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三章 一難去ってまた一難?④

 しばらくすると、皇太子が神獣たちと共に部屋へ入ってきた。

 流石にだらけたままではいられないと、小春に倣って立ち上がり礼をとる。


「椅子に腰かけたままでいい。ここは私的な場として用意した。直答を許すので、そんなにかしこまらず話してくれると助かる。まずは率直に、正しい情報が欲しい」

 かしこまらずにと皇太子に言われたんですけど、どうしたら?

 皇帝よりはましだけど、てっぺんから数えた方が早い人だ。そんな人にかしこまらずに話す……いや、でも、皇太子すら敬語になる神獣相手に、すでに普通に会話してしまったっけ。

 今更過ぎたかもしれない。そもそも、皇太子と私は住んでいる場所が違うので、この件が終れば早々会うことがない相手だ。ここでの会話が不敬とされないなら、多少の失敗は全く問題がない。


「まずは番殿に自己紹介をお願いしてもよろしいだろうか?」

「はい。私はセキ六花リッカと申します。この度はお招きいただきありがとうございました」

「一応は麒麟様と白龍様から話を聞いた。まず始めに私の妻となる予定の六花公主を助けて下さったことに感謝を申し上げる」

「いえ。私も遭難していたので、正確には白龍が助けたでいいと思います」

 同じく遭難者だった私が助けたと言われると、かなり語弊がある気がする。

「私は六花が助けたいと言ったから助けたに過ぎない。六花が言わなかったら放置した」

「分かっております。ならば、自身も山で遭難している中、六花公主へ手を差し伸べてくれたことに感謝させていただく」

「あっ、いえ。人として当然のことをしただけです」

 困った人が居たら助ける。

 それは人として当たり前のことだ。

 小春からすでにお礼を言われているのに、さらに他者からも褒められるとむず痒い。


「謙虚な方だ。だからこそ白龍に選ばれたのかもしれないな」

「それは違う。龍の番とは生まれた時から天に決められたものであり、精進したところで変わるものではない。彼女が優しいのは、彼女自身の育った環境と善性によるもの。だからこそ、そんな彼女を傷つけることは許されない」

「その通りです。そもそも神獣は人がどうこうできるものではございません。それなのに金の国の愚かなる者が我が国で番様に申し訳ないことをしました。我が国は番様が害されないようお守りし、国内に犯人が居るのならば見つけたいと思います」

 これってやっぱり、私がすでに番になってると思われているよね? 番様という言葉に【仮契約中の】という言葉が隠れている感じがしない。

 嘘はよくないので否定したいところだが、何も言うなとばかりに白龍がこちらを見てくる。……後でちゃんと理由を教えてよと思いながら、ニコリと私は笑って誤魔化した。


「番様がつつがなく暮らせますよう、使われていない後宮の建物にお部屋を設けました。【後宮】という場所のためご不快に思われるかもしれませんが、後宮は中に入れる者が厳しく制限される場所です。皇宮内で最も安全な場所で番様が過ごせるようにと考えての配置ですのでご了承下さい。また番様が過ごされる部屋は、白龍様の許可がない限り皇帝でも立ち入れない場所と決めました」

「うむ。当たり前だ」

 いや。当たり前じゃないよね?

 皇帝だよ? この国で一番偉い人だよ。その人の行動も制限するってどうなの?

 そう思うが麒麟ですら、当然のことという顔をするので、私も何も言わない。だって、実際に皇帝にたずねてこられても困るし。


「その他、必要なものは随時ご準備しますので、宮女に声をおかけください」

「あの。私は、いつまで滞在することになるのでしょう?」

 ライに安全な場所にいて欲しいと言われたから来たが、ライだけ、いつまでも村に置き去りにしたくない。木工細工の納品だって、私がいないと滞ってしまう。

 それに本当は白龍の番ではないのに、こんな風に好待遇をされると、騙しているようで居心地が悪いのだ。できれば早めに家に戻りたい。

「私としてはいつまでもいて構わないが、できれば安全が保障されるまではこちらに滞在して頂ければと。もちろん、番様の行動を制限する気はないので、白龍様が帰ると言われましたら私たちには止められません」

 安全が保障されるまでというのは、犯人が見つかるまでと言う話だろう。でも犯人は金の国の者だし、今ごろ土の国に居るはずだ。わざわざ戻ってくるだろうか?

 戻ってこなければ、捕まえられるとは思えない。

 だとしたら、自分たちで滞在日数を決めないとよね。

 

「しばらくすれば、ここに白龍が留まっているという噂が流れるわ。そうすればきっと帰っても大丈夫じゃない? 金の国は神獣が喉から手が出るほど欲しいでしょうけど、今の国力で土の国の皇宮に忍び込んで白龍を連れ去ろうとするほど無謀ではないはずだもの。そもそも神獣を捕まえると言うのが無理と分かっているから、番である六花を捕まえようとしたのでしょうけど」

