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一章 白龍の番候補は仮契約中⑤

 それにしても、白龍凄いわ。

「やっぱり世の中、顔ね」

「何、馬鹿なことを言っているんだよ……」

 白龍は私の感想に、嫌そうな顔をしたのだが、本当にそうなのだから仕方がない。


 私が木工細工を卸しに行ってから、白龍は人気者だ。卸問屋は、城下町までものを持って行くだけではなく、ここでも販売をする。その為お茶を出すからしばらくここに居てと言われ、白龍は客寄せになっていた。

 さらに、帰る時にはお菓子を出すから、また次に卸す時も連れて来てとまで言われた。

 美味しいものでも買おうと商店街を歩けば、必ずおまけがつく。そして何かしているわけではないのに、周りの視線が釘付けだった。呆けたように白龍を見つめて足を止めてしまう人を何度見たか。

「もしかして神獣って皆、顔がいいの?」

「それは人の姿をとる時の話だよな?……正直、人の顔の良し悪しはよく分からないからな。アイツらの周りの反応を見る限り、たぶん人が気に入る造作ではあるとは思うが」

 こんなに美しい顔に転変したので、わざとだと思ったのに、まさか人の顔の良し悪しが分からないとは。でもよく考えれば、私も龍の顔の良し悪しが分かるかと言われると首をひねるしかないので、そんなものなのかもしれない。


「六花は私の顔が好みなのか?」

「……うーん。かわ……綺麗だと思うよ。好みかと言われると……うーん。嫌いには絶対なれない顔という区分かな?」

「なんだそれ」

「綺麗すぎて、好みを考える範疇を越えているという話」

 このまま白龍が育った時、彼は男だけど……大丈夫だろうか? 傾国ができてしまいそうな恐ろしさがある。

 お願いだから世継ぎ問題がある皇族はたぶらかさないで欲しい。

 そういえば、応国の始皇帝は応龍とその番の子だったと聞く。その後応龍が守護し続けていたらしいが……応龍の子も顔がよかったのだろうか。

 白龍の顔なら、信者が増えやがて国になってもおかしくない。


「さてと、そろそろ夕餉の支度をするね」

「って、ちょっと待て。なんで腰紐に手をやってるんだよ!」

「なんでって、着替えるからだけど。これでも、外出着は一張羅なの。商家に行くときは最低限綺麗な服を着るようにしてるのよ」

 ほつれだらけの汚れた服だと、嫌な顔をされてしまう。

 私が卸に行く問屋は、城下町の高級路線のお店と繋がっている。そちらの人が来ることもあるので、あまりみすぼらしい格好をしていくと、中に入れてもらえず、裏口の外で取引する羽目になるのだ。

 でも私としては、スリなどもいるので、お金のやり取りをあまり外ではやりたくない。その結果、最低限の恰好をしていく必要があった。


「いやいやいや。そう言うことじゃない。私がいる前で着替えるなって話だ!」

「あー。ごめんごめん。家族だし、いいかと思っちゃって」

 家族だからいいというよりは、白龍がまだ子供だからいいかという方だけれど。ませてるというか、あえて指摘するから紳士的というか。

「私は、六花の番候補なんだぞ」

「うん。そうだね」

 そのおかげで私は生きているのだから忘れるはずがない。

 番候補というのは、つまるところ人間で言う婚約者候補とか許嫁みたいなものだろう。

 とはいえ、まだ幼い白龍相手にピンとこない。そもそも種族が違うから、白龍だって私の裸を見てどうこう思うこともないのではないだろうか? 人間の顔の良し悪しが分からないくらいだし。


「分かったわ。衝立の後ろで着替えてくるよ」

「……頼むからそうしてくれ」

 でもまあ三百年も卵の中で人の会話を聞いていたなら、耳年よりにもなるか。女性の肌はむやみに見るものではないとか教わってそうだし。

 そんなことを思いながら私は白龍との生活を続けていた。



◇◆◇◆◇◆


 

 ……まだ私が死ぬ場面にたどり着かないわね。白龍との出会いは最近の出来事で、一番衝撃的な出会いだったけれど、他に何かあったかしら?

 私は再度、印象的なことがあった時を思い出す。 



 白龍と生活をして、しばらくは平和だった。……そんなある日、また転機が訪れた。 

 いつもはのどかで、どちらかというと静かな村なのだが、外がわざわざと賑わしい。元々村の中でも外れにある家なので、余計に異様に感じた。

『くそっ。神獣が来た』

 何か起きたのかもしれないし、外を見に出るべきだろうかと思っていたところで、白龍がつぶやいた。


 えっ? 神獣が来た?

 普通は聞かない単語だ。そもそも神獣なんて普通は合わずに終わるぐらい珍しい生き物のはずだ。すでに一匹ここにいるのに、また?

