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五章 天網恢恢にて白龍警報①

 白龍に押し倒された私は、その瞳を見つめ返した。

 子供の姿なので、私よりもずっと小さくとても軽い。だからどけようと思えば、簡単にどけることができる。

 でもできなかった。

「ごめんね、白龍。悲しかったんだね」

 私はそっと白龍の頬を触った。

 彼は泣いていないけれど、泣いている気がした。


 白龍は私が死なないことを知っている。

 他でもない、彼が番の仮契約をしているからそうなっているのだ。

 もしも彼が自分のものを傷つけられて怒りを感じているだけならば、今頃自分のものを害した相手に罰を与える為に飛び立っただろう。神獣たちは人より高位の存在で、人にいいように管理されるのが我慢ならないようだから。

 でも白龍は私の隣で私が目覚めるのを待っていた。それは自尊心を傷つけられた怒りよりも、私が傷ついたことに対しての悲しみを強く感じたからに違いない。

 そしてそんな思いをさせてしまったことを、まずは謝らなければと思った。


 私の謝罪に、白龍はくしゃりと顔を歪めた。

「謝るな。悪いとも思っていないくせに!」

「白龍を傷つけてしまったことに対しては悪かったと思っているわよ」

「何故私が傷ついたか考えろ、馬鹿! それは分かっていないと言うんだ!」

 半泣きのような声で起こられても、子供が癇癪を起したかのようで、怖くはない。ただ申し訳ないなと思う。

「えっと、私が死ぬような怪我をしたからだよね?」

「そうだ! 疑問形で返すな、馬鹿!」

 白龍は私が怪我をすることを良く思っていない。それは分かっている。

 私だって、白龍やライが傷つくのは嫌だから。死ななければいいというわけではない。


「……ごめんね。でもあの部屋で私が殺されなかったら、他の人が見せしめで殺されていたの」

 あの瞬間、侍女を助けるために間に入っていなかったら、死んでいたのは侍女だったはずだ。そしてあの侍女は私と違い、二度と目を覚ますことはない。

 だからあの瞬間、自分が刺される方が最善だと思ったのだ。

 とはいえ、まさか何度も執拗に切り刻まれるとは思わなかったけれど。


「私は他の人間より、六花の方が大切だ。死ななくても、痛みがなくなることはないんだぞ⁈ 何で自分を大切にしないんだ」

「ごめんね。でも、体が勝手に動いてしまうから」

 人が死ぬかどうかの瞬間に立ち会うと、大抵頭で考えるより先に体が動いてしまう。

 死なない体で過ごしてきた、長年の癖だ。癖はなかなか治らない。

「……はぁ」

 白龍が深くため息をついた。


「つまり六花は、頭で考えられない馬鹿だと」

「うぐっ……その通りよ」

 確認をとるような聞き方をされると、悪態をつかれるより、ぐさりと来る。でも事実私は頭で考えるよりも体が動いてしまうのだから仕方がない。

「なら、私が守るしかないな」

「へ?」

「自分で守ってくれないなら、私が六花を守る。私に傷ついて欲しくなければ、せいぜい自分を守るんだな」

 なんだと?

 想定外な脅しをされて、私は目を瞬かせた。

 私が誰かを守るために傷つくなら、白龍がその私を守ると? それで傷ついたら、私の所為だと?


「えっ。そんなの頼んでないよ!」

「私が勝手にやってるんだ。すまない。どうやら、家族に似たようだ」

「いや、反面教師で、頑張ってよ!」

 家族って、どう考えても私のことだよね。

 私はとんでもない宣言をする白龍を押し返して、起き上がるが、白龍はにやりと笑うのみだ。


「それで、これからどうするんだ? どうせ私の話を聞かずにまた無茶をするのだろ?」

「止めても無駄よ。私は小春を助けるから」

「だろうな。だからついて行く。六花の安全は私が守る」

 あきらめたように白龍が笑った。

「えっ? いいの?」

「いいも悪いも、止まってくれないじゃないか。少しぐらい頭を使って、一呼吸おいてから動いてくれると嬉しいのだけどな」

「頑張ってみるけど、反射神経だけを頼りに動くと、どうしても肉の盾が必要になる瞬間があると言うか……」

 本当は守る相手を押して私も避けられればいいのだけど、私ではそこまでのスピードは出ないのだ。

「人間なら道具使って、守るとかもできるだろ。六花は力持ちなのだから、机を持ち上げて壁を作るぐらいできるだろ」

 ……あっ。なるほど。

 確かにあそこにある机に剣を突き刺させるように動けば、剣が抜けずにまた別の方法があったかも。それは考えてもみなかった。


「その手があったかみたいな顔をしないでくれ……。どうしても誰かを守りたいなら、まずは自分を盾にしない方法を考えろ」

「うん。分かった」

 これなら何とかなるだろうと思えれば、今度は私も素直に頷けた。

 

