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五章 天網恢恢にて白龍警報⑦

 私は再び大きな龍の背に乗って空を舞ったが、流石に三回目ともなると余裕が出ていた。風は感じるが、しっかりつかまっていれば吹き飛ばされるほどではないというのが分かっているからだ。

 でも普通に考えたらとても速く飛んでいるのだからもっと振り落とされるような衝撃があると思うのだ。もしかしたら白龍が調整してくれているのだろうか?

 折角だしと体を起こし、遠くまで見わたす。

「世界って、広いんだね」

『それはそうだろ。海の向こうにも世界があるぐらいだからな』

「海って何?」

『……池よりもずっと大きな水たまりだな。対岸が見えないぐらい広い水たまりが海だ』

「へぇ。想像できないなぁ」

 池よりも大きな水たまりと言うのも意味が分からないが、対岸が見えないと言うのはどれほど大きいのだろう。

 そんな大きな水たまり、一度だって見たことがない。


 こうやって眺めていると、私が知っている世界と言うのはとても狭いものだったんだなと気が付く。白龍がこの世界に慣れるよう色々教えてあげたいと思ったけれど、私も無知だ。

 果たして白龍にとって、私と一緒に居ることはいいことなのだろうか?

 すでに白龍はお金の勘定もできるだろうし、色々人の生活というものも見て回ったはずだ。白龍が大人になったら巣立つだろうと思ったけれど、白龍はそもそも人間に大人かどうかを判断できるような存在ではない。

 でも私から追い出すのもなんだか違う気もするのだ。……というか私が離れたくないと思っているのかもしれない。

 喧嘩すれば悲しいし、一緒に居たら楽しい存在に白龍はなっている。


 そんなことを考えているうちに土の国の皇宮が見えてきた。

 地上に近づけば、皇帝や麒麟さん、次期皇帝、さらにその護衛や高官と思われる人たちがぞろぞろ外に出てお出迎えをしていた。流石にずっと待っていたというわけではないわよね?

 もしかしたら、麒麟さんは白龍の居場所が分かるようなので、皇帝に声をかけてくれたのかもしれない。

 白龍が六花公主に対して不当な扱いしないように忠告してくれたが、果たしてどのようになっただろうか。

 白龍が地面に降り立ったので、私達も背中から降りる。


「白龍様、番様、よくぞ六花公主と土の国の民を連れ戻してくださいました。ここに深く感謝させていただきます」

「六花公主、よくぞ無事に戻られた。怪我などはないか?」

 最初に皇帝が礼を言い、続いて皇太子が小春の無事を喜んだ。

 ……連れ戻すかどうするかを話し合っていたくせにと思うが、この流れから入るならば、彼らは六花公主を土の国に受け入れ、婚姻をこのまま結ぶと決めたのだろう。

 六花公主と皇太子が手を取り合い見つめ合う姿は、まさに感動的な場面で、水を差すのは忍びない。小春も、そんな話し合いがされていたなんて知らない方がいいだろう。


 それに皇太子は、本当にほっとしているように見える。

 それなりに情を覚えてくれているならそれがいい。

「そう言えば、白龍は金の国まで行ったのでしょう? 何をしてきたの?」

「金の皇帝を殺したか?」

「こ、殺していませんから! ちょっと金の国の皇宮が倒壊しましたけど、命は誰も奪っていません!」

 私も殺してしまうのではないかと思ったが、白龍は私の気持ちを汲んで殺しだけはしなかった。


「それはよかった。ある程度神獣を畏れさせるのは大切だが、やりすぎるとと応龍の二の舞になるからな」

「応龍の二の舞ですか?」

「ああ。応龍……我が父は母を守るために力を振っていた。神獣の力を得たい国が母にちょっかいを出し、その度に滅ぼされていった。滅ぼされた国の者は、恨みから執拗に母を狙う者と、庇護を必要として応龍とその番の下につくこと誓う者とに分かれた。そうしてできたのが、応国おうのくにだ」

「正確には私達の兄弟が作った国だけどね。父である応龍は、人がつくる国には何の関心もなかったから。ただ母を助けたい一心で敵を葬ってきただけ。でも母はそんな生活に疲弊していったわ。白龍ちゃんも気をつけなさい。狙われるようになるのは貴方ではないわ」

