二人は幸せな殴り合いをして終了
息抜きに勢いで書いたものです。
ついに闇は打ち払われた。剣士と魔法使いの二人は魔王を倒し、この世に平和がもたらされたのである。
「やったな、カイン」
「やりましたね、アベル」
魔王城のバルコニーに出た二人はがっちりと握手をした。
「ときに、剣士アベル。私たちの長い旅もここで終わりです。最後は勇者と囚われの姫がキスをして締めるべきかと思うのですが」
「あー、確かにそんな感じがラストっぽいよな。丁度、朝日もでてるし」
いままさに、闇夜が終わり朝日が昇るところだった。
「と言うわけで、ひとつよろしくお願いします」
魔法使いが一歩近づく。剣士は慌てて一歩下がった。
「ちょっと待て、その美女ってのはどこにいるんだ。まさか、おい、俺らは男同士だぞ」
「それは私も重々承知しています。ですが、ここに至ってはもう贅沢も言ってられない」
「いや、お前頭おかしいよ」
「ですがアベルさん、普通こういう場面はキスシーンでしょ。ほら、早くしないと朝日が昇りきってしまう」
魔法使いはさらに一歩踏み出した。
「いやだからそれは、勇者と美女がやるから絵になるのであって、野郎同士なんて想像もしたくない。それともお前、まさか」
「失礼な、私はノーマルです。誰が好き好んであなたなんかの唇を求めますか」
「じゃ、どうすんだよ」
魔法使いは一振りの杖を取り出した。変身の杖だった。
「おお、この城に潜入したときに使った奴か」
「実はこの杖、こうやってここの水晶を回すと……はい、これで美人ダークエルフに変身できる杖になりました」
「いやいやいやいや、それじゃ解決になってませんよ魔法使い様。駄目じゃん。お前がいくら美人のダークエルフに変身したって中身はお前だろ。そんなの嫌だよ」
剣士は頑なに拒んだ。
「何言ってるんですか。こちとら野郎とキスする趣味はありませんよ。アベルさんがこれでダークエルフになるんですよ」
「なんで俺なんだよ」
「美女のキスの相手といえば勇者じゃないですか」
「いやだから、そういうのは普通、剣士の役目だろ。魔法使いなんて脇役ポジだろうが」
ここは剣士も譲れぬところだった。
「えー、魔法も使えない脳筋剣士が勇者気取りですかー」
「おいおい、剣ひとつまともに振れないひ弱っ子じゃ、美女を抱きかかえることすらできないぜ」
鼻で笑う剣士に、魔法使いはマントを払ってポージングを決めた。
「見てくださいこの筋肉を。実はこの日のために武道を嗜んでみました。オークくらいなら蹴り殺せます」
「え、なんでそんな鍛え上げてんの。てかなんでそれをさっきの戦闘で有効活用してくれなかったの」
「ともかく、これで勇者は私のほうが適正であるとわかっていただけたでしょうか。がってんしてくれますね」
「意味がわからない。そこまで情熱をそそぐ意味がわからない」
「アベルさん。早くしないと、ほらもう太陽出ちゃってますよ。朝日に向かってキスできなくなっちゃいますよ。明日まで待つつもりですか」
「待たない待たない。てか、よしんばキスするとしても変身するのはお前。これは譲れない。最大限の譲歩」
しかし、魔法使いはすばやかった。杖を振り上げる。
「なにもう、観念して」
「アベル☆ストラッシュ!」
剣士の放った一閃で魔法使いは崩れ落ちた。手から杖が転がる。
「ひ、ひどい。仲間を切るなんて」
「安心しろ。峰打ちだ」
両刃のブロードソードに峰はなかった。魔法使いは回復魔法を唱えたのち、またも声を荒げた。
「暴力は反対です。私たちは仮にも救国の英雄です」
「暴力で国を救ったんだけどね」
「ともかく、ここは理性的に話し合いで解決すべきです」
「お前が無理やり襲ってきたんだろうが。いやもう、勘弁してくださいよホント」
「とにかく、暴力はやめましょう。ほら、私は杖を捨てますから、アベルさんも剣を捨ててください」
魔法使いは杖を投げ捨てた。
「残党がいるかもしれないのに、なんで丸腰にならにゃならんのだ」
そういいつつ剣士も剣を捨てた。
「ひゃっはー、気絶してしまえば後はどうとでも!」
「くそ、卑怯な! こら、やめろ!」
決着はつかず、勝負は国に帰ったのち観衆の見守るアリーナで継続して行われることになった。これがきっかけで二人はコロシアムの剣闘士となった。
二人は幸せな殴り合いをして就労。
駄洒落オチでも反省はしません。