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五章 天網恢恢にて白龍警報⑥

『そろそろ着くぞ』

 白龍の背から下をみおろせば、城壁で囲まれた場所が見えてきた。

 城壁は四角に近いが、少し歪だ。さらに城壁の中にまた城壁があるようだ。一番中心にある城壁の内側が城だろうか?

 そんなことを思っていると、一番外側の城壁も、内側の城壁も無視して、真っ直ぐ城の前に白龍は降下していく。

 城壁って、神獣には全く意味をなさないものなんだと改めて知る。


 白龍が高度を下げると、屋敷から人が飛び出て来て、こちらを見上げているのが見えた。

 皇宮だけでなく、至るところで、人が空を見上げていた。……そりゃそうだよね。こんな大きな龍が突然空を飛び現れたら何事かと思うのは当然だ。

 私の住んでいる村も麒麟と鳳凰が私の家に降り立ったあばら家を今もまだ拝み続け、新しい宗教が始まりそうになっているのだ。皇宮に龍がが降り立った日には、気になるに決まっている。

 ……でも金の国の皇帝の前に降り立ったという噂だと、逆に盛り上がりすぎてとんでもないことになってしまうのではないだろうか? なんか選ばれた人みたいに思える。

 金の国の人は、物事を都合よく解釈して、本当に話を聞いてくれないし……。


 そんなことを思っている時だった。

 突然突風が吹いたと思うと、ものすごい音がして、次の瞬間には皇宮が崩れ落ちていた。

 ……ん?

 …………ん?

 ………………はいぃぃぃぃぃ⁈

「はははははははは、はく、白龍⁈ お城が壊れちゃってるんだけど」


 皇宮内で大きな竜巻が起きたみたいになっているけれど、そんなものはどこにも見当たらない。。

 偶然天災が、ここに着くと同時に目の前で起きたとは思いにくい。つまり、白龍がこの一瞬でやったのだ。


 やってしまった。


 皇帝暗殺という言葉が脳裏を埋め尽くす。

 怒っているとは思っていた。思っていたけれど、さっきも殺さずにいてくれたし、話し合いをしてくれると思っていた。多少拳の語り合いが含まれたとしても。

 まさか、問答無用で城を壊すなんて誰が考えるだろう。


『この方がこちらの力が分かるだろう? 力差が分かれば、さきほどの男のように無駄なことはしないだろう。私は話し合いをしに来たのではない。警告をしに来たのだ』

「け、警告?」

 いや、警告って、相手がいて成り立つ言葉だよね? と思ったが、ハラハラしていると、崩れた城の中から、次々に人が出てくる。

「あれ? 死んでない?」

『六花が殺すなと言っただろう? 人に当たらないように壊した。だから殺していない。だが警告を無視すれば、それは神獣の領分に口出しをしたとみなし、それ相応のことをさせてもらう』

 それ相応……。

 城を壊してしまっただけでもとんでもないことをしたと思うけれど、白龍にとってはこれはかなり甘い対応なのだ。

 きっと本気を出せば、国一つ滅ぼすことも可能ではないだろうか?


「は、白龍様! お初にお目にかかります。私が金の国の皇帝でございます」

 城の中から、ひと際豪華な黒服を着た男が出てきた。黒い服には金の糸で刺繍が施され、全く地味には見えない。しかしその服は土ほこりが付き、白く汚れていた。

 多分建物が倒壊したためだろう。

『お前が、何度も私の番を殺すことを許した男か?』

「こ、殺し? いえ、私は義理の娘を殺すなど——」

『違う。私の番は、お前の義理の娘などではない、六花だ。一度全員背から降りろ』

 白龍が地面についたので、私達は背から慌てて降りた。


 久々の地面にどことなくふわふわとしたが、すぐさま私は大人の姿になった白龍に支えられた。

 どことなく私を心配している目をしていたが、私はもうこの姿を拒絶するつもりはないと、ニコリと笑い返す。

 どんな姿だろうと、私を助けてくれている白龍なのだ。

「私の番は、ここにいる六花だ。勝手に自身の義理の娘が私の番だなどと妄言を吐くのはいい加減にやめろ。そして私の番を何度も害した罪は、本来ならば命で償ってもらいたいところだが、この建物を壊した事だけで許してやる。我が番はどこまでも慈悲深いからな」

