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五章 天網恢恢にて白龍警報②

 りんに案内された場所は、後宮から外に出た場所のようだ。

 先ほどまでいた場所は女性か宦官しか会わなかったが、今は男性の官僚とすれ違う。彼らは自国の麒麟の顔を皆覚えているようで、すれ違う度にこちらに頭を下げてくるし、止められることもない。

 これぞ神獣の力(権力)だろう。

 

「そう言えば、六花ちゃんはもう体の傷は治ったの? 包帯ぐるぐる状態だけど」

「ほとんど治ったとは思うのですが、まだ痛みが消えなくて……」

 ここまで治りが遅いのも珍しいし、よほど念入りに切られたに違いない。

「……金の国は、本当に神獣を逆なでするのが好きみたいね」

 麟が静かに怒りを見せると、すっと場の空気が数度下がり、冷や汗が出た。

「あはははは。いや、でも、ほとんど治ってます。ほら、歩いていますし、何なら走れますから」

「走るな。痛みがあるなら、治りきるまでは傷口が開くかもしれないだろ」

 場を和ませようと大げさに腕を動かしてみたが、すぐさま白龍が私の服の袖を握って止めた。

 本当に走る気ではなかったけれど、年下の子に説教される大人の図になっていて、ちょっと物悲しい。


「……神獣を甘く見られていることには腹が立つけれど、腸が煮えくり返っているのは、当事者の方よね。私達はひとまず傍観させてもらうわ。もちろん、神獣の怖さを思い知らせて欲しいと言われたら、ちゃんと手伝いをするから安心してね」

 可愛らしく微笑んで申し出てくれた言葉がまったく安心できない。

 正直私を殺した相手は白龍が相手するだけでも過剰になりそうな気がしてならないのに、そこに他の神獣が加わったらどうなるのか。大災害待ったなしだ。

 しかも笑顔で腸が煮えくり返るとか言われると、怖さが増すのはどうしてだろう。


「さあ、ここよ」

「麒麟様? そちらの方々は……」

「私の客人よ。開けなさい」

 りんが命じると、重そうな扉は、その前を守っている武官に開けられた。

 入って真っ直ぐのところが壇上となっており、ひと際美しい衣を纏った初老の男が豪華な椅子に座っていた。頭にかぶった幞頭ぼくとうも周りに立つ者達とは違う。……皇帝だ。

 皇帝の隣には、見覚えのある皇太子とが立っていた。さらに壇上から下がった位置に、皇帝から見て左右に別れる様に男たちが数名立っていた。多分位の高い人なんだろうなとは思うが、正直誰がどう偉いのかは分からない。


「賢帝。当事者を連れて来たわ。彼女なしで、実際に何が起きたのかも知らずに結論を出すのはおかしいと思わない?」

 りんの言葉に、周りがどよめくが、彼女の言葉を止めようとする者は居ない。

 視線が私の方へ突き刺さる。傷だらけで包帯を巻いているから……というわけではなく、たぶん白龍の番だと思われているからだろう。

 でも怯んではいられない。


「皆様、お初にお目にかかります。私は白龍の番の、セキ六花リッカと申します。今回のことで、六花公主が自分の意思で勝手に後宮を出たため婚約解消をお考えとお聞きしましたが、少し待っていただけないでしょうか? 六花公主は私と名前が偶然にも同じだったことで、白龍の番と勘違いをされ、侍女の命を盾にとられ、金の国の使者について行くしかない状況にさせられたのです」

 彼女達は見せしめに最初に一人害され、その後私が何度も切り刻まれるという残虐な光景を見たのだ。逆らえるわけがない。

 私としても、ためらいなく殺した死体を損壊するような男に反抗しなくてよかったと思う。さらなる犠牲者が増えただけだろう。

「しかし後宮内から皇族の意思を無視して外へ出ることは重罪です」

「自分の意思ではないとしたら? あの時、部屋を守るべき武官が居ませんでした」

「六花公主が武官に対して離れる様に言ったと聞いているぞ!」

「武官は六花公主の命令に従わなければならない立場なのですか? 武官に命令を出すのは六花公主ではないと思うのですか?」

 

 どう考えても六花公主が離れる様に言ったところで、それを理由に離れて良い場面ではない。

「確かにそうなのですが、新人が担当したもので、強い口調で言われ聞くほかないと思ったと聞いております」

「強い口調だったのは、脅されたからではないでしょうか? もしくは、その新人武官が嘘をついているかです」

 私は間違いなく小春が脅される場面を見た。

 だからそんな小春に命令され任務を放棄した武官の方が、ずっと罪深いと思うのだ。


「小娘。部外者が、武官のことを批判するな!」

「おい。口の利き方には気をつけろ」

「六花ちゃんの意見は、本当に批判かしら?」

 あごひげを蓄えた大柄の男が吠える様に叫んだ所為で、私は怯んだが私の前に白龍が立つ。さらに麟も人睨みすると、二人よりも大きいはずの男がたちどころに動揺したようにたじろぐ。

