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二章 旅は道連れ世は情け④

 白龍が火おこしをし、さらに魚も白龍が獲ってくれたおかげで、私達はかなり快適な野宿をすることができた。本当に、白龍様様である。

「冬じゃなくてよかったね。ちょっと冷えるけど、凍死しそうなほどじゃないし」

 日中は暖かいが、夜は風も出て、結構冷え込む。私は小春と身を寄せ合いながら火の近くで暖をとっていた。でもそれだけですんでいるのだから今日は暖かい方だ。

「……ずっと気になっていたけれど、どうしてそんなに山に詳しいの? 遭難したって言っていたから、普段から山に住んでいるわけではないのよね?」

 特にやることがなくなったからか、小春は疑問に思っていることを聞いて来た。


 うーん。どのあたりなら話しても大丈夫だろう。

 自分が金の国の後宮から逃げ延びたことは、金の国の貴族である小春には言うべきではないだろう。遺体がなかった六花公主があの国でどういう扱いになっているかは分からない。

 小春が気になっているのは山に詳しいことだから……と、話せる範囲を頭の中で計算する。


「あっ。話せないことなら別に……」

「えっとどこから説明しようかなと思っただけで、問題なく話せるよ。私は幼いころに両親と死別したの。その後石の精霊が養父になってくれて、最初の頃は山で生活していたの」

「えっ。精霊に育てられたの⁈」

「うん。珍しいよね。ライは精霊だから人の生活というのがよく分かっていなくて、それで山で生活をしていたの。見た目も人外要素が強くて、なかなか受け入れてくれる村もなかったし」

 ライは母に私を託された後、私が死んでいると思い、山に埋めに来たそうだ。人は死んだら土に埋めるという習慣は知っていたらしい。

 山だったのは、金の王宮からの追っ手を撒く為だ。険しい山ならば人が入っては来ないことをライは知っていた。

 問題は人が入ってこないような山は、私にとっても厳しい環境だということを知らなった部分だろう。


「それで山で暮らしていたのだけど、ライは人間の子育てなんてしたことがないから、かなり行き当たりばったりで。おかげで毒があるものを食べては死にかけて、冬は寒すぎて凍死しかけて、木に登っては落っこちて死にかけて、毒蛇に噛まれたり熊に襲われては死にかけて……とにかく色々体験して慣れていったの」

「えっ。死にかけすぎでは……」

「本当にそうだよね」

 小春はドン引きしていたが、私は笑うしかなかった。実際に、私でなければ死にかけではなく死んでいただろうなことが多すぎた。

「そんな精霊に育てられて大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。そもそもライには悪意なんてなくて、ただ人のことが分かっていなかっただけだから。沢山危険な目には合ったけれど、守ってもくれて、寂しくないようにずっと一緒に居てくれた大切な家族なの。それに今は人の生活を学んで、木彫りの小物を作ったり、木の食器を作ったりして生計を立ててくれているんだから。ライは自慢のお父さんなの」

 誰がなんと言おうと、ライは私の父だ。少なくとも記憶にない、金の国の元皇帝なんて父とは思えない。あれはただの製造元だ。


 私がライの話しをすると小春は黙り込んでしまった。

 血のつながりのない精霊が父親なんて中々受け入れられないのかもしれない。

「……六花は本当に素敵なお父様に育てられたのね」

「うん」

 しばらく黙っていた小春だったが、少し待つと、またポツリポツリと話し始めた。

「山の中で自分だけでも大変なのに、素性の分からない女を助けるなんて……六花がいい子過ぎてちょっと心配だわ。私にとっては幸運だったけれど」

「山で小春がどうこうできるとは思わないからね」

 例えば小春が実は物取りだったとしても、私の方が山に詳しいし、逃げるのは簡単だ。そうなれば小春の方が困るだろう。


「六花ばかりに話させるのは公平ではないわね。私の本名は、実は【六花】なの。小春という名も嘘ではないのよ。六花と呼ばれる前は小春という名前だったから」

「へぇ。そうなんだ」

 となると小春は幼名みたいなものだろうか?