「それで六花はどうしたい? この国はすでに小春を見捨てるか話し合っているぞ」

「えっ。何それ!」

 いつまでも私が寝てたから、そんな話になってしまったのだろう。小春が皇帝や皇太子から許可をとることなく、実家に帰ってしまったことになっているに違いない。

「白龍、それ、どこで話し合っているの?]

「さあ?」

「さあって、どういうこと⁈ 分からないなら逆になんで知っているの?」

 意味が分からない。

 もしも小春のことで集まっているならば、どうやって取り戻そうかを話しているのかもしれないのに、何故白龍は見捨てるかの話し合いと言ったのか。


「適時、リンがわざわざこちらに念話で実況してくるからな。まあ、いい。あいつらのどちらかを案内役にさせ——」

「お待たせ、六花ちゃん!」

 白龍が言うが早いか、とても勢いよく扉が開いた。勢いよすぎて、扉が外れてしまっている。

「あら?」

「あら? じゃない! 何壊してるんだ」

「急いできてあげたんだからいいでしょ?」

 倒れてしまった扉を立てかけて中に入ってきた麟は口を尖らせた。見た目はか弱い女性だけれど、力は大男以上のようだ。見た目に騙されてはいけない。


「一番の被害者は六花ちゃんだし、六花ちゃん抜きで金の国の対応をどうするか決めるのっておかしいと思ってたのよね。やっぱり当事者の意見は大切だと思わない? それなのにその場に居なかったおじさん同士で頭をつき合わせて話し合っているのよ」

「小春……六花公主は、侍女や私がこれ以上傷つかないようについて行っただけで、この国を裏切ろうとしたわけじゃないんです。小春は金の国で碌な扱いをされてなくて、それなのに白龍の番ではないと判明したら、どんな酷い目に合うか……」

 正直、金の国の内情が分からない。

 土の国に嫁がせる途中で殺して、賠償金だけもらおうなんていうのを、本当に皇帝が考えたのかは怪しいと思う。

 私と母も元皇帝が殺された時に殺されたのだが、謀反とはまったく関係ない人がどさくさに紛れて殺したのだ。その後わざわざ目の色が同じ小春を攫って六花公主を名乗らせたと言うことは、あの殺しは皇帝の意思とは全く関係なかった証明でもあると思う。


 ただ一つ言えることは、現在の皇帝の意思がどうであれ、皇帝は金の国の貴族をまとめきれていないのだ。そんなところに小春が戻って、無事でいられる保証はない。

「白龍も小春が心配だよね?」

「いや。別に?」

 ……ん?

 あれ? ここは私の言葉に賛同する言葉が出て来て、一緒に助けに行こうとなる場面では?

 部屋の中に微妙な空気が流れる。


「えっと。さっき、私が小春を助けに行くと言ったらついて行くって言ってくれたよね?」

「六花が行くなら、六花を守りについて行くという話だが?」

 何を言っているんだと言う顔をされるが、私の方が何を言っているの? という感じだ。白龍と小春も仲良くなっていると思ったのに、私が思っていただけだった。

「小春と白龍は友達では?」

「違うが?」

 ……違った。

 白龍の顔を見る限り、照れ隠しとかではなさそうだ。本当に彼にとって小春はただの知人程度の扱いだったらしい。

「……とりあえず、麟さん。土の国が小春を切り捨てないように、まずは小春のことを話し合っている部屋へ案内してください」

 小春を取り戻しても、土の国が小春が嫁ぐことを拒否してしまったら、それこそ小春の居場所がなくなってしまう。

 白龍に関しては、私について来てくれるならば、今は説得はしなくてもいいかと後回しにすることにした。

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