表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/34

二章 旅は道連れ世は情け⑥

 熊に一度襲われてからは、野生の動物に襲われることはなかった。それどころか山の生き物が私たちを警戒しているかのように、妙に静かだ。

 小春も黙って白龍の後ろを歩いている。

 もしかしたら追及して、道案内をしてもらえなくなる可能性を避けたのかもしれない。あるいは山道に歩き慣れていなくて、喋る元気もないからかもしれない。

 長時間歩いて足が痛むのか、動きが緩慢で、足取りが重い。

 白龍の歩幅が小春よりずっと小さいからこそ、なんとかついていけている感じにも見える。


 動けなくなってしまう前に、一度休憩を入れた方がいいだろうか?

 そう思った時だった。白龍が進む先が広がった。

「これで山は終いだ」

「えっ。ここに出るの⁈ うちの村じゃない」

 私が出てきたのは、私が知っている村だった。ただしこんな登山道から外れた場所から出てくる人なんて見たことがない。

 そもそも登山道も山頂までは行けるが、反対側には崖が多い悪路で行けなかったはずだ。


「金の国と面した山で、検問がないのはここぐらいだ。山道が馬車も通れないぐらい細いし、国を跨ごうとすれば、崖も多い。それを避けると、草木の所為で人では道が分からなくなるから普通は使わない」

「白龍はよく分かったね」

「私には千里眼があるから見通せるんだ」

 ああ。卵の中で使っていたという能力か。

 火も水も出せるし、白龍は山暮らしにとても適しているらしい。

「それにあの熊といった獣もそれなりにいるようだ。普通は通り抜けようとすれば、死ぬから検問がないのだろうな」

 普通は死ぬという言葉に、小春が顔色をなくしている。

 最初の茸の時点で止めなければ食中毒で死んでいた気がするので、この山でなくても小春には向いていなかったと思う。


「六花!」

ライ!」

 名前を呼ばれそちらを見れば、磊がいた。大股で歩くライは、ずんずんと私の方へ来て、ガバリと私を抱きしめる。

 ごつごつとして硬いが、私にとって安心できる場所でもある。

「怪我はしなかったか? 一体、何があったんだ?」

「怪我は大丈夫だよ。何があったかは……私もよく分からないんだよね」

 だって気が付いたら埋められていたのだ。

 私の推理では、金の国の役人に攫われたけれど、死んだと思われて、山に遺棄されたのかなと思っている。でも何一つ証拠がない。

 そもそも証拠があったとしても、何もできないだろう。


「よく分からないって、攫われたんだよな? 犯人は?」

「あー……攫われた時に顔を見れなかったから、それもよく分からなくて」

「よく分からないってどういうことだ? 目が覚めた時には犯人の顔を見ているんだろ? 言えないように脅されているのか?」

 殺されたなんて言ったら、絶対激怒するよね?

 犯人捜しをするなんて言い始めたら大変なことになる気がする。何といっても、金の国の領土で遺棄されたのだから。

「いやぁ。目が覚めたら山の中に一人でいたもので……どこのどなたかは分からなくて」

「場所は金の国の領土だから、あっちの国が関係しているのかもしれないな」

「金の国だと⁈」

 シレっと白龍が場所を暴露し、ライが焦った顔をする。もしかしたら私の過去が関係するのかもしれないと思ったのかもしれない。

 でも同じように私も焦る。ここには小春がいるので、昔は金の国の公主だったことを磊が話してしまったら大変だ。


「そ、そうなの。でも白龍が見つけてくれたから怪我もなく大丈夫だったよ。それから、こちら、金の国から土の国に嫁ぎに来る途中に賊に襲われて山の中に逃げ込んだ小春さん。彼女も遭難していたから、山を下りて来たの」

「……自分がどこにいるのか分からない山の中でまで人助けをしていたのか」

「あははは。ごめん。でも見捨てられなくて」

 他にも人がいるよと伝えれば、ライも少し落ち着きは取り戻した。

「それでそのお嬢さんはこれからどうするんだ?」

 ライは私を抱きしめるのを辞めると、小春を見据えた。

 小春は山道を歩いてきたことで多少汚れてしまっているが、綺麗な赤い衣を纏い、髪飾りも刺している。どこからどう見ても、お嬢様だ。

 お嬢様が嫁ぎ先まで、これから一人で移動できるかと言われると……難しいよねぇ。


 換金できそうなものは持っているけれど、金の国の後宮暮らしだと、かなりの箱入りだ。手荒れなどしていない様子を見る限り、炊事洗濯もしたことがないだろう。公主ならば、それが普通なんだけど。

 この村は王都からそれなりの距離があるので、歩いて行くとなると時間がかかるし、宿屋にちゃんと泊まれるかも……。

 ここでポンと放り出して大丈夫かと言われると……私の目には全く大丈夫そうに見えない。


「うーん。どうしよう」

 王都までついて行く?

