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三章 一難去ってまた一難?①

「埋められたってどういうこと⁈ しかも攫われたって⁈」

 顔色をなくして、小春が私の腕を掴んだ。

 あー、そう言えば、攫われたことも小春には言っていなかったっけ。

 たしか遭難しているところ、弟に迎えに来てもらった情けない姉な説明だったはずだ。……それもあながち嘘ではないけど。


「ごめんなさいね。私達が白龍に会いに行ったから、たぶん金の国の人間にまで伝わってしまったのね。あの国は、騶虞すうぐが立ち去ってしまった後しばらく神獣がいないから欲しているようなの。きっと白龍の番を攫って白龍を自国に呼ぼうと思ったのでしょうね」

「白龍の番?」

 麟の言葉を、小春が茫然とした様子で鸚鵡おうむ返し、私と白龍を交互に見る。

 小春の前で白龍は熊を吹っ飛ばしたので人間ではないと思っていただろう。でも人型をとっていたこともあり、神獣だとは思いもしなかっただろう。


「小春、ごめんね。土の国の貴族に伝えると厄介なことになるかもと思って言わなかったのだけど、白龍は神獣なの。ただ私は番ではなくで、番候補。今は仮契約だけをしているだけだから、私を金の国に攫ったところで、白龍が留まってくれるわけではないのだけどね」

 仮契約は私が知らない間に結ばれたものなので、たぶん解約も一方的にできると思う。だから私を攫ったところで意味がないのだけれど、そんなこと知るはずもないから、そういう案が出てしまうのだろう。

「……それはいいの。出会ったばかりの人間を信用できないのは当然よ。でも埋められたってどういうことなの?」

「薬をかがされ眠ってしまった後、たぶん布団にくるまれて荷物の様に運ばれていたの。でもなかなか 目を覚まさなかったことで、私が死んでいると勘違いしたみたいで、山のくぼみに置いて、葉を被せて隠したみたいで」

 丁度山菜をとりに来た人がいたので、あの場所は金の国の村に近い場所だったに違いない。いつまでたっても目を覚まさない私を見て、攫った人物は状態を確認したのだろう。

 その時心臓が動いていないと気が付き、死んでしまったと思い、隠すことにしたのだ。浅い場所だったのは掘るような余裕もなく慌てていたのかもしれない。遺棄現場を誰かに見られるわけにはいかないのだから。


「そんな……酷い」

「まあ、浅い場所に遺棄されていたおかげで抜け出すことができてよかったんだけどね。それに死んでいると勘違いされてなければ、今頃金の国のどこかで閉じ込められていたかもしれないし。小春と会ったのは、家に帰るために移動していたところを白龍に見つけてもらった少し後よ」

「ごめんなさい。金の国の者がそんなことをしたなんて……」

「小春のせいじゃないわ。それに小春も暗殺されそうになったわけだし」

 私を攫うことを計画したのは小春が住んでいた金の国の誰かだろう。でも土の国へ嫁ぎに行く小春ではないのは明らかだ。

 全員ではないが、金の国は物騒な手段をとる人が多いみたいだ。

 これで土の国より気高いと思っているのが救えない。いや、物騒と気高いは同居できるか。


「あっ。そうだ。麒さん、麟さん。こちら、金の国の六花公主様です。土の国の皇子に嫁ぎにきたようなので、皇宮まで連れて行っていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ? 彼女が六花公主? 金の国から輿入れはあると聞いていたけれど、どうしてこんな場所に?」

 麒麟の方にも皇子への輿入れの話しは伝わっていたようだ。

 よかった。これなら話が通りやすい。

「彼女とは山の中で会ったのですが、どうやら輿入れ途中で暗殺されかけて、山に逃げ入ったようなのです。彼女の話を聞いていただけますか?」

「……ええ。分かったわ」

 チラッと麟が白龍を見て、白龍が頷く。

 白龍は元々金の国の宝物庫に居たので、彼女が本当に六花公主なのかの確認だろう。


「小春、麒麟さんに話してくれる?」

「あ、うん。……お初にお目にかかります、神獣様。わたくしは金の国の皇帝の養女、シン 六花リッカと申します」

 小春は麒麟たちの前に一歩踏み出し膝をつくと、前で手を重ね頭を下げた。……えっ。もしかして、神獣にはこうやって敬意を示さなければいけない存在だった?

