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四章 心の古傷(トラウマ)は傷みやすく治りにくい③

 私が血筋的には六花公主であることを話したため、小春は混乱しているようだ。

 たぶん、否定したくてもしきれない為だろう。瞳の色、名前、金の国の宝物庫にいたはずの白龍と出会えたこと。様々な点が、絶対あり得ない話ではないと思わせるはずだ。

「六花は……公主に戻りたいと思っているの?」

 しばらく沈黙が部屋に落ちたが、意を決したように小春は聞いた。

「ううん。私は戻りたくない」

 私はこれだけは信じてもらわなければと、小春を真っ直ぐ見る。私は小春の立場を揺るがしたいわけではない。

 今伝えたのは、何故小春を助けたいと思うかの理由を知ってもらうためだ。

「あの時、六花公主は死んだの。でもその所為で、小春は攫われてしまい六花公主となることを強制されてしまったことはとても申し訳なく思っている。辛いものを背負わせて本当にごめんなさい」

 私は二度とあの世界に戻りたくない。でもその所為で小春が辛い思いをしたことも事実で、それはゆるされなくても謝らなければならないことだ。

 その贖罪を私はしなければならない。


「頭を上げて。顔を見て話したいから」

 小春に言われ、私はゆっくりと頭を上げた。小春は私を恨んでも仕方がないと思ったが、彼女の顔はとても複雑そうなものだった。

「後宮での生活が辛くなかったと言えば嘘になるけれど、一つだけ言えることはあるわ。絶対、六花の所為じゃないでしょ」

「でもあの時、私が殺されたからこうなったわけで」

「いやいやいや。五歳の子供が殺されたことに対して、殺された子に原因があるとかおかしいでしょ⁈ 背負いすぎでしょ⁈」

「あー、白龍にも言われたけど、でも私が死んでなければ小春が攫われて連れてこられることもなかったわけだし」

 どこが起点かと言われると、そもそも六花公主という存在が生れたところまでさかのぼり、そうなると問題があるのは製造元だ。でも小春が攫われて六花公主になったのはそれのせいというのは、流石に遡りすぎな気がする。それはただのきっかけだ。


「だから。普通は死んだら終わり。五歳の子供に殺される原因があったとしても、違うでしょ。子供の所為じゃないでしょ。全部大人の所為だよ。殺した相手が悪いし、その人を追い詰めた人が悪いし、それを止められなかった人が悪い。絶対、六花の所為だけはない。そして私を攫うと決めた人も、攫った人も、全部六花には関係ないの! 大体、その理論で行くと、五歳の私が後宮に攫われて、周りをだまして偽りの六花公主になったことも罪になってしまうじゃないの」

「あ、うん」

 小春の勢いが強すぎて、私は反射的にうなずいた。

 確かに、私が殺されたことが罪ならば、六花が攫われて虚言を言うのも罪となる。

「だから六花も私に対して申し訳なく思う必要なんてないんだよ」

「……うん。ありがとう」

 私がうなずくと、小春は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


「それに金の国の後宮でも楽しみがなかったわけじゃないのよ?」

「そうなの?」

「ええ。私、侍女の一部とは仲良くしていたの。皇帝とか大臣に腹を立てたり、宦官が嫌がらせしてきた時は、そいつらで男同士の恋愛話を考えては楽しく語り合ってたから」

「……え?」

 想定外なことを言われると、頭の中にうまく言葉が入ってこないことを知った。

 言葉は分かるけれど、頭が追い付かない。


「腹が立つ相手が妃の場合は、その人が実は男の人で親の所為で女装して後宮に入ったという設定を付け加えて楽しんだものよ」

「えっ。いや。それは……どういう楽しみ方なの?」

「うーん。男女だと将来自分も結婚するから、あまり生々しい想像をしたくなくて。でも男同士は色々空想できるし、禁忌なことであるがために、それが香辛料スパイスになって、筆がはかどるはかどる」

「へぇ……」

 小春の趣味はとんでもないものだった。

 溜まった鬱憤を相手にぶつけず、筆にぶつけるのはいいかもしれないが、男同士の恋愛……。しかも相手は皇帝も含まれると。


「六花も一度やってみない? 私、土の国でも同志を集めるつもりなの」

「私は本をあまり読まないから、ちょっとやめとくわね」

「そう。残念だわ。とりあえず、土の国で金の国の皇帝の妄想話を広めようと思ってるの。顔だけはいいから題材としては素晴らしいの。しかも皇帝の近くには幼馴染の武官が居てねーー」

