足を進めようとした時だ。

「あの…すみません」

 突然飛んできた声の先を見た。そこにいたのはヒロヤにとって見覚えの無い妙齢の女性だった。

「え、えっと」

「あの、これ。これあなたのではないですか?」

 女性の差しだした手にあったのはヒロヤの学生証だった。

「え?あれ?あぁ!ありがとうございます!え、いつ落としたんだよ俺!」

「あ、あの大丈夫ですか。慌てなくてももうあなたの手の中に戻ってます」

「あぁ、そっか。そうだな……そうですね。わざわざ持ってきて頂いてありがとうございました」

「いえいえお気になさらず。困った時はお互い様です」

 女性はそれだけ言うとヒロヤに一礼してから、その場を離れる為に足を動かし始めた。

 過ぎ去っていく彼女の後ろ姿に見惚れてしまったヒロヤだったが、意識を取り戻すとすぐさま後を追いかけた。

「ちょっと!ちょっと待って下さい!」

「はい?」

「あの…お礼を、言いたくて」

「それなら先程もらいましたよ」

「いや、そんなんじゃなくて。えっとこの後時間とか無いですか?」

「えっと私は大丈夫ですけど…」

 ヒロヤの誘いに彼女は言葉を濁す。ヒロヤは突然変な男にナンパされてしまい迷惑に思ってるのかと考えていた。それは当然だ。全く見ず知らずの人間で、接点は自分の学生証を拾ってもらっただけ。ついさっきであったばかりの怪しい人間だ。こんな奴に付いてくる訳無い。ヒロヤはそう考えていた。

 しかし彼女の考えていたのはまた別の事だった。彼女が口にした言葉の後、視線は自然と下の方にいっていた。ヒロヤとしては、その行動は自分を拒否するものだと思った。でもよくよく視線の先を確認すると、それは自分の持っているコンビニの袋だった。

「あ!そっか!」

「これからお家に戻ってお食事なさるんですよね?流石にそんなところに行くほどお人好しではありません」

 ニコッと笑って拒否された。でもこの言い方は?とヒロヤは思った。

「あのじゃあ今度一緒にご飯食べませんか?自分がおごりますから」

「そうですか?それなら甘えさせてもらおうかな?」

「マジですか!?それじゃああの!」

 ヒロヤ急いでポケットからスマホを取り出した。

「ごめんね。私の使ってるのちょっと古いの」

 彼女が鞄から取り出したケータイは折りたたみのガラケーだった。

「そんなの気にしないですよ。ようはあなたと連絡が取れたらいいんです!あ!?そう言えば名前…名前教えてもらえませんか?」

「わたし?そういえば言ってませんでしたね。わたしココって言います」

「ココさん?珍しい名前ですね」

「そうですよね。でも珍しい名前だからわたしの事ちゃんと覚えられますよね」

 二コリと笑ったココの顔にヒロヤは固まってしまった。自分でもわかる。自分が彼女に落ちてしまった事に――――。



**********



 ヒロヤとココは後日改めて再開した。約束通りヒロヤが食事をおごるという形でだ。二人が行ったのは半個室になっている居酒屋。二人が喋りながら食事するにはちょうどいい。大学生のヒロヤにすればそういった所が限界だったというのもあったが。

この時ヒロヤはココに自分の想いを吐きだした。ヒロヤはこれを運命だと感じたからだ。あの時参拝した神社での願い。その後すぐに出会って自分が惚れてしまった女性だ。これを運命と言わず何と言う!ヒロヤはその想いで埋め尽くされていた。この想いを彼女に伝えるなんてまだ早いと考えていた。それが最後の壁。理性だった。でもそんなものは少しのアルコールとココを目の前にしてしまえば容易に決壊してしまう。

 そうして思わず告白してしまったヒロヤに

「じゃあお付き合いしましょう」

 ニッコリ微笑んでココは承諾した。

 この日を境に二人は付き合う事になった。




***********





 二人が付き合うようになって一年程経った。

 ヒロヤとココの交際は順調に進んで行った。お互いの事を知り、二人の絆を深めるには充分すぎる時間だった。

 時間だったはずなのだ――。

 そんなある日の事だ。ヒロヤは在学していた大学の友人に連れられて行った合コンで、一夜限りの軽い火遊びのつもりで、合コンに参加していた女性と関係を持った。

 しかし、一夜限りのつもりでいた関係が彼女からの誘いで二度、三度と繰り返されるようになった。そしてその裏切りはココの知るところになる。

 

 この時のココの対応はヒロヤが想像していたよりも軽いものだった。

 ヒロヤはこの時、激しい叱咤や嫉妬怨念の罵詈雑言をココから浴びせられる覚悟でいた。

「今回だけだよ。でも次は無いからね」

 本当にこれだけしかなかった。言われた瞬間うすら寒い何かが背中を撫でた気はした。それはココが微笑みながら自分に言った事が原因だとヒロヤは思った。

 ヒロヤはこれに対して、真摯に反省しているという事をココに見せた。ココは大丈夫だから。今度はちゃんと私を見てねと言ってヒロヤを抱きしめていた。



 ヒロヤは思い出していた。自分が好きだと思っている女の温もりを……。

 ヒロヤは自分に向けてくれるその温もりに報いる為にも、関係を持った女性とキッチリと決別するため、彼女に呼び出された場所へと向かう。

「俺とココの為に」

 その決意を持って女性のところに行ったはずだった。





 ――しかし結果は。



爛れた関係だった――――。




***********





爛れた関係を清算する事が出来ずに、自宅に戻ってきたヒロヤが見たのはココの姿。

 ヒロヤが帰って来た事に気付いたココは、ヒロヤの姿を見るなり抱きついた。

「ちょっ!コッ――」

 ヒロヤがココを呼ぶ声は最後まで続かない。重ねられた唇。ココの舌はさら中に侵入しようと、ヒロヤの口内を蹂躙していく。

 訳の分からないヒロヤは理由を問いただそうとココを離そうとする。それをココはヒロヤの頭を両腕で抱え込み離さない。それはココの息が続く限り終わらない。そうなってしまうとヒロヤもココの事を受け入れ、自らも積極的にココの口内を犯そうと舌をねじ込んだ。