 神獣は人より圧倒的に強い。

 簡単に命を奪えてしまうし、追い払うこともできる。でもだからこそ、恨みの矛先は弱い場所へと向かうということだろう。


「そのような愚かなことをする者は根絶やしにすればいいだろ? 何なら愚か者の家族、親族、すべて根絶やしにすればいい」

「すべての害虫を根絶やしにするのはとても大変なことなのよ。だから正しく畏れさせることは大切だけれど、大きな恨みを持たれるのは避けておきなさい。それを忘れるととても長い戦いとなるわ」

 すべて根絶やしにすればいい発言も怖いが、それがいかに難しいことかを説く姿の方がより恐ろしい。応国ができた時、応龍の番は一体どんな気持ちで積みあがっていく死体を見ていたのだろう。

 もしも私のためだと言って白龍がどんどん人を殺していったらと考えると怖くなる。私の余計な一言がそんな道へ進ませてしまうかもしれないと思えば余計にだ。

 

「まあ、今回は建物を倒壊させただけなら大丈夫だろう」

「そうかしら? あの国は、今困窮しているじゃない? それなのに皇宮を直すためにお金を使うことになれば、税金を吊り上げるしかないわ。そうすれば、民は不満を持つはずよ。金の皇帝がその不満をどこに向けさせるかが問題ね」

「……やはり皇帝は潰しておくべきか?」

 税金を吊り上げる理由が崩れた城の再建設のためで、崩したのは白龍だけれど、その白龍を動かしたのは……私か⁈

 三回殺されたのに、それでもなお恨まれることになるのはやめて欲しい。むしろ恨むなら私の方だ。

 でも白龍が皇帝を殺すのは嫌だし……。


「ご安心下さい。城を再建するための援助は私達の方で行いますから。今ならば、金の国に断るだけの余力などありませんし、断って税を上げれば間違いなく暴動が起こるでしょう。農民でも皇帝を討ち取れることは私が証明しましたので」

 そうだった。土の国の皇帝は農民だったのに、応国の皇帝を討ち取てその座を得た人だ。本当にそんな下剋上ができてしまうと分かっていれば、金の国も下手なことはできないはずだ。

 それにしても、土の国の皇帝は金の国の民のためにお金を出すとは優しい皇帝だ。


「六花、ちょっといい?」

「どうしたの?」

 ちょいちょいと小春に呼ばれたので近づくと、耳元に口を寄せられた。

「土の国の皇帝は甘い人ではないからね。これは六花が恨まれないようにするために言っているのではなく、ただ単に未来への投資をしているだけよ。お金と食料の援助、これだけのことをされたら、金の国はどれだけ土の国を見下していようとも、強気には出られないでしょうから」

 金の国からすると、たくさん援助を受ければ受けるほど逆らえなくなる。その結果、強気では出られなくなると言うことだ。


「なら土の国の皇帝が小春を返さないと言ったら、金の国は何にも文句は言えないのね?」

「そういうこと。それにあれだけ白龍様が脅して下さったのだし、もう私を無理やり攫おうとはしないでしょうけど。そもそも攫ってもなんの特にもならないし、私のお友達が怒ってくれるから」

 白龍の番のお友達だからとうのは、しっかり牽制材料になるようだ。

「ええ。小春は私の大切な友達だもの。もしも虐めたら、金の国の皇帝だろうと、土の国の皇帝だろうと乗り込んで大暴れしてやるわ」

「ふふふ。頼もしいわ。逆に六花が困った時も言ってね。私も絶対力になるから」

 ニコリと笑い、小春は私の手を握った。そして真っ直ぐ見る。同じ青色の瞳が交差する。

 ……どうやら、私の魂の双子は私の旅立ちに気が付いたらしい。


「『六花公主』が味方なんて、とても心強いわ」

「そうね。『六花公主』は絶対死なないもの」

 私達は笑い合った。

 苦難ばかりの人生だったけれど、腐らず前を向いて進んだ先に今がある。


「白龍、そろそろ家に帰ろうか。ライも心配しているだろうし」

「そうだな」

 白龍が再び大きな龍の姿になった。

 その背に私は飛び乗る。

「皆様に幸多からんことを!」

 去り際の言葉もなく飛び立つ白龍の背から、私は大きな声で叫び、土の国の皇宮を出たのだった。

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