 簡単に送るよと言えるほど、私もお金持ちではない。それにその場合、ライは留守番だ。白龍も山での様子を見る限り、良い顔をしないだろうし。

「大丈夫だ。土の国の皇子に嫁ぎにきたなら、丁度いい奴らが来ている」

「丁度いい奴ら?」

 白龍が空を見たので私もそちらを見る。するとそこには、金色の二頭の獣が空を駆ける姿があった。

 あれは、麒麟だ。

 村の人が外へ出て、空に向かって手を合わせているのが見える。


「えっ。神獣⁈」

 小春も麒麟の姿を見るのは初めてだったようだ。よほど驚いたのだろう。目を大きく見開き、口をあんぐりと開けていた。

 そんな中、麒麟は地面に降り立つとその姿を溶かす。次の瞬間には金の髪の美しい男女がその場に立っていた。あまりに美しすぎて、内側から光り輝いている気がする。

「やあ、六花殿、久しいな」

「先ぶれなく訪問してごめんなさいね。白龍の神気が土の国から移動したから、どうしたかと思って見に来たの」

「神気?」

「神獣が持つ気のことだ。これがあるから、神獣同士は互いがどこにいるのかが分かる。この間、神獣たちが迷うことなく私に会いに来れたのも、この神気をたどったからだ」

 なるほど。そんなものがあるのか。

 私には見えないが、白龍は千里眼を持っていたりするし、色々私たちとは違うものを見ているのだろう。


「神気で互いの位置が分かるから、神獣は数が少なくても仲良くできるのね」

 人間と違って神獣は数が少なく、神獣の国というものがあるわけではない。そうなるとこの世界で、出会うだけでも大変そうだと思ったが、そうでもないらしい。

「いや、仲良くするためではなく、争いを回避するためが強いと思う。気が合わないもの同士が会わずに済めばそれが一番平和だ。神獣同士で争えば、世界が崩壊しかねないかならな」

「……何それ、物騒」

 仲良くするためと思ったのに、その逆で争いを避けるためだったとは。

 でも山で熊を吹っ飛ばしたような力で喧嘩を始めたら、地形が変わるようなとんでもないことになりそうだ。確かに互いに会わないように避けるのが一番平和だろう。


「でも土の国に戻ってきたということは、問題はなかったのね?」

「いいや。問題だらけだ。私は六花が攫われたから金の国まで迎えに行ったんだ。攫った奴が分からないから、余計に腹立つ」

「えっ。六花ちゃん攫われたの? 大丈夫? 酷いことされなかった? というか、どうやって抜け出してきたの? もしかして白龍が暴れて来たの?」

 りんがぐいぐいと質問をして、私の顔を覗き込んだ。

 女性同士だけど、綺麗すぎる顔を近づけられて息が止まる。

「近い、離れろ!」

「何よ。怪我をしていないか見ているだけじゃない」

「私が仮契約をしているのだから、六花に怪我が残っているわけがないだろ! あと、私は暴れてない。暴れたい気分だがな。六花は攫った奴らのところから自力で逃げて来たんだ」

「えっ。そうなの? どうやって逃げ出したの? 攫った奴らはどうしたの?」

「だから近い‼」

 麟が再び距離を詰めてきたので、間に白龍が入り、麟を押し返す。


「ただ話を聞いているだけじゃない。心が狭すぎよ」

「ただ話を聞くだけなら、距離を詰めるな。どうせ六花が嘘をつけないよう、思考を読もうとかしているんだろ」

「えっ。麟さん、思考が読めるの? 白龍ももしかしてできるの?」

「私はできないし、もできないはずだ。その分、自然を操る力が麟より強い」

 思考を読むということは、考えていることが筒抜けということよね?

 でも近づいてくるということは、何か条件を達成しないとできないということかしら?


「分かったわよ。勝手に読まないから。それで、どうやって逃げて来たの? 逃げただけならまた追いかけてくるかもしれないでしょ?」

「それは俺も聞きたいな。顔を見ていないと言っているが、一体何があったんだ?」

 麟だけでなく、麒やライ、それに小春まで私を見ている。

 ……これは即興で嘘をついても分かってしまうわよね。

 白龍には再会した時に逃げられた理由を軽く話したけれど、白龍からは何も言うつもりはないようだ。……ライが怒りそうだから誤魔化したかったけれど仕方がない。

「実は私、攫った相手に、死んでいると勘違いされたみたいで、布団に簀巻きにされて土に埋められていたの。だから攫った相手が分からなくて……。犯人は私が死んでいると思っているから追いかけてくることもないと思うけど」


「「「「はぁぁぁぁあ?!」」」」


 自分に起こった殺人事件(死んでない)を話すと、白龍以外の全員の声が重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