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一章 白龍の番候補は仮契約中⑥

 どうやら神獣たちは白龍が生れたので顔を見にきただけのようだったが、白龍はというと、凄く嫌そうな顔をしている。

「ほら。私が卵から孵ったことは分かっただろ。さっさと帰れ」

「えっ。お茶とか出さなくてもいいの?」

「こいつらは、皇宮でいいもの食べてるから、うちのような貧乏人から茶を巻き上げるなんて真似はしないだろ? なあ?」

 いや、確かに貧乏だけどさ。

 働き手が磊だけで、家事全般は私がやっているので、畑で育てるのも人に売るほどではない。食卓の品を増やすためのものだ。

 菓子などはもちろんなく、お茶と言っても山で摘んだ葉などで、それっぽく作った薬茶となる。毒がないことは保障するだ、皇宮ならばちゃんとした茶葉で作ったものを飲んでいるだろう。口に合わない可能性は高い。

 

「今度来る時は手土産を持ってくるわね」

「もう二度と来るな」

「白龍、そんな言い方しないの。同じ神獣の仲間なのでしょう?」

 見た目は全然違ったけれど、同じ神獣とされる者たちだ。私よりも、むしろ彼らからこの世界で生きるすべを学んだ方がいいのではないかとも思う。


「白龍ちゃんの番……候補はいい子ね。私は麒麟のリンよ。そしてこっちが、私の番のよ」

「よろしく」

「俺は鳳凰のホウだ。番のオウは今は火の国にいる」

「私はセキ六花リッカと言います。いつも白龍にはお世話になっています」

 自己紹介をされて、私もぺこりと頭を下げた。

 どうやら金髪の二人が番の麒麟で、赤髪の男性が鳳凰だったらしい。どちらも言葉としては聞いたことがある有名な神獣だ。


「いや、世話になっているのは白龍だろ」

「言えてる」

「でしょうね」

「なんでだよ!」

 なんだか親戚一同が、子供をからかう図になっている。

 白龍が一人子供な姿だから、余計にそう見えるのかもしれない。


「だって生まれたばかりじゃない」

「俺は卵の中にいただけで、少なくとも麒麟よりも先にこの世には誕生しているんだよ」

 びしっと白龍が麟を指さす。

 見た目からすると、どう見ても麒麟の方がずっと年上だ。でも白龍が自信満々に言い返しているので嘘を言っているようには見えない。……むきになった子供のようで、微笑ましい光景だけど。

「えっと白龍は年上なの?」

「麒麟は応龍の子なんだ。だから少なくとも生きた年月は三百年以下だ。私は応龍の兄弟だからそれより上だ」

 ……龍の顔をしているとは思ったけれど、麒麟って応龍の子供なんだ。へぇ。

「あれ? 応国は応龍の子供が始皇帝なんじゃなかったっけ?」

 結構有名な言い伝えだ。だから滅ぶ直前まで応龍が応国を守っていたと言われる。


「そうよ。始皇帝に就いたのは、私の兄になるわね。龍の子は番の種族として生まれることもあるし、私達のように神獣として生まれることもあるの」

「そうなのですね」

 なんだか不思議な生態だ。そして卵から産まれる方法が特殊なために、卵では先に産まれていても孵るのは後ということもあるのか……。


「とにかく帰れ。周りを見て見ろ。お前らの所為で、どれだけ目立っていると思っているんだ」

 白龍に言われて、私もはっとして辺りを見渡せば、遠巻きに人だかりができていた。

 それもそうだ。目の前の美男美女は、先ほどまで神獣の姿で空を飛んでいたのだ。さぞかし目立っただろう。しかも麒麟も鳳凰も吉兆の意味をする。人が見に来るのも当然だ。

「確かに少し目立ちすぎたみたいね」

「新たな神獣の誕生が楽しみだったから、つい人が我らを見てどう思うかを失念していた」

「神獣が誕生するのは久しいからな」

 彼らにとっては、この世に孵った時点が誕生扱いになるようだ。少なくとも三人が白龍の誕生を喜んでいるのだけは分かる。

 嬉しすぎて、色々失念したと言うことだろう。


「今日はこれぐらいにするから、今度は皇宮に遊びにきてちょうだい。もちろん六花ちゃんも大歓迎よ」

「気を付けるんだぞ」

「俺の家は遠いからなぁ。今度は番と一緒に遊びに来るな」

 そう言って彼らは再び神獣の姿になると、天に昇るように去って行った。

 彼らが空を羽ばたくと、偶然なのかそれとも彼らが何かをしたのか、曇り空の隙間から光が差し込み、神々しく見える。まるで一枚の絵のようだ。

 ……凄い派手な演出だな。

 流石は神獣だ。家の周りを囲んでいた人も三匹が見えなくなっても空を見上げている。中には拝んでいる人もいた。

 

「……白龍はもしかして麒麟さんのところで過ごした方がよかったんじゃない?」

「なっ。……私がいると、もしかして迷惑なのか?」

 飛び立っていた方角を見ながら私がぽつりとつぶやくと、白龍が慌てたように私の手を握り見上げる。不安そうな顔はまるで捨てられるのかと不安になっている子供のように見えて、私は慌てて首を横に振った。

 別に捨てようとしているわけではないのだ。

「そうじゃなくて、さっき白龍も言ってたとおり、うちは貧乏じゃない?」

「貧乏と言ったから怒ったのか?」

「ううん。怒ってないよ。事実だしね。だから皇宮の方が美味しいものも食べられるし、なにより、同じ神獣からこの世界での暮らしを聞いた方が分かりやすいんじゃないかと思って」

 彼らは間違いなく、白龍を仲間とか親戚として見ている。実際に麒麟にとっては血筋も近い関係のようだ。それならば、粗雑な扱いはされないだろう。


 そう思ったのだが、白龍は私の手を掴む手に力を入れた。

「別に龍は食事をとる必要もないから、ここでも皇宮も変わらない。それに神獣から教えを乞う必要はない。私は私のやり方でこの世界に慣れていっているんだ。そ、それから……私は、六花の家族なのだろ? 家族は一人前になるまでは独り立ちせず、一緒に暮らすものなんだろ?」

 白龍は必至な様子で、皇宮に行く必要がない理由を上げていく。

 私も別に今すぐ白龍が皇宮に行って、神獣と仲良くする必要があるとは思っていないのだ。その方が効率がいいのではないかと思ったぐらいで。


「うん。そうだね。ごめんね、変なことを言って。でもね、白龍がここではないところで暮らしても、私はずっと家族だと思っているよ。だから白龍にとって過ごしやすい場所で暮らした方がいいんじゃないかなって思っただけなの。ここがいいなら、ずっとここに居てくれて構わないよ」

 ずっとと言っても、彼が言った通り、一人前になるまでの話しだ。白龍がこの辺りを歩いている時の様子を見ても、好奇心旺盛だと思う。きっといつかこの村では狭いと思う様になるだろう。

 そうなった時が、白龍の独り立ちの時なのだ。

 でも独り立ちした後で、何度里帰りに来てくれてもいいと思う。


「なら、俺は六花の傍にずっといる」

「うん。これからもよろしくね」

 初めのころを思うと、凄くなつかれた気がする。

 弟というものは、きっとこんな感じで守ってあげたくなるぐらい可愛いものなのだろう。見目の可愛さではなく、必死にこっちに愛情を向けてくれるのが愛おしい。

 白龍が将来様々な場所を訪れた時に困らなくていいように、もっと色々教えてあげよう。

 それに同じ種である神獣との付き合いは大切だと思うので、今度神獣が来た時は白龍との仲をもう少し取り持てるようにしたいなと思った。

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