 確かにここに滞在していると思わせれば、手出しするのを諦めるか。

 皇宮の暮らしは、村の暮らしと比べるのがおこがましいぐらい絢爛豪華だ。まさかあの村にまた戻って生活しているなんて思わないに違いない。

 皇太子が敬語を使うぐらいだし、神獣は本当に凄い存在で、極貧のあばら家に滞在するような存在ではないのだ。


「それにしても、番様は青い瞳をしていて六花様と言われるのですね。六花公主と並ぶと、まるで双子のようだ」

 皇太子の言葉にぎくりとする。

 現在の六花公主である小春は、殺された私の代わりに連れてこられた娘なのだ。顔かたちは難しくても、瞳の色はできるだけ揃えたはずだ。

「私は六花公主ほど美しくはありませんから、双子と言われると恐れ多いです」

 そう言って私は目を伏せる。

 似通って見えるのは似たような化粧を施されているからというのもあるだろう。明日からはやはり化粧はなしでお願いしよう。

「青い瞳なら私もそうだ。家族なのはその娘ではなく、私と六花だ」

 下手に過去をほじくられるのは困る。

 迷いながら返答すると、白龍が私の言葉に続けた。白龍は私の現状を知っている。だから味方だと言われているようでほっとする。


「確かにそうですな。でも番様もとてもお美しいと思いますよ」

「人の番に唾をつけるような真似はやめろ」

「人の身で番様に恋焦がれるのは恐れ多く、そのような意図はございませんでいたが、ご不快に思われたのでしたら謝罪します」

「い、いえ。大丈夫です」

 というか、美女に囲まれているだろう皇太子が、こんな鳥骨と皮ばかりの女を口説くなんてあり得ない。しかもこの部屋には神獣と呼ばれる絶世の美女と美形がいるのだ。そこに並ぶと、余計に差が酷い。

 皇太子の言葉はどう考えても、白龍を気にしたお世辞だ。

 

「よろしければ、帰宅後もいつでも皇宮に遊びにこれるように、後宮の建物の一つを番様のものとしましょうか? もしくは貴族が使っていた邸宅を番様のものにしてもいいですね。番様には帰宅後も不自由なく暮らしていただきたいと思っております」

「いいえ。そのような大層なものは必要ありません。危険がなくなったら、すぐに家に帰りますし、今後もできるだけご迷惑をおかけしないように生きていきますので」

 ポンと建物を渡そうとしないで欲しい。しかも貴族が使っていた邸宅って、絶対広くて管理しにくいやつ。

 白龍が勝手にうなずく前に、私は皇太子を真っ直ぐ見てはっきりと断った。……皇族の金銭感覚を疑うわ。


「番様は無欲な方だな。六花公主を助けてくれたのだから、もっとこちらに要求して下さって構わないのだが……。屋敷より金貨の方が好みだろうか?」

「いえ、本当にいりませんので」

 怖い怖い。

 皇宮で贅沢三昧したら、後からの反動が大きそうだ。

 慣れ過ぎないように気をつけよう。

「では本日はお疲れでしょうし、夕餉はお部屋にご用意しますので、そちらでお食べになりお休みください」

 私が疲労していることに気がついて下さったようで、私はようやく解放された。


 私に用意された部屋は、白龍も一緒に泊まれるように手配されていた。白龍は部屋に入るなり、小さな小龍の姿になる。部屋の中は落ち着けるように、宮女も勝手に入ってこないようになっており、必要な場合は鐘を鳴らすことになっていた。

 正直ありがたい。

「そういえば、白龍はその小さな姿と大きな姿、どっちが本当の姿なの?」

 まさか私を背に乗せて空を飛べるほど大きくなれると思わなかった。

 彼は色々姿を変えるが、本当の白龍はどれなのだろう。


『どっちが本当というものはないな。今は大地から気を得て、力を溜めている状態だから、力をあまり使わずに済む小さな姿を選んでいるだけだ。力が溜まれば大きな姿で居続けることもできるが、人の世界で生活するには大きいと邪魔になるから、力が溜まってもこの姿でいることの方が多いだろう』

 麒麟よりも大きな体では、建物の中に入ることもできない。

 この大きさの違いというのは、白龍からすると姿を変えているという意識もないのかもしれない。どちらも白龍なのだ。

「そういえば、私のことを白龍の番扱いにしていたけど、嘘をついてしまっていいの?」

『……六花は番候補なのだから、嘘ではない。それに私と番ではないなどと言えば、手籠めにされてしまうぞ。力のある人間は、神獣と仲の良い人間をできるだけ取り込みたがるんだ。神獣が留まってくれる可能性が高いからな。こんな場所で神獣の私が家族だと言いながら、番ではないと言ったら、とんでもないことになる。それとも六花はそれを望むのか?」

 私は慌てて首を横に振った。

 後宮の一員になるなんて絶対に嫌だ。


「白龍、守ってくれてありがとう。私は皇帝の妻になんてなりたくないわ。だから申し訳ないけれど、ここでは番ということにさせてもらうね」

 自分の意思とは関係なく、周りの圧力で、後宮に閉じ込められてしまった母。

 それでいて、雑に扱われつづけ、最期は殺された。私はどれだけ裕福な暮らしができると言われても、そんな生活は嫌だ。

 番であると名乗ることでそれを回避できるのならば、ありがたく使わせてもらおう。

 こうして私は、気が抜けそうにない、土の国の皇宮生活を始めた。

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