 白龍が鶏の卵から孵ったと思ったせいもあって、そんなこと考えてもいなかった。麒麟には一応敬語を使って話はしているけれど。

 自分がもしかして礼儀知らずだったのではと思い、冷や汗が出る。

 でも白龍も麒麟も何も言わなかったし……。


「この度、金の国と土の国の盟約により、土の国からの食糧支援を受ける代わりに金の国は私を差し出すことを決めました。後に金の国の血を引く土の国の皇帝の子を作るためです。しかし金の国は土の国の皇帝を農王ノウオウ……農民の王と貶め、その皇子との間に金の国の皇族の血が流れる子ができるのをよしとしませんでした。その結果、食料支援のみ得たい金の国の者は、私を土の国に入ったところで暗殺し、土の国から賠償として食糧支援を得ようとしたのです」

 金の国の血が入るということは、後々の継承権にもかかってくるからなのだろうけれど、それで六花公主を殺してしまえとなるのが恐ろしいなと思う。

 六花公主は現皇帝にとって、書類上では兄の子、つまりは姪な上に、本当は攫って来た子なので血のつながりもない。だからそんな非道な判断ができるのだろうか。いや、血のつながった兄ですら殺したのだから関係ないのかもしれない。

 もしかしたら六花公主の暗殺には関わっていなかった可能性はあるけれど、だとしたら家臣を押さえ切れていないのだから、どちらにしろ皇帝としての能力に疑問が残る。

 それにしても、どうしてわざわざ前王の子を残したのだろうか。慈悲からなんて思えない。


「農民の王か。ふっ。アイツはその卑賎とする名を喜びそうだけどな」

「そうね。そもそも皇帝が王より上とか、勝手に人が決めたこと。そんな言葉で悦に入れるなんて、本当に愚かよね。皇帝も農民もただの人に変わりはないのにねぇ」

 人ではない麒麟は二人とも、金の国の行いを鼻で笑った。

「それにしても人は同族どうして殺し合いが好きよねぇ。この間、応国の皇族を殺したばかりなのに」

「金の国はさらに酷くないか。そのすぐ後、また兄弟で殺し合ったと聞くし」

 二十年前も十年前も彼らにとってはわずかな時間らしい。

 会話を聞くと、その節々で本当に人間とは違う生き物なのだなと気づく。


「愚かしいかもしれないのですが、力がなく、時間も有限である人間は、目的に達するために必死になるからこそでもあるのです。この度金の国が、土の国に盟約を持ちかけなければならなかったのは、神獣がいないからでございます。金の国の皇帝が前皇帝を討ち取った時、騶虞すうぐ様が立ち去ってしまいった後、雨が降らなくなりました。そのため飢饉が起こり、多くの民が飢えております。土の国の皇帝も母が農民である次期皇帝の後ろ盾を欲して、金の国から私を娶ろうと思われたかと。どうぞ、人同士の争いが最小限になりますよう、私を土の国の皇宮へお連れ下さい」

 小春は顔をふせ、全く動かずに麒麟からの言葉を待った。

 しかし小春の言葉は、ところどころよく分からない。


「ねえ、白龍。神獣がいないと雨が降らないものなの?」

 もしもそうならば、神獣が居なくなるということはとんでもないことだ。雨が降らねば米が育たない。かといって降り続ければいいというものでもない。この調整を全部神獣が引き起こしているのだろうか?

「それは違うな。神獣は雨を呼んだり、止めることはできる。でも雨は神獣の力がなくても自然に降るものだ。騶虞すうぐがやっていたのは、人に乞われる度に天候を変え、人が過ごしやすいように調節をしていたぐらいだ。それをしなくなったから、元々のその土地の気候となっただけだ」

「白龍ちゃんの言う通りよ。私達が天候を決めているわけではなくて、乞われた時に人が過ごしやすいように天候を変えるだけよ。だからこそ、人は神獣に慣れてしまうと、努力を怠るようになって困るのよね」

 こっそりと話したつもりだったが、麟にも聞こえていたようで会話に入ってきた。そんな麟は、困ったわと言う様に頬に手をやり首を傾げた。


「応龍が長く居座りすぎた弊害だな。人は神獣がいるから国となると思っている節があるが、神獣が居ようが居なかろうが国は成立する」

「努力を怠るというのはどういうことですか? 人では天候を操ることなどできないと思うのですが」

「天候は天のもので人のものではないのだから当たり前よ。努力というのは、その土地に合わせる努力ね。日照りが続き水がない土地ならば、それ相応の暮らしをするべきなの。水が少なくても育つ作物を育て、水をできるだけ得る為の工夫と使わない工夫をする。でも神獣がいるとそれを忘れてしまうのよね。願うだけで、暮らしやすくなってしまうから」

 確かに植物には水が沢山必要なものもあれば、そうでないものもある。米はしっかりと水が必要な作物だが、小麦や大豆はそれほどでもないはずだ。もっと少ない水で育つ作物もきっとあるだろう。水が降らない土地で米を育てようとすれば困るのは必然だ。

 私は麟の話になるほどと頷いた。

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