 金の国の皇帝と言えば、養子ばかりで実子がいない話を聞いた気がする。そこに小春の妄想話が加わると、とんでもない風評被害が爆誕している予感がした。

 ……まあ、それで小春の気がすむなら、私は何も言わない。

 金の国はとんでもない公主を育て上げてしまったかもしれないとちょっとだけ思った。



◇◆◇◆◇◆



 結局白龍とはまだ結婚をしているわけではないので、同室はやめて欲しいとお願いすれば、その日のうちに白龍には別室が用意された。

「おはよう、白龍」

「にゃぁ」

「あっ。ごめん。白龍じゃなくて、喵喵ニャオニャオだったね」

 掛け布団の上に乗っていたので一瞬白龍かと思ってしまったが、返事が猫の鳴き声だったので、違うことに気が付く。そう言えば別室だったことを寝ぼけた頭で思い出す。

 あの日迷い込んだ白猫は、ふらっと出かけては、また戻ってきて、自分の部屋の様にくつろぐ。

 結局誰の猫か分からないが、もともとこうやって気ままに暮らしている子なのかもしれない。村にも誰の猫と言うわけではないが、あっちこっちに出入りし、何個も名前を付けられ餌をもらうような子がいた。

 犬と違って猫は気ままだ。

 

 ひとまず名前がないと呼びにくいので、鳴き声から喵喵ニャオニャオと呼んでいる。

「お前は、美人だねぇ」

「にゃお」

 猫の顔なんてよく分からないけれど、なんとなく美形な気がした。そう思うのは毛並みが村にいた子よりいいからかもしれない。……食事の質の差だろうか。後宮ならばいいものを食べていそうだ。


 私は床から起き上がると、昨日のうちに宮女が用意してくれた水で顔を洗う。

 カリカリカリとドアをひっかく音がしたので扉を開けてやると喵喵ニャオニャオは部屋から出て行った。

 賢い子だ。

 私は喵喵ニャオニャオが出て行ってから、水と同じ時に用意してくれた服に着替える。そういえば、喵喵ニャオニャオは私が着替える時は見計らったように外に出て行く。もしかしてわざとだろうか?

 ……いやいや。きっと朝起きたら、一番豪華な餌が貰えるところに向かっているのだろう。賢い子だけれど、猫なのだ。

 身支度が終り、鈴を鳴らすと宮女が扉越しに用件を聞いてきたので、朝餉をお願いした。

 しばらくすれば、青葱ののった、美味しそうな粥が差し入れされる。


 それを食べながら、ライはどうしているだろうかと考える。ライは食事が必要ないから、きっと私が居なかったら、何も食べては居ないのだろう……。

 白龍もまた食事を必要とはしていないが、どうしているのだろうか?

 一人の食事は寂しくて、色々考えてしまう。とはいえ、白龍を追い出したのは私だ。


「なんとか、仲直りしないとだよねぇ……」

 白龍の前ではしたない行動をしたのは全面的に私が悪い。それなのに白龍に罪はないのに、勝手にお恥ずかしがって叫び声を上げ、拒絶までした。だから私が謝るのは当たり前だ。

 それで許してもらえるか分からないが、謝まらないという選択はない。

 問題は、責任をとると白龍が言い出したことだ。

 私が謝って気にしなくてもいいと言ったところで、それは私の考えだ。元々番にならないと言っていた白龍が責任をとるとまでいうぐらいだから、白龍の責任感は私が考えるより強い。ちゃんと話さなければ納得できないはずだ。


「でもどうやって話したらいいんだろ」

 ご飯を食べ終わった私はやることがなくて、ごろんと床に転がる。

 服に皺がつくから横になってごろごろするべきではないが、考えれば考えるほど疲れるのだ。ごろごろしていると、カリカリと音がして、ニャーと声が聞こえた。どうやら彼も食事が終わったらしい。

 扉を開ければ、喵喵ニャオニャオは当たり前のように中に入ってきて、椅子の一つを陣取る。

 そんな彼の頭を撫でながら、白龍も寂しくしているのだろうかと考え、私は再びため息をついた。

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あのあの…この喵喵って、白ry…
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