 どういうことだろうと白龍に聞こうとしたが、その前に家の扉がノックされた。


『すみません、白龍に会いに来ました。御足労願えますか?』

 念話⁈

 白龍は夜寝る頃は龍の姿になるので、念話を毎日していた。そのおかげで、扉の向こうから投げかけられたものが念話だと分かる。

 音としてはないはずだが、私の頭には女性的な高い声に聞こえた。

『そんな丁寧な言葉がけしなくてもいいだろ。いるのは人間の女だ』

『君は乱暴だなぁ。国をまたいでまで来なくていいのに』

『応龍の弟が生れたんだぞ。見に来るに決まってるだろ』

 ……念話が騒々しい。

 念話は耳を塞いでも聞こえてしまうものなので、一言一句、聞き逃すことなく私の脳内に入ってくる。その為、念話で口喧嘩をされるとものすごくうるさい。

 しかも興奮しているのか、念話が白龍と話している時よりも大きく聞こえて頭が痛い。


 どうしようと思っていると、白龍は人の姿になって私の横を通り過ぎると、すたすたと玄関に向かった。そしてバンッと扉を開けた。

「お前ら五月蠅いわ! 六花が頭を痛めるだろ。せめて口喧嘩するなら、人の姿になれ!」

 どう考えても一番最後に産まれた白龍が年下だろうに、偉そうに話すのを見て、私は慌てて追いかけて玄関から外へ出る。

 一歩外へ踏み出し見たものは、これまで一度も見たこともない形の美しい獣だった。


 三頭いるうちの二頭は同じ姿をしている。同じ姿の者は、角が二本生え、鹿のような体をしているが、顔は龍のようだった。金色の鬣が光に反射し、神々しい。もう一頭というか、一羽は大きな鳥だ。鶏よりもさぎよりも何倍も大きい。

 しかし何の鳥かと言われると分からない。体の色は赤が多いが金や緑といった色の羽もある。尾は長く、頭にはとさかがあり、足は細く鶴のようだ。

 先ほどの念話を考えると、どちらも神獣なのだろう。


 不思議な獣をぽかんと口を上げて見ていると、瞬きする間にその姿が溶けた。そしてそこには金髪の美女と金髪の美形の男、さらに赤髪の美形の男が立っていた。……白龍が転変したのと多分同じ原理よね?

 今までいた獣が居なくなって現れたのだから多分そうだ。

「……やっぱり、神獣って美人ばかりだ」

 もしかして神様というのは面食いなのだろうか? 白龍の言い分から考えるに、自分でその姿を思い描いて変わっているわけではない。

 それなのに、どの人も人外じみた美貌である。


「あら、褒めてくれるの? ありがとう」

「可愛いお嬢さんだね」

「いや、可愛いより、肝が据わってるって言った方が正しいんじゃないか? 普通神獣を見たら、もっと言うことがあるだろ」

 ぼんやりと三人を見ていると、近づいてきて私を見降ろした。女性も含め、全員背丈が高い。

 近づいて見ると、それぞれ目の瞳孔が人のものとは違い、やはり彼らは神獣なのだと思う。金髪二人の目は金色で、赤髪の男の目は緑色をしていた。全部宝石のようだ。

「お前ら、私の番候補にむやみに近寄るんじゃない! 六花も、家の中で待ってろ。私が話をつけてくる」

 美人だなとぼんやりと三人を見ていると、私と彼らの間に白龍が入り、威嚇するように叫んだ。


「待ってよ。私達、白龍だけじゃなくて白龍の番にも会いに来たのよ」

「白龍は相変わらず怒りん坊だなぁ」

「俺と力比べをするのか? いいぜ? お話合いをするか?」

「ま、待って下さい」

 にぃっと赤髪の男が獰猛な顔をしたので、私は間に割り込んだ。

 神獣同士が喧嘩したらどうなるかは分からないけれど、人外の力を持つ生き物が本気でやりあったら、私の家がなくなってしまう気がしたのだ。


「私は番ではなく、番候補ですので、白龍は皆様に紹介していいものかと思ったのだと思います」

 彼らの機嫌を損ねるわけにはいかないと思った私は、できるだけ丁寧な言葉を心がけて話しかけた。白龍もわざと紹介しなかったのではなく、紹介する必要性を感じてなかったというのが正しいはずだ。それなのに喧嘩をするなんて馬鹿馬鹿しい。

「ああ? 番候補?」

「はい。白龍はこの世界に慣れるまで一緒に暮らしているだけで、慣れたらこの家から出て行く予定です。その時には契約を解除していますから、皆様に私を紹介するとややこしいと思ったのでしょう」

 できるだけ穏便にすませようと事実をできるだけ丁寧に伝えると、神獣たちがまるで変なものでも食べたような顔をした。


「えっ……白龍、そんなことになっているの?」

「六花と番になるかどうかを決めるのは、私の自由だろ」

 白龍の言葉に、やはりショッパイものでも食べたような微妙な顔を神獣たちはした。

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