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三章 一難去ってまた一難?⑥

「白龍には早い? だとしたらいつになったらいいと、六花ちゃんは思っているの?」

 私と白龍の子供の話になって、白龍の年齢を理由にかわしてみたが、何歳になったらと言われると私も分からない。

 白龍が大人になったころには、私の家から巣立っているはずだし、いつまでもその手の話はしなくてもいいと言うのが私の正直な気持ちだけれど……。


「白龍はいつが成人なの?」

「神獣に成人というものはないな。それは、人間が決めたものだ」

 確かに成人というのは人間が決めたものと言われるとその通りだ。他の動物が成人を祝うなんて聞いたことがない。

「そもそも白龍は六花ちゃんより、ずっと年上よ? 何百年と卵の中で過ごしていたのだから。神獣は卵から孵れば一人前よ?」

「番候補が触らなければ孵れないというのは、逆に言えば孵ってすぐに番になることができるということだ」

 一人前と言われてもなぁ。

 白龍の姿は私の腰ぐらいだ。一人前と言われても、庇護欲しかでてこない。


「もういいだろ。こういうことを他人にとやかく言われたくはない」

「わかったわよ。でも私達は子ができないから……」

 白龍がきっぱりと断ってくれたおかげで麒麟たちは引き下がったが、りんは少し不満げに口を尖らせた。

「子ができない?」

「私と麒は近すぎる存在だからね。麒麟は私と麒で完結している存在として生み出されているから、すぐに孵ることができる代わりに次代がないの。この間一緒に六花ちゃんに会いに来た、鳳凰もそうよ」

 人でも結婚しても子に恵まれないこともある。

 この手の話はとても繊細な話だ。周りはできるのに自分はできない。当たり前のようにできると思って結婚していて、周りも当たり前のようにできると思っていたのにできない時。

 それはとても複雑な気持ちになるはずだ。それを告白させてしまうとは。

「……すみません」

「気にするな」

「そうよ。これは天が決めた理で、私達は最初からそういうものだと分かっているから。鳳凰も同じよ。だから白龍が孵ったと分かったら、新しい神獣の誕生に嬉しくなっちゃって、連絡なく遊びに行っちゃったのよね」

 なるほど。あれは浮かれていたからか……。

 突然、家に麒麟と鳳凰が降り立ちとても驚いた。


「神獣様以外が六花ちゃんの子供を気にするのは違う理由だと思うよ」

「そうなの?」

 実を言うと、滞在中にこの手の話を皇太子殿下からもすでにされている。その時も白龍が幼いので……と話を濁した。

 小春のおかげで、麒麟の子供問題という繊細な話からそれることができて少しほっとする。

「そうね。皇帝たち人間はちょっと思惑が違うわね」

「どう違うのですか? 結婚したら聞かれる定番の話題かと思ってたのですが……。

 思惑とか考えたこともなかった。

 まだ白龍が小さいのだから、もう少し話題を考えて欲しいなと内心思っていたぐらいだ。

 

「そうだな。まず龍と人の子は、卵で産まれれば神獣に、人の姿で産まれた場合は神通力を多少持った人間となるのは知っているか?」

「いいえ。今、初めて聞きました。神通力を持つというのはどういう状態なのですか?」

「……白龍ちゃん」

「説明する時がなかったんだよ」

 麒麟が咎めるような目で白龍を見たため、白龍がたじろぐ。確かに番になる気がなかったので、こういう話をする機会もなかった。

 でも一応、ここでは番ということになっているので、もし結婚して子ができたらの話をなにも知らないのはまずいかもしれない。

「ごめんね。白龍、教えて貰ってもいい?」

「神通力を持つということは、修行をせずとも仙人の力を持っているということだ。世代を経るごとに、神通力は消え、仙骨を持つだけの人が時折生まれる程度になる。つまり六花みたいな状態だな」


 なるほど。応国の始皇帝は神のような力があったという伝説があるのは、そういうことなのか。

「つまり白龍と六花ちゃんの子供は、神獣か神通力を持った人なのが確定しているの。神獣がいれば国が落ち着くし、神通力を持った子ならばが自身の子と番ってくれれば、その子供にも期待できる。そうでなくても家臣として取り込んでおいて損はない存在なわけ」

「うわぁ……」

 子供の意思を無視した未来設計に、私は皇宮は怖いところだと再認識する。


「それに応国のように、白龍が子孫を見守るために残り続けてくれるかもしれないからな」

「私は絶対そんなことはしない」

「応龍も最初はそんなつもりなかったのよね。でも三百年も留まった。だからもしかしたら留まってくれるかもしれない種をまくだけなら損はないということよ」

「六花がここで優遇されるのは当たり前なのだから、難しいことは考えず、ここでの生活を楽しめばいいということよ」

 平民にも関わらず、私が六花公主と同じように色々優遇されている理由は、とても不本意だが分かった。

「でもなんだか、子供を担保にして借金をする感じで嫌だね……」

「子どもは親の【物】だから仕方ないわね。可愛くて大切にしていても、必要であれば利用する。少なくとも、私の周りはそうだったわ。どれだけ可愛がっていても、女は政略結婚の道具だし」