 見ず知らずの相手に本名を名乗るのは危険と思うのは間違っていない。特に小春はかなりのお金持ちのようだし。

 別に名前で嘘をつかれたところでどうってことはない。


「六花というのは、金の国の公主の名前でね、その公主は運悪く五歳の時に亡くなってしまったの。でも公主が死んでは都合が悪いことがあったみたいで、同じ青い瞳だった私が攫われて【六花】と名乗るように強制されたのよ」

「……えっ? つまり小春は、六花公主?」

 私はとっさに白龍の方を見た。

 白龍は知っていたのだろう。小春のとんでもない告白に驚いた様子はない。

 もしかして小春が同行するに嫌そうな顔をしたのは、これが理由だったのだろうか。


「ええ。そう呼ばれているわ。とはいえ、異国人に差別的なところだから、青い瞳に子供をわざわざ探して攫ってきたのに、青い瞳を嫌って目隠しをされたり、部屋に閉じ込められたりして育てられたの。将来的にどこかに嫁がせたいって思いもあったみたいで、体に傷がつくような折檻はされなかったし、手荒れを嫌って炊事洗濯などをさせられることもなかったのはよかったけれど。もしかしたら、この外見だし、西の諸国のどこかと繋がりを作りたかったのかもしれないわね」

 青い瞳の民は、西の国に多いと聞く。私の母もそちらの出身だった。

「でも土の国に行くのよね?」

「ええ。ここのところ金の国は雨がまともに降らないから、多くの農作物が駄目になってしまったわ。だから土の国からの食糧支援が欲しいの。その取引で、私は土の国の皇子に嫁ぐことが決まったの」

 土の国へ行くというのは土の国の皇子に嫁ぐためだった。最初から嫁ぐためとは聞いていたが、彼女が六花公主ということは私と同じ年で、今は十五歳ぐらいだ。この年で結婚がないとは言わないが、早い。しかも土の国の皇子は三十手前ぐらいの年齢ではなかっただろうか?


「なら嫁ぎに行く途中で賊に襲われたのね」

 きっと金の国も土の国も大慌てだろう。花嫁が賊に襲われて行方不明なのだから。

 しかし小春は首を横に振った。

「正しくは、金の国の者に雇われた賊よ。うちの国、矜持が高い人が多いの。それで土の国の皇帝が元は農民だったこともあって見下してるのよ。食糧支援を求めているくせに」

 土の国の皇帝は応国の皇帝を討ち取ってその座についた者だ。元の身分が農民というのも正しく、彼は高すぎる税を正す為、たくさんの農民と一緒に一揆を起した人物だった。

 応国の皇帝を打ち倒した後、彼は新しく皇帝を名乗ったが、身分を理由に納得できない州候や貴族が別の国を名乗って割れてしまったのだ。


「矜持が高い人の中には、私が嫁いで土の国で金の国の皇族の血を継いだ子が産まれることを嫌がっている人もいるの。そんな人は私が土の国に入ってから、嫁ぐ道中で暗殺して土の国に責任を押し付け、賠償をとろうと考えてたの。私はそれを知って、土の国に入る前に馬車から逃げ出して山に入ったのだけど、遭難しかけてしまって……」

 見下している国に嫁がせるのだから生贄のようなものだ。それだけではなく、殺して責任を土の国に押し付けて賠償をとろうとか、人でなしである。


「もちろん全員がそういう考えじゃなくて、一部の過激な人が動いているだけだけどね。流石に人でなしすぎな作戦だし。でも青い目の私相手ならば、そんな人でなしなことを平気でできる人がいるのも金の国なんだけど。本当にあの国は、矜持ばかり高くて嫌になるわ」

 そう言って小春は肩をすくめる。

 私はそれを聞きながら愕然としていた。まさか金の国で私の身代わりが作られた上に、政略の関係で酷い目にあっていたなんて……。


「命を狙われたなんていったらびっくりするよね。ごめんねこんな話をして。でも私、こうなったら絶対土の国の皇子に嫁いで幸せになってやろうと思うの。私が土の国で幸せに暮らすのが、一番の意趣返しだと思うから」

 驚きすぎて言葉にならない私に向けて笑う小春はとても強かった。

 私は彼女に、私が六花公主であったことを伝えるべきだろうかと考えたが、言わない方がいいと判断する。彼女は間違いなく六花公主だ。

 そうでなければ、彼女が苦労した時間はなんだったのかとなる。

「凄いね、小春は」

 せめてこれからは幸せになれるよう、土の国の皇子のところまでしっかりと送り届けよう。

 私はそう心の中で誓った。

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