074号
遂に模試で、あり得ん点をとっちまった。
数学はまあ最初から捨ててたからしゃあないけど、まさか得意だったはずの現代文で……。
これで俺は得意教科をなくしちまったわけだ。
得意教科ナシ!!
夢もナシ!!
希望もナシ!!
何の才能もナシ!!
ついでに言うと、金もナシ!!
こんな俺に生きる価値なんてあんのか!!
「チックショオ!!」と叫ぶ勇気も無く、俺は自転車にまたがろうとした。中学一年の時
から乗ってる、ボロボロの自転車だ。ゆるんだチェーンが外れて、俺をよく困らせる。
そこに、俺は見つけてしまった。
俺の何もかもをダメにした、呪いを。
車体の後ろで、緑色に鈍く輝く呪いのシールを!!
”074“!!
鑑札ナンバー、074!!
74(無し)の呪いだ!!
「こいつだ」と直感した俺は一気にそいつを剥がしとって丸めて溝に捨ててやった。
「おいっ、真田っ!! 早く帰るぞ!!」
「おい長田」
何か真田急に声低くなったなあ、あ、そうかアイツ朝から咳ばっかしてたから喉やられ
たんかなとか思いながら
「何だ」
って振り返ったら、まさかの体育教師、藤原かよ!!
「何でお前さっき鑑札捨てたんだ」……ってさっきの行動見られてたみたいだし、運も
無いわけだ俺って。
さんざん叱られた挙句「お前の鑑札は074か、やったら何か知らんけど偶然ここにある」
って何であるんだよ、まじかよありえねえ。
こうして074は無駄にピンピカピンになって帰ってきたわけだ。
どうやら呪いはそう簡単に解けちゃくれないらしい。
*
「俺は今日古本屋でマンガ読み漁ってくるけど、どうするお前は」
模試の結果なんてもう忘れたかった。普通なら模試の結果に反省してさらに勉学に励む
べきなんだろうけど、そんな思惑通りにいくか!!
俺はとにかく勉強の事を忘れたい。勉強なんかせず楽したい。
でもそれはヤバイ。勉強しなきゃヤバイ。頭では分かっている。
だから、だいたい真田の返答は分かっていた。真田は俺と違って真面目なやつだからき
っと「ごめん、今日はさすがに勉強するわ」とかそう言うんだろう。
しかし、真田の返事は俺の意識を銀河までぶっとばすぐらい、ぶっとんだ一言だった。
「ごめん、今日は彼女と会う約束だから」
「死ねええええええええええ!!」
古本屋まで自転車をぶっとばして走る数分間、さすがに「死ね」はひど過ぎたかと罪悪
感を抱えたが、後戻りして謝りに行く気はしなかった。
とはいえやはり恋は良いもんだ。
一人寂しく古本屋で読むマンガに描かれた可憐な少女を見てそう思う。
こいつらみたいに、崩壊する世界の中で抱き合うなんて事は不可能だが、例えば夕焼け
の公園のベンチで、女の子と笑い話するぐらいしてみたい。
そんなことを考えた末に俺は閃いた。
彼女ができたら何か変わるんじゃないかって。
何も無しの俺に彼女さえできれば、俺の人生はだんだん開けてくるんじゃないかって。
急いで店を出た。そして俺は決めたのだ。
『彼女を作って生まれ変わる』って!!
とはいえ俺には普通に話せる女子が一人しかいない。
だから告白の相手もそいつにするしかなかった。
でもよ、おい074号、その勇気が俺にあると思うか。
俺にもあるとは思えない。
でも074という数字を見てる内、俺の中の恐怖感や抑制心やらが全部無くなって来て俺
はいつの間にか、074号にまたがってブットバしていた。
勇気も無ければ恐怖も無い、つまるところ俺はアホになっていたのだ。
アホだアホだと呟きながらたどり着いていたのは、何の店も無い場所にある、畑に囲ま
れた小さな一軒家、つまりそれはアイツの家、だった。
これはいよいよ、アレを実行するしかなくなってきたわけだ俺。
てかここまで来といて実行しないって、そりゃ本物のアホだ。
玄関を前にして俺は途端に勇気がなくなる。
てか家まで押しかけて告白ってどうなんだ!?
てかイマドキ告白ってどうやるんださっぱり分からん。
そんな勇気の無さが、こんなとんでもない悲劇を呼んだんだと思う。
次の瞬間目の前に現れたのは、楽しそうに会話をする、真田とアイツの姿だったのだ。
大丈夫だ、別にアイツの事は好きじゃないし。
別にアイツが彼女きなったって複雑なだけだし。
腹いせに、登録してたアイツのメルアド、消してやった。
これで、俺のケータイに登録されてる女子のメルアドもナシだ。
なんだか生きる気力もなくなって来た。
「死んでやる!!」
でもそんな勇気もないのが、074号のライダーこと俺なのだった。
てかそんな勇気あったら今頃彼女とうっはうはだし。
私らみたいな不器用なヤツは他の人の二倍は努力せなあかんのよっていう母ちゃんの言
葉を思い出し机に向かうも、俺は睡眠欲に負けて眠るのだった。