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三章 一難去ってまた一難?②

「まあ、俺達も人間に思うところはあるが、俺たちが去ったった後どうするかを自分たちで考えて婚姻を結ぼうとしたというのなら歓迎する。ようこそ。金の国の公主よ」

 麟が人の怠慢をぼやいていたが、麒は小春を認めてくれたようだ。

 これならば、小春を土の国の皇子のところまでは連れて行ってくれるだろう。


「だが神獣を得るために番を連れ去ろうとするのはいただけない」

「そうね。神獣を自分たちがどうにかできるという思い上りは正すべきだと思うわ」

 うまく話がまとまったと思ったのに、また話が私の方へ戻ってきた。剣呑な様子にひやりとする。

 別に私を害した相手に天罰が落ちても、それは自業自得だ。そこまで心配してやる義理はない。

 でも神獣の力のかけらを何度か見ているうちに、彼らが何かをやろうとすれば、被害の規模は私を攫った者だけにとどまらない気がしてしまうのだ。


「えっと。でもうまくいかなかったわけで……」

「六花殿を殺したと思い遺棄をしたのだろう? それはうまくいかなかったとは言わない」

「そうね。犯人は我らを恐れているわけではなく、偶然自分で成功の芽をつぶしてしまったから諦めただけということ。きっと我らを家畜と勘違いしているのでしょうね。自分の思い通りにできる相手だと」

 口調は優しい。

 怒鳴りつけたり鼻息荒く話したりしていない。でもどうしてだろう。悪寒ゾクゾクが消えない。

「きっと六花ちゃんが生きてると知れば、また同じことを繰り返すのではないかしら? 人間は罪に対して罰がなければ、法を守らない生き物なのでしょう?」

 私は気にしないですよと伝えるつもりだったが、そういう問題ではないようだ。

 これは神獣として、人間が神獣をいいようにあやつれると勘違いするのは許さないという話なのだ。そして麟が声を荒げないのは、人を対等に見ていないためだ。

 人は虫が何か不都合なことをしても、それをやった虫そのものに怒鳴ることはない。ただ踏みつぶしたり殺すだけだ。そして彼女にとって人間はそれと同じような存在なのだ。


 私は今にでも神罰を下さんとしているような麒麟を前に、どうしようと白龍を見る。あまり大きな規模のやり返しは困る。

 私の視線に白龍は力強く頷いた。

 よかった。神獣の白龍が言えば思いとどまってくれるかもしれない。少なくとも、私の説得よりも聞いてくれるだろう。

「待て。この件は私の問題だ。今回連れ去られ、恐ろしい思いをしたのは私の番候補である六花なのだから」

「……まあ、その通りなのだけど。ならばどうする気?」

「六花を家の中に入れ、誰一人六花に近寄らせない。そして攫った者がそのことに気が付き近寄ってきた時に、天罰として雷を落とす。さらに親族にも同じ罰を与え、金の国の者には——」

「待って。ちょっと、待って。白龍、ちょっといい?」

 気持ちが通じたと思ったのは私だけだったようだ。

 私は少し麒麟達から距離をとり、打ち合わせをするために、手招きをした。

 家族のように仲良くなれたと思ったけれど、種族が違うのだから、意見が食い違うこともあるだろう。うん。近い関係であるからこそ、思い込みで突き進むのはよくない。


「なんだ?」

「まず、私を守ろうとしてくれるのはありがとう。でもずっと家の中に閉じ込められて、白龍以外に会えないなんて嫌よ。あと、罪を犯した人までは仕返しをされるのは仕方がないと思うけれど、親族にも同じ罰というのはやりすぎだし、ましてや金の国の人が全員で償う罪ではないと思うの」

「なんだ? 人間は罪を犯せば一族全てに罰が下され、お互いに罪を犯さないように見張り合わせると聞いているぞ?」

 きょとんとした顔で聞かれたけれど、全然内容は可愛くはない。

「確かに世の中には族誅ぞくちゅうという罰があるのは知っているけれど、私はそういうのはどうかと思うの。だって何にもしていないのに、全然面識のない縁者が罪を犯したら、処刑されるということでしょ? 絶対嫌だわ。そして私はそんなことで恨まれたくない」

 金の国で前皇帝を討ったのに、前皇帝の子を処刑しなかったのは異例だ。普通は皆殺しにされる。土の国でも、大きな罪を犯すと族誅が行われていると聞く。

 だから金の国の宝物庫で、長い間世界を見続けて来た白龍にとっては、それが人のやり方だと思っても仕方がない。

 でも私は嫌だし、そんなことで知人を失った人に恨まれたくもない。


「六花を恨んでも、私が返り討ちにするが?」

「そんなことをしたら、白龍を見るたびに、私のせいで死んだ人を思い出すと思うの。それを繰り返せば、いずれ私は白龍を真っ直ぐ見れなくなるわ」

 すべては私のためにしたことだと頭で理解しても、感情が付いて行かないと思うのだ。

「……そうなのか? 自分をいじめた相手を殺したらすっきりするものではないのか?」

「私は違うわね。私にとって命を奪うという行為は、重すぎるの。特に実際に私の命を奪おうとしてきた相手以外は自業自得ですらないじゃない」

 嫌なことをしてきた相手を一発殴る程度なら、私も納得ができる。でも嫌なことをしてきた相手の親兄弟を皆殺しにし、その復讐に来た親友も皆殺しなんて、どう頑張っても呑み込めない。 


