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三章 一難去ってまた一難?⑦

 小春が白龍の番と勘違いされて、金の国へ連れ戻されようとしている?

 侍女の口から出て来たとんでもない話に、私達は顔を見合わせた。

「何で小春が白龍の番なんて勘違いを金の国がしているの?」


「なるほど。白龍が土の国の皇宮に降り立ったのは多くの者が見ているからな。さらに番の名前は六花。紛らわしいだろう」

「そうね。しかも二人とも黒髪に青い瞳で、並ぶと双子のようだもの」

 顔の造作はそこまで似ていないと思うが、黒髪黒目が普通の国で、黒髪碧眼はとても目立つ特徴だ。それだけで似ていると言われるのも分かる。

 さらに名前も同じ六花。

 ……勘違いする要素は沢山ある。


「えっ? でも白龍の番の名前がそんなに広まっているの?」

「二十年前は同じ国だったんだ。他の国と繋がっている奴が居てもおかしくはない。親類が他国に居るなんて普通にあるだろうし」

「そうね。白龍の番が六花であることを隠しているわけではないから、たぶん元応国だったすべての国が把握しているでしょうね」

 確かに、二十年前なら婚姻で遠くに嫁いでいる人の親兄弟が生きていることは考えられる。婚姻でなくても役人ならば、地方に移動していたりもしていたはずだ。

 応国がなくなってもそのままそこで住み続けたひともいるだろう。

 他国になったからと、そこで簡単に縁が切れるわけではない。間諜のつもりがない人が、意識せず情報を広めることもありそうだ。


「金の国の使者に六花公主がいくら自分は違うと言っても信じていただけず困っているのです」

「金の国は神獣が欲しくて仕方がないようだからな」

「諦めて神獣が居ないのに慣れればいいのにね。神獣なんて常にとどまっている方が間違っているのよ。水が留まれば腐るのと同じでね、変化のない国は内側からぐずぐずと腐っていくものよ」

 神獣の常識からすれば金の国のやり方は間違っていると思っているようだ。でも実際に問題を抱えている金の国からしたら、一番簡単な解決方法が目の前につるされたら飛びつくのは当然のようにも思える。

 水がなくても育つ作物を探し、水をできるだけ得るための方法を考え動く。その間にどれだけの犠牲が出るか分からない。でも神獣が居るだけで一瞬で解決してしまうのだ。


「白龍、ちゃんと六花公主は番ではないと否定しに行ってあげよう? 私達の所為で小春が困っているのだし」

「……分かった」

 白龍は凄く嫌そうな顔をしながらため息をついたが、私の言葉に賛同してくれたので私は頭を撫でる。

 本当にいい子だ。


「……白龍ちゃん」

「うるさい」

「何も言ってないじゃない」

「視線がうるさいんだ!」

 何か言いたげな麟に、白龍が眦を上げた。

 子供扱いされているのが恥ずかしいのかもしれない。さっきも、神獣にとって白龍は一人前のような言い方をしていたし。

 人前で撫でるのは止めた方がよさそうだ。


 侍女に案内されて、私達は小春が居る部屋へと向かった。

 後宮の入口近くに面会室は存在するらしい。見張りはつくが、ここでならば親族の男性と会うことが可能なようだ。今回は親族ではないそうだが、金の国の皇帝の代理として訪れているそうなので、ここでの面会を許される運びになったらしい。


 部屋の中では、口論になってしまっているようで、扉を開けていないのに音が漏れ出ている。特に声が大きいのは男のようで、低い声が私にも聞こえた。

「――だから、白龍の番だった平民は死んでいるんです。貴方は同じ目の色をしているから、白龍に選ばれたのでしょう? 隠し立てするのはよろしくないですよ! まだ婚姻を上げたわけではないのです。皇帝から帰還命令をもらっております。白龍の番が六花公主であると言う情報も掴んでいるのですよ?」

 ……いつの間に私、死んだことになっているのだろう。

 確かに私と小春は同じ色を持っているので、似ているには似ているけれど、白龍は一度も小春が番候補だとは言わなかった。つまり番候補であるかどうかは、顔の造作は関係ないはずだ。