 小春はそういう考え方に慣れているのか、平然としている。

 そもそも小春自身が政治の道具で嫁ぎに来たのだ。そういうものだと幼いころから言い聞かされているから拒否感が少ないのだろう。


「ご歓談中失礼します。金の国から六花公主にお会いしたいと使者がやってまいりましたが、どのようにいたしましょう?」

「金の国から使者ですって?」

 金の国からの使者という言葉に小春は嫌そうに眉をひそめた。

 無理もない。小春が山で遭難したのは、元をたどれば金の国の者が小春を土の国に嫁ぐ道中で暗殺しようとしたからだ。

「どうしてもお伝えしたいことがあると言われ、金の国の皇帝からの文も携えております」

「……そう。皇帝からの文まであるの」

 小春からしたら虐待まがいのことをされて育てられた上に、嫁ぐ道中で殺そうとした金の国にいい感情はないだろう。

 しかし理由なく皇帝からの文を無視することもできないようだ。元々国をまたいで婚姻をするのは、互いの懸け橋になるためでもあるのだ。その役目を放棄すれば、小春のここでの存在意義に関わってくる。


「……正直、会いたくはないけれど、会わなければ婚姻を破綻させられる可能性もありますわね。仕方ありません。お会いします。六花、ごめんなさいね。すぐに話をつけてくるつもりだけど、またお茶は仕切り直しをしましょう。お菓子はそのまま食べていて」

 小春は六花公主の顔となり、申し訳なさそうな顔で微笑んだ。私はそれに対し首を横に振る。

「小春、大丈夫そう?」

「流石に白昼堂々真正面から襲ってくることはないと思うから大丈夫よ。心配しないで」

 殺されかけたのだから、本当は不安なはずなのに、小春はそれを見せずに亭を出て行った。


 私はお菓子を残すのも勿体ないので、そのまま神獣たちと茶会を続けた。

 とはいえ、小春が心配だ。

「先ほど小春も言っただろ。金の国の使者を名乗って小春を害することはありえないと。後は自分でなんとかするはずだ」

「そうなんだろうけどさ。金の国でいい扱いされてなかって言ってたじゃない? そもそも、どうして皇帝は六花公主を殺さなかったんだろ」

「六花ちゃん、過激ねぇ」

「いや、違います。小春が殺されて欲しいと言っているんじゃなくて。金の国では謀反があって、六花公主の父親は殺されたじゃないですか。その場合禍根を残さないよう、前皇帝の子は処刑されてもおかしくないと思って。実際、応国は処刑されましたよね?」

 応国は皇帝が殺された後、妻子もみな処刑されたとされてる。

 もしも同じような対処をとられて入れていたら、小春が連れ去られて六花公主になることを強要されることはなかった。

 でも小春が六花公主ではないと言うことは内緒なので、慌てて六花公主が死ねばよかったという意味じゃないと否定してみるが、だったらどういう意味だと言う感じで頭を抱える。


「まあ、普通ならそうね。一応金の国の新しい皇帝は、天に指名された慈悲深い者だから罪のないものの命はとらなかったとされているわ。でも最近別の理由がささやかれているの。実は新しい皇帝の子は一人も生まれていないの」

「は?」

「何らかの問題があるために、血のつながりのある、前皇帝の子を残したのではないかという噂があるわ。とはいえ、男児はまだ赤子だった末子以外の男児は処刑されているのだけど」

 まさかのそっちの問題か……。それならば、問題ない者は残すしかなかっただろう。政略結婚など考えたら、ある程度の女児は欲しいところだ。

 なんとも身勝手な話だが、納得はできた。


 ふむふむと私の知らない金の国について聞いていると、再び六花公主付きの侍女がこちらへやってきた。

 何か忘れものでもしたのだろうか?

 彼女はその場で膝をつくと、頭を下げた。

「白龍様及び番様にお頼み申し上げます。どうか、私の主のために、金の国の使者に会っていただけないでしょうか?」

「……人の身でありながら、私を政治の道具とするつもりか?」

 震えながら話す彼女に、白龍は不快感をあらわにし睨みつけた。侍女は膝をつき頭を下げているので、小さな白龍でも見下ろすような形になる。

 そうでなくても威圧感があった。


「そっ……そのような意図はございません。しかし、その。金の国の使者は、六花公主が白龍様の番であるので、この婚姻は破棄すると言ってるのです!」

「はあ?!」

 白龍の威圧に負けず、侍女は金の国がとんでもない勘違いをしていることを伝えるのだった。

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