 慈悲深いというよりは、わざわざ恨まれることを増やしたくないだけだけど。

 私は叔父と会うのはよく考えると初めてだ。父の姿もあまり覚えていないので、似ているのかどうかもわからない。

 ただ苦労しているんだろうなと思うやつれ方をしていた。


 でも支えてあげたいと思うぐらいの親類の情もない。

 顔かたちが多少似ているかもしれないが、家族だとは思えない。私をこれまで助けてくれたのはライと白龍だ。もしも私が助けるとしてもこの二人である。

「白龍はとても迷惑に思っています。あまり彼の手を煩わせないでお過ごしください」

 もう会うこともないだろうと思い、思っていることを伝えると、皇帝が膝をついた。

「ど、どうかこの国に留まっていただけないでしょうか? 白龍様はこの国の宝物庫にあった卵から孵ったはずです。この国の者は、神獣の慈悲を必要としているのです」

「私は確かにここの宝物庫に居たが、決して金の国の所有物ではない。そして神獣は人の意思で操れるものでもない。いい加減自分の足で立ち、進め」

 白龍の言葉は決定事項を継げるものだ。話し合う気はない。

 皇帝は私にすがるような目をしたが、私にどうにかする権限はないし、白龍の言う通りだと思う。永遠に神獣はいるものではないのなら、いない状態で生きていく方法を探すしかない。

 

「番様……貴方の瞳も青いのですね」

 皇帝ははっとした顔で、私と私より後ろに立っているだろう小春に視線を向けた。六花という名前、そして特徴的な瞳の色と年齢。

 小春が本物ではないことをこの皇帝は知っているはずだ。私が六花公主だったと感づいてもおかしくはない。


「ええ。私は西から来た踊り子の娘だから」

「六花公主が六花と同じ瞳をしているからと言って、番になれるわけではない。何度もいうが、私の番は六花だけだ。……このような簡単な話が理解できないと言うのなら、金の国の王族は皆、死ぬべきではないか?」

 白龍の声はそこまで大きくないのに、重かった。

 しっかりと聞こえたらしい皇帝は、自分自身が審判を受ける立場に立っていることを理解したらしく、紙のように顔色をなくしていた。

 自身の命だけでなく、【皆】と言う言葉。実際にできていしまうだろう白龍の力が、皇帝に圧力をかけているのだろう。

 こう考えると、最初に建物を問答無用で破壊し、力を示すのは分かりやすくて手っ取り早かったのも分かる。


「六花は六花公主を友と見ている。今後六花公主に対して不利益なことが起これば、我が番は嘆くだろう。……私は番の嘆きを取り除く義務がある。六花公主は金の国に留まるのではなく、土の国の皇帝との婚姻を望んでいるそうだが?」

「……六花公主には、彼女の望むままにさせたいと思います」

 金の国の皇帝は、絞り出すようなか細い声で白龍の言葉に答えた。

 頭をふせる姿は、皇帝と言えないほど小さく見える。唯一の救いは、皇帝の周りにいる者たちも、皆皇帝に倣うように頭を深く下げ、皇帝の弱い姿を見ることがないことだろう。

 白龍を前に小さくなる姿はまさに小物のようで、今後の威厳に関わる気がした。元々国をまとめきれているとは言い難い状態なのに、さらに悪化しそうである。

 ただし彼を皇帝から蹴り落としたところで、国には神獣が居ないので貧乏くじを引かされたようなものだろう。それでも権力というのは、素晴らしい黄金の様に見えるのだろうか?


「では六花、土の国に帰ろうか」

 十分脅された金の国の皇帝に背を向けた白龍は私に笑いかける。先ほどまでの怖さは全く感じられないいつもの白龍だ。

 それでも先ほどの姿も白龍の一面なのだろう。

 でも私はそんな白龍の手を握った。

「うん。そろそろ家に帰ろう」

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