 二人の舌戦は激しくなる。特にココはヒロヤを床へと押し倒していた。ヒロヤの上に乗ってからも口内を犯す勢いは変わらない。いや増していた。それどころか片手をヒロヤの下半身に持っていき、ココは『直』に触った。

「ンーーッ!」

 口内を犯され続けるヒロヤ叫びは声にすらならない。ヒロヤがようやく声を出せたのは、ココがヒロヤの下半身を剥き出しにしてからだ。

「ココ!?ちょっとどうし――ッ!!」

 再びヒロヤの声が遮られたのは、ココが口一杯に頬張ったからだ。

「なん、なの今日は、ど、うしたの?」

 切れ切れになりながらココに話かける。何度もココに問いかけるが、しかしそれをココは一切無視して膨張したヒロヤを口内で舌で蹂躙し可愛がる。口で、手で、ココがヒロヤを可愛がる。その度声が漏れる。ここまで来るとヒロヤも黙りこんでココの事を受け入れていた。

 そして、なすがままに蹂躙され可愛がられていたヒロヤに限界がきた。

「ココ!も、う…無理!」

 ヒロヤが叫んだ瞬間、ココの口内に吐きだされる白濁の液。今度はココの口内がヒロヤの写し身で一杯にされてしまったが、「コクン…」とココは自らの身の内に取りこんでしまう。

「え!?ココ飲んだの!」

 そんな事をやった事の無かったココの行動に驚いていると、目の前にココの顔。再び口を激しく愛された。

 同時に下半身から激しい快感がやってきた。原因はココの手。未だに硬化したままで敏感なのに、自分とココの体液が混じり合った粘液を使って蹂躙していた。

 そして違う快感がヒロヤを襲撃した。

「――――ッ」

 ずり上がったタイトなスカート。横にずらされた下着。そしてココの中に侵入ったヒロヤ。快感の正体はこれだった。ココの身体はヒロヤが触らなくても濃厚な蜜で溢れ、ココの中に侵入するのはた易かった。

 これまで何度もココを味わい犯してきたはずなのに、今のココからはこれまでにない快感が次々に襲ってくる。何度も揺れ動くココの下半身は別の生き物だ。快感の波…いや高浪、津波に何度も攫われそうになる!その度ヒロヤはココの顔を見たいと思った。目の前にあるココの顔をちゃんと見たい!感じているはずのココの顔を眺めたい!その欲求を満たしたい!

 その欲望が通じたのかココの上半身はゆっくりと起き上がっていく。ようやく見る事が出来るココの顔にヒロヤは狂喜した。しかしその目に飛び込んできたのは、期待していた通りの紅潮させ快感に茹らせ蕩けた顔。そして白く美しい獣の耳。そしてさっきまで着ていたはずの服が消え去り、全裸となったココが快感に身を委ねていた。

「ココっ!?」

「どうしたの?」

 上気した顔、艶のある声、それはいつものココからは聞く事が出来ない。

「ねぇ…ヒロヤ。気持ちいい?」

「え…」

「気持ちいいんだよね。全然小さくも軟らかくもならないよ。そんなに気に入ってくれた?感じてくれた?」

 ヒロヤはココの言葉に反応出来ない。声が出ない。

「これからもっと気持ちよくなるからね」

 ヒロヤの首には、ココの両手があり締められていたから。

「ねぇ…わたしヒロヤに言ったよ。嘘つかないでって」

「―――――――ッ」 

 ヒロヤは必死でココの腕を掴んで離そうとするが全く外れる気配は無い。

「ねぇ気持ちいいでしょ…わたしが一番だよね?」

 徐々に締められていく遠のく意識の中でさえ快感は襲ってくる。

「ほらヒロヤ、お願いして。あの時願ってくれたみたいに『出会いが欲しい』って言ってくれた時みたいに。初めてわたしを抱いてくれた時みたいに『わたしが欲しい』って。ほらヒロヤもっとお願いしてよ!」

 そうか…ココ、君はあの神社にいた神様だったのかな?願いを叶えてくれるためにこうやって来てくれたのかな?ヒロヤは失せて行く意識の中でそう思った。そして――――――。


 ――コキッ……。


 そんな乾いた音が部屋の中で鳴った。

「ヒロヤ気持ち良かった?わたしの中にいっぱいいっぱぁいヒロヤが入って来たよ!ホラヒロヤ!コレデワタシタチニヤヤコガデキルヨ」

 結合している下半身が外れないように、ココはヒロヤの上半身に身体を預け、優しく口付けた。

「ネェヒロヤ。マダカタイマンマダヨ。モットキモチヨクナロウカ」

 再び動き出したココの下半身。それにヒロヤはもうそれに反応しない。

「ヒロヤドウシタノ?ネェモットフタリデ『愛しましょうよ』」


 ――爛れた関係の結末。嫉妬に狂った女の報復。








 狐というのは嫉妬深い生き物であるという伝承がある。

 古く寂れた神社。社の中は粘着質な水音が響く。中天に差しかかろうとする太陽はさんさんと照り続ける。

 しとしとと降りだした雨の中。社の中で若い男性が死体が見つかる。

 社の上には子を抱えた女。――――彼女は嫁入り出来たようだ。


誤字脱字あったらご連絡お願いします。

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