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一章 白龍の番候補は仮契約中②

「今日は卵粥なのか。珍しいな」

「うん。椀を売りに行く途中で卵をたくさんもらってね」

 夕餉ゆうげライと一緒にするために机に乗せると、珍しく料理に興味を示した。

 石の精霊であるライは、本来食事をする必要がない。気を直接取り込むことができるためだ。

 それでも食べようと思えば食べられるので、私が寂しくないよう本物の人間の家族のように、私と一緒に食事をしてくれる。

 最近は粥と菜ばかりだったので、私としてはそろそろいなごかえるでもいいから捕まえたいと思っていたところでの卵だからありがたい。


「……もしや、また人助けをしたのか? 礼を沢山されたのなら、怪我をしたのではないか?」

 ぎくっ。

 ライの鋭い指摘に、私の肩が揺れる。その所為で、ライにはすぐに私が怪我をするような方法で人助けをしたことが見抜かれてしまった。

 ライの紅い瞳が半眼になり、私は体を小さくする。

「あー……わざと怪我をしたわけじゃないよ? ただ丁度目の前で木から落ちる爺さんがいたから、思わず体が動いちゃってさ」

「六花が死なないのは知っている。しかし痛みも苦しみもあるのだから、無茶はしないでくれ。この村に馴染むために頑張りすぎる必要はない」

「……うん」


 私とライはよそ者だ。

 ある日ふらっとやってきた、人外と外国人の特徴を持つ子供。当初村の人は酷く警戒をしたが、あまりに私がやせ細りみすぼらしい状態で、ライが土に頭をつけこの村に住まわせて欲しいと願った為、村のはずれの場所をもらえた。

 それでも何か村で問題があれば、真っ先に疑われるのは私達だ。だから必死に馴染もうとしてきた。私はお願い事をされれば、体を張ってそれを叶え、ライは人間らしく振舞うために、木工細工という仕事を始めた。


 なんだかんだで、八年ほどそれから住み、むやみに迫害をされない程度には馴染めたと思う。それでもここで何代も骨を埋めて来た人からするとよそ者だ。

 だから私は、何かあった時に、すべての罪をライに押し付けられてしまうのではないかと思い、誰かにお願い事をされたら、それを叶えずにはいられない。

「いざとなれば、山の中でも別の土地でも人が問題なく生きていけるだけの知恵はつけた。どうにでもなる」

「そうだね」

 馴染みある人里の生活の方が楽だ。

 でも私が初めて後宮の外で暮らし始めた時よりも、知識もやれることも増えた。今ならどこででも生活できると思う。


「でも、ライのことを悪く言われて追い出されるのは腹が立つんだよね」

「そんな矜持いらん」

「家族が悪く言われるのを怒って何が悪いのさ」

「……家族として扱ってくれるのは嬉しいが、六花が怪我する方が俺は辛い。自分の安全を優先しろ」

「はぁい」

 私にとってライは種族が違っても家族だ。

 だからライを悪く言われたくないし、ライが何か濡れ衣を着せられそうになったら、絶対その嘘を明かしてやりたいと思うのだ。そのためならなんだってする。


「まあでも、今回は卵が手に入ってよかったということで。明日も卵料理が食べられるよ。何がいいかなぁ。また卵粥でもいいし、炒め物もいいよねーー」

 卵料理を想像するとそれだけで胸がいっぱいだ。

 あまり食事に興味がないライはそんな私の言葉を聞き流し、粥をすすっていた。


◇◆◇◆◇◆



 腹もいっぱいになりぐっすり眠った翌朝。

 キュイキュイという、鳥とは違う鳴き声で目が覚めた。その音が家の外ではなく、耳元で聞こえたからだ。

 窓の隙間から入る光のおかげで、すでに日が昇った時間だということは分かる。でも動物を飼っているわでもないのに、家の中で動物の鳴き声がするのはおかしい。

 私は一気に覚醒し、ガバリと頭を起こした。


「ひっ‼ ラララララ、ライッ‼ 起きて! 大変っ‼」

 私の枕元には、真っ白な蜥蜴トカゲのような蛇のような生き物がいた。

 真っ白なので白子アルビノっぽいが、爬虫類独特の瞳孔が長い目は青色だ。ただ私が蛇とも蜥蜴とも判別できなかったのは、その背に、蝙蝠のような翼が生えていたためだ。ただしこれも白色。

 さらに胴体は蜥蜴に比べると細長いが手も足もあるし鬣まである。だとしたら蛇ではないが、だったら何だと言われると分からない。

 頭には二本の角もあるし、翼はただの飾りではなく、鳥の様に飛ぶこともできるようで体が浮いている。


「朝からどうした?」

「どうしたじゃないんだって! 変な生き物が家の中にいるの!」

「虫なら外に箒で掃き出せ」

「虫じゃないの!」

 眠そうなライの腕のあたりをバシバシと叩く。ライの体は硬いので、叩くと私の手のひらの方が痛くなってしまうが、とにかく誰かにこの動揺を共感してもらいたい。


 私が必死に起こしたおかげで、ライは体を上げたが、未知の生物を前に目を大きく開いて固まった。

「……これは、龍か?」

「えっ。龍? これって龍なの?」

「俺も応龍は一度しか見たことがないから、絶対とは言えないが……。体の大きさは小さいが龍だと思う」

 しばらく石の様に固まった後、ライからでてきた単語に驚く。


 龍というのは、どこにでもいる生き物とは違う。

 枠組みとしては神獣と呼ばれる種族に位置し、一生会わないこともある大変貴重な生き物だ。

 磊が言う応龍は、まだ【応国おうのくに】があったころ、応国の守護獣として滞在していた龍の名だ。応龍が立ち去ったから謀反があったとも、謀反があったから応龍は国を離れたともいわれるが、応龍が今どこで何をしているのかは誰も知らない。

 そんな神獣は、人とは違い不思議な力を持ち、自然を操ることができる。人間よりもライのような精霊に近い存在だ。ただし神獣は精霊よりもずっと大きな力を持つという。


「龍だとしてもどこから入ったんだろ。窓も玄関の扉も開いた形跡がないけれど」

 パッと見た限り、中に入ってこられそうな場所はない。神獣ならば、扉や窓を使うことなく中に入ることができるのだろうか?