「分かった。……命はとらない」

「ありがとう。そうしてくれると嬉しいわ。あっ、白龍と話はついたので、仕返しとかは麒麟さんからはなしでお願いします」

 白龍が折れてくれてよかった。

 私はほっと息を吐く。白龍が私からの好意にどれぐらいの価値を持ってくれているか微妙だったが、私が白龍が真っ直ぐ見れなくなるのは嫌なのだ。


「白龍が後始末をするというのならば我らは手を出さないから、安心するがいい」

「ありがとうございます」

 麒麟も一応の納得は示してくれてよかった。

「でも犯人が分からないから、六花がまた攫われるかもしれないということよね。ここに白龍がいることはまた知られるだろうし」

 小春が心配そうに私を見る。

 殺したと思った相手が、普通に生活していたら……もう一度攫いに来るかは分からないが、自分の罪が暴かれるかもと恐怖するはずだ。

 だとすると、犯人はここにまた戻ってきて、今度こそ確実に殺そうとしてくるかもしれない。

 ……でも早く解決させるには、おとりになるのもありか。


「六花。囮になればいいとか、ろくでもないこと考えていただろ?」

 できるだけ早く問題を解決させようと考えていると、白龍に指摘されてぎくりとする。

 何故分かった。

「白龍も心が読めるの?」

「私にはそういった能力はないが、六花の顔を見れば分かる」

 えっ。そんなにわかりやすい顔をしていた?

 私は自分の頬に手を置いた。


「それなら私と一緒に土の国の皇宮に来ない? そこに白龍が現れたという噂が流れれば、攪乱することができるし、一緒に武官に守ってもらえば六花も安全だと思うの」

「そんなことできないよ。私は大丈夫だから」

 死なないし。

 でもあまりそのことを大っぴらに言うわけにはいかなくて悩む。言わないせいで、死ぬかもしれない恐怖にたえる健気な子みたいになってしまっている。


「お願いよ、六花。私は六花に恩返しがしたいの。あの山で六花が私を助けると判断してくれなかったら間違いなく死んでいたわ。白龍様に出会ったとしても、彼は私を助けなかったでしょう?」

 確かに白龍は金の国の六花公主を知っていたようで、口には出さないが、警戒をあらわにし、一緒に連れて行くことにも難を示していた。

 私が居ない状態で、白龍と小春が出会ったとしても、一緒に下山をするかと言われると……正直難しいそうだ。白龍はきっと小春を無視する。

「でも平民の私が皇宮に行っても門前払いよ」

「それはないな。白龍の番を門前払いなどにする阿呆はいない」

「そうね。神獣の力を借りることができなくても、神獣が滞在する土地は、大きな災害は起きないと言われるもの。大歓迎でしょうね」

 そうだろうか?

 私が誘いにのったとしても、白龍が絶対ついてくるわけでもないのに……。

「あっ、それなんですけど。私、番候補なのですが、番ではないです。契約も仮契約なので」

「えっ。仮?」

「……嘘でしょ?」

 私の言葉に、麒麟二人は何故か呆れた顔を白龍に向けた。

 でも番を作らず、自由を謳歌するのを選択するのもありだと私も思う。婚姻だけが幸せではない。


「……強がっていると、後で後悔するわよ」

「いえ。別に強がりじゃないですから。仮契約でも私にとっては十分な恩恵でしたから。白龍がこの世界に慣れるまで、私のところに居て、その後旅立っていくのもいいと思うんです」

「強がりと言うのは、六花ちゃんに対してじゃないわよ」

 麟は頭を押さえてため息をついた。

 私ではないのなら白龍だが、白龍こそ後悔なんてしないだろう。やっと卵の中から自由になれたのだ。人間と同じでしばらくは婚姻など考えず、自由気ままに生きたいに違いない。

 私が死んだ時にはちょっとぐらい寂しく思って冥福を祈ってくれると嬉しいなとは思うけど。


「六花が番ではなく、番候補でも構わないわ。そもそも私を助けてくれたのだから、六花は私の恩人よ。恩人なのだから客人として招待できるはずよ。私は貴方にお礼がしたいの。それに私も金の国の人間に暗殺されかけて怖かったから、六花が一緒に居れば安心できるわ。今、この国で一番信頼できるのは六花だもの」

 小春の言葉に、私はライを見る。

 ライの見た目だと間違いなく、皇宮では浮くし嫌がられる気がするのだ。そうするとライが傷つくことになる。

「俺はここに残る。六花は白龍を連れて、一度皇宮に行く方がいい」

「何で⁈ 私はライと離れないよ?」

「俺が行くと騒動になる。だが六花の身を守るなら、皇宮の方が安全だし、白龍がそこに居ると宣伝すれば、こっそり六花が村に戻ってきても大丈夫だろ。ついでにその龍を皇宮に捨てて来ても構わない」

「私は捨てられないからな!」

 確かにこの村でまた襲撃があれば、今度は村人の誰かが巻き込まれないとも限らない。

 だとすると皇宮で待ち構えた方がいい。白龍がそのまま皇宮に留まり続けるかは分からないが、村にいるだけよりもこの世界を色々知ることができる。

 だとしたらここは小春の好意に甘えさせれもらおう。

「それなら、数日だけお世話になってもいい?」

「もちろん。心強いわ」

 こうして私は、帰って早々、土の国の皇宮に行くことになった。

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