 そもそも小春が番候補ならば、土の国で鶏の卵に紛れるなんて必要はなく、金の国の皇宮内に居る小春に会う方がより簡単だったはず。


 ここは白龍が否定すれば、それで丸く収まるとは思うが……。

 白龍は動いてくれるだろうかと見れば、すたすたと私の横を通り過ぎて一番先頭に立ち、扉を引いた。

 声掛けなく、勢いよく扉が開けられたため、扉から大きな音がする。その音の所為で、小春と、金の国からの使者が一斉にこちらを見た。

「おい。今の話はどういうことだ⁈」

「なっ……無礼なっ!」

「待て。髪色が人のものではないぞ。つまりこの少年が神獣なのではないか?」

 無礼な振る舞いに一人は怒鳴りかけたが、もう一人の男が慌てたように止める。神獣が人型になることを知っているらしい。


「そうです。彼が神獣の白龍です。人の礼儀には疎いの。突然扉を開けてしまってごめんなさい」

 私は白龍に対して男たちが無礼なことをして、白龍が怒っていけないと思い、慌てて白龍の前に立って弁明する。熊も倒した白龍だ。人間に負けることはないだろう。でもここで金の国の使者を白龍が害したら、国家間の問題に発展してしまわないだろうか?

「何? 神獣? ……待て。お前は⁈」

「ひっ。ば、化け物! 俺達を追いかけて来たのか⁈」

 私の弁明で白龍に対して畏怖を感じるだろうかと思ったが、私に対して、何故か二人は怯えだした。というか、化け物は酷い。

 私は間違いなく人間だ。というか、追いかけるってどういう意味だろう。私のところへ来たのはそちらの方だ。


「先ほどの会話といい、お前達が、私の番を攫い、殺害して山に遺棄した者だな?」

「えっ⁈ そうなの?」

「六花が死んだと言っていただろ。しかも瞳の色も知っていた。そこまで詳しい情報を知っている金の国の者は、六花を攫った男達ぐらいだ」

 金の国に逃亡しただろうと思った相手と、まさかこんな場所で会うなんて。

 嘘でしょ? と思ったのは、この男達もそうだったようだ。

 白龍が話すたびに顔色をなくしていった男たちは、突然席を立ちあがると私を指さした。


「この女は屍人だ! 間違いなく死んでいた。神獣が邪法を使うだなんて! おいっ。この女を牢屋に入れろ!」

「いや、死んでないから」

「嘘をつくな。死んでから時間が経っているのだから、どこかが腐っているはずだ。身体検査を——」

 身体検査を求めるようにわめいた男が、突如後ろに吹っ飛び、壁に叩きつけられた。ドンという激しい音の跡に、ずるずると男が床に崩れ落ちる。

 何が起きたのか分からなかった。

 多分熊を吹っ飛ばしたのと同じ方法だろう。


「私の番を侮辱するとは、よほど死にたいようだな」

「えっ?」

 いつもの白龍の声とは違った。

 白龍は怒ると声が低くなるが、それでも声変わりを迎えていない、少年の音域だ。しかし今聞こえる声は、想像以上に低い。

 振り返れば、白龍が居ると思っていた場所に、背中まで届くぐらい長い銀の髪を持つ青年が立っていた。私より背丈が高く、見上げた顔はどこか白龍に似ている。兄弟と言われれば納得するような相貌だ。

 白龍の兄弟と言えば、どこかに消えてしまったと言われる応龍だ。

 まさか応龍? と思うが、彼の後ろにも白龍の姿がない。


「動くな! 動いたらこの女の顔が見れないものになるぞ!」

 突然現れた、白龍によく似た美男子に気をとられていたために、突如短刀を取り出した男の動きに反応が遅れた。私は腕を回すようにして顔を掴まれ、反対の手で刃物を向けられた。

 別に切られたところで、すぐに治るので私としてはどうってことはない。でもそれを知らない周りが息を飲む。大丈夫だよと伝えたいが口を押さえられてる上に、私の体質を伝えた所為で私以外を人質にとられても大変だ。

 どうにかして抜け出せないだろうか?