 ……神獣二人に守られると、自分が偉くなった気になりそうなので気をつけなければいけないが、今は存分に彼らの権威を借りさせてもらう。実際、あごひげが言う通り、私はただの小娘で、本来ならば誰も話など聞いてくれない立場だ。

「すまない。彼は武官をまとめる職に就いておるのだ」

「賢王? それは違うだろう? そのことと、白龍の番に小娘などと愚弄する言葉を使うことは違う話だ」

 皇帝が謝罪の言葉を口にしたことに衝撃を受けたのに、麒まで私を弁護し始めて、顔が引きつった。


 ……なんか大事おおごとにされてしまいそう。

 私は犯人に対して、皆に怒ってもらい、六花公主を取り戻す方向で動いてもらいたいだけなのに、私への口調などというどうでもいいところにこだわらないで欲しい。

 先ほど凄んだ相手は、大男のはずなのに顔を青ざめさせ、獅子に睨まれた子犬のように見えてしまう。


「あ、あの。私も憶測でものを言い申し訳ございません。ですが、間違いなく私はあの場で害され、六花公主は金の国へ戻る様脅されました。これだけは間違いございません。どうぞ、私の友人である六花公主が土の国でこれからもつつがなく暮らせるようお力をお貸しください」

 はっきり言って武官の人は怪しいけれど、すべてを私も見ていたわけではない。

 その調査をするのは私ではないし、私が何とかしたいこととも違う。私は六花公主である、小春を助けたいのだ。


「わ、私もつい声を荒げてしまい、申し訳ございません」

 髭の大男もその場限りかもししれないが、神獣の圧力に負けて謝った。謝ったのだからいいよねと思ったが、白龍が不満そうだ。このままだと最大級の謝罪をここで行えと言いかねない。

 私はこれは終った話だとするために、さっと白龍の前に立った。

「誤解も解けたようですし、六花公主を助けてあげてください」

「六花公主を助けたいと言われる番様の気持ちは分かりますが、このことで金の国との関係が悪化すれば、多くの民が苦しむことになります。土の国が金の国に負けることはないでしょうが、あの国は西側から最新の武器を輸入しているのです。その上、多くの餓死者が出ており、これ以上荒れ、流民となった者が土の国へ来ても困ります」

「この度の婚姻の代わりに金の国へ食糧支援をする手筈となっておりましたが、婚姻がまとまらないと始めることもできません。その場合、流民が増え、わが国の治安の悪化が懸念されます。金の国が六花公主にこだわると、開始が遅くなる恐れもあります」

 なるほど。流民は職も土地も持たないので、増えると治安が悪化する。下手したら暴徒となり、鎮圧が大変になる。

 それを未然に防ぐための食糧支援だが、理由なくただでやれるほど安いものでもない。そこで金の国の姫君をもらい受け、繋がりの強化を図ったのだろう。


 それなのに、六花公主にこだわることで、金の国との関係が悪化したら元も子もない。土の国からしたら、別に金の国の姫君であれば、誰でもいいのだ。

 六花が私を後宮に留めた理由がよく分かる。

 彼女の立場はとても不安定だ。金の国では尊重されず、土の国でも【六花公主】を求められているわけではない。

 だから小春は、神獣の番と仲がいいと見せて、少しでも自分の価値を高めるしかなかった。


 六花公主は私が金の国の後宮から出られなかった時の姿だ。

 本来ならば、小春ではなく私が味方のいない苦しい立場に立たされていたのだ。

「ならば、私が六花公主を連れ戻したら、土の国はこの度のことは罪問わず、迎え入れてくれないでしょうか?」

 六花公主をただ連れ戻しても、土の国がもめ事を避けるために別の公主を求めてしまったら、小春の居場所がなくなってしまう。

 小春は死ぬ思いをして、覚悟を決めて土の国へ嫁ぎに来たというのに。

 小春を助けるために土の国が当てにできないのならば、自分で動くしかない。でも私にできることは小春を連れて戻ることまでで、受け入れるかを決めることはできないので、何としても納得してもらわなければ。


「私は反対だ」

 しかし私の思いを打ち砕く言葉が、白龍から飛び出した。

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