 そもそもなんでこんな場所に?

 お腹がすいて食べ物を探して入りこんだとか?


 もしかしたら食べ物を何か食べた形跡があるのかもと台所の方に走って移動する。

 とにかく龍を外に出したいが、無理に捕まえようとすると噛みつかれるかもしてない。それに自然を操ると言われるなら、何が起こるか分からないので刺激しない方がいいだろう。

 龍が台所で食べたもの、もしくは食べそうなものを餌にして、外に誘導するのはどうだろうと台所を見回した時だ。昨日貰った鶏の卵が一つ割れているに気が付いた。昨日貰った時は気にならなかったが殻の大きさからすると、大きく立派である。

 もしかして卵を食べたのだろうかと思い覗き込むが、黄身や白身がこぼれた形跡がない。

 そもそも割れているのは一つだけだ。……これはまるでひなが孵ったようではないか。

 私はその殻を手に取ると、ライの方へ戻る。


ライ、龍って卵から生まれるの?」

「分からん」

「でも、卵割れてるの。ほら。これ、絶対生まれた後だって。もしかして、この卵、全部龍⁈ えっ。どうしよう、昨日二つ食べちゃったんだけど⁈」

 大変なことになった。

 もしかしたらて私は史上初、神獣の卵を食べた女になってしまったかもしれない。

 誰かに知られたら、罰当たりだとお咎めされる案件に違いない。でもどうして鶏の卵が神獣の卵と入れ替わってしまったのだろう。

「というか、昨日貰った卵は全部神獣の卵? えっ。どうしたらいいの?」

 役人に報告?

 いやいや、絶対まともに取り合ってもらえない。取り合ってもらえても食べた事を知られたらどうなるか分からない。

 でもこんなにたくさんの神獣が生れたとして育てる自信はない。


『そんなわけあるか!』


 どうしようと頭を抱えていると、突然子供の声が聞こえた。甲高いが、女の子というよりも男の子っぽい声色だ。ライの声はもっと低いので違うはずだが、家の外からにしてははっきりと聞こえた。

 私は目を瞬かせて辺りを見渡すが、ライ以外には誰も家の中にはいない。

ライ何か言った?」

「いや。何も言っていない」

 それらしい子供もいないので、ライの声を聞き間違えたかと思ったが、磊は何も言っていないという。そうだよね……。

 ライではないのなら幻聴?


『私が念話でじきじきに話しかけているんだ。お前があまりに馬鹿馬鹿しい勘違いをして醜態をさらしているからな』

 また子供の声が聞こえた。

 私はちょっと偉そうな声がしたと思われる方を見て、子竜の青い瞳とぶつかった。

「もしかして、君、喋れるの⁈」

『音を震わせているわけではない。頭に信号を送り、話しているように感じさせているだけだ。だから耳を塞いでも聞こえるはずだ』

「へぇ。すごい。流石、神獣」

 耳を塞いでも聞こえるって、凄すぎる。

 とても便利な能力な気がする。例えば、寝ていても全然起きない人を起こす時とか、耳が遠いご老人に話しかける時とか。

 あっ。耳の聞こえない人でも、念話は音として認識するのだろうか?


『何かおかしな使い道を考えなかったか?』

「おかしなことは考えてないよ。ところで、この卵から生まれたんだよね?」

『そうだ。ただし、他の卵はすべて鶏だ。昨日、六花たちが食べた卵も同じだ』

「よかったぁ」

 神獣の卵を食べてしまったかもしれないということが否定されてほっとする。本当に神獣を食べてしまったら、怒られるだけでは済まなかったに違いない。


「でもどうして鶏の卵に混じっていたの? 親はどうしたの? あっ。卵の中に入ってたんじゃ、親がどうして鶏小屋に産み付けたかなんてわかんないか」

 そもそも龍が鶏小屋に来ていたのに気が付かなかった、あの爺さんたちの家族が鈍すぎるというか。それとも神獣だと人に気が付かれずにそういうこともできるものなのだろうか?

『勝手に鶏小屋に産み付けられたなんて思うな。龍の番があんな場所で出産するわけがないだろ』

「はぁ……そう言うものなのね。なら、どうして貴方は鶏小屋に?」

 龍の生態など知らないので、鶏小屋で出産するわけがないと言われればそういうものなのだと納得するしかない。でもどうして鶏の卵に混じっていたかの理由が分からない。


『お前に会うために自分の力でこの卵に混ざったんだ』

「私に会いに?」

『正確には、番候補であるお前に触れてもらうためだ。龍は鳥とは違い、番候補に触れてもらわないと、卵から孵ることができないからな』

 へぇ。

 鳥は温めて卵を孵すけど、龍は番候補が触れないと生まれないんだ。不便だねぇ……ん? 番?

「えっ? 番⁈ 番って奥さんって意味だよね? 私が番⁈ 私、龍じゃないんだけど⁈」

 私はとんでもないことを言い始めた龍を前に、大きな声で確認をした。

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