「お前……六花に刃物を向けたな」

「うぐっうぅぅぅう」

 息を飲む中、白龍によく似た男だけが、憎悪を煮詰めたような目でこちらを見る。そしてそれと同時に、私の頭の上で呻く声が聞こえた。

 そして数秒後には私を掴む力が弱くなったので、私は男に体当たりをした。するとばたんとそのまま倒れてしまい、慌てて振り向く。

 倒れた男は、口から泡を吹いていた。刃物もすでに手から零れ落ち、首を掻きむしるような動きをしている。息ができないのだろうか?

 顔色がどんどんどす黒くなっていく。


「えっ。大丈夫⁈」

「安心しろ。こいつの顔の周りの空気をなくしてやっただけだ」

「安心できる要素がないのだけど。そんなことをしたら死んでしまうじゃない」

 空気を吸わなければ死んでしまう。水に溺れて死ぬのは、まさに空気がないからだ。

「六花を傷つけようとしたのだから、死んで当然では?」

「いやいやいや。当然じゃないし!」

 怖いから!

 刃物を向けられて怖かったけれど、今度は人が別の意味で怖い。人がこのままでは死んでしまうかもしれない。


「そうね。殺してしまうと、六花ちゃんが人から恨まれる可能性があるわ。人の法に則って裁いた方がいいわよ」

「恨まれても、私が蹴散らせば構わないだろ」

「ずっとそれを続けて番が幸せだと思うか?」

 泡を吹いていた男が突然静かになった。死んでしまった?! と心配したが、胸が上下していたので、どうやら気を失っただけだ。そして息をしているということは、空気が戻ったのだろう。

 私の所為で死ぬ人が出なくてほっとする。


「あの。助けていただきありがとうございました。私、セキ六花リッカと申します。お名前を伺ってもいいですか?」

 正直やりすぎ感はあるが、空気をなくしてくれたおかげで私は助かったのだ。ちゃんとお礼をしなければと思い自己紹介をすれば、銀髪の男はあんぐりと口を開けた。

 そして次の瞬間には、ぷるぷると震え、眦を吊り上げる。

「はあ⁈ 何、とぼけたことを言っているんだ⁈」

 惚けたと言われても、惚けているつもりはない。白龍によく似ているし、やっぱり応龍さんであっているのだろうか?

 白龍の危機に駆け付けた的な?

 でもだったら白龍はどこに?

「頭でも打ったのか? いや。でも修復するから、記憶が飛ぶはずがないよな?」

「えっと。何の話ですか? 忘れたわけではないと思うのですが……。ところで白龍はどちらに?」

 私を心配そうに見降ろした男が頭を触る。

 刃物は向けられたが、頭は打っていないと思う。それとも昨日今日の話しではなくもっと前の話だろうか? それだと、結構よく頭はぶつけていそうだよなぁ。


「どちらにって、目の前に居るだろ。……あー。そういうことか。これも私の姿だ。大きな力を使うかもしれないと思い、この姿をとったんだ」

 大きな力を使うかもしれないから、この姿をとった?

 確かに白龍とよく似ている。白龍が大人になったらこの顔と言われても納得できる美形だ。

「白龍?」

「なんだ?」

 えっ。本当に白龍なの⁈

 大人の姿の白龍を見て私は動揺した。えっ? 大人になれるの?


「白龍はまだ子供じゃ……」

「子供じゃないと言っているだろ」

 うん。その姿なら、どこからどう見ても子供ではない。成人を過ぎたかのような姿だ。可愛いなんて言えない大人の色気がある。

「……じゃあ、普段の姿は?」

「今は気を溜めている最中だからな。小さい方が力の節約ができるからとっているだけだ。龍の姿でも大きさを変えていただろ」

 うん。変えていた。

 いつもは私の肩に乗れるぐらいの大きさだけど、皇宮に行く時は私が乗れるぐらい大きかった。でもそれは私を乗せてくれるために大きさを変えただけで……。えっ? ええっ⁈


「う、嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉ⁈」

 私はとんでもない事実を前に、叫